母親から幼児を取り上げ、逮捕。 NY市警察の対応に非難の声

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激しく抵抗する母親の腕から、複数の警察官が幼児を取り上げ、逮捕する映像がソーシャルメディアに公開され、波紋を呼んでいる。

問題の映像は7日、ブルックリンのボーラムヒルで、フードスタンプの提供や就労支援などのサポートを提供するHuman Resource Administration(ヒューマンリソース局、HRA)の建物内で撮影された。

映像では、4人の警察官と警備員など複数の人物が、母親を取り囲んでいる。「彼らが私の子を傷つけている」と叫び、抵抗する母親に対し、警官は母親の腕を抑えるなどして、子供を強制的に手放させようとしている。その後、事態はさらにエスカレート。激しく抵抗する母親に対し、一人の警官がテーザー銃を取り出し、服従を迫る。母親は後ろ手に手錠をかけられ、室外へと連行される場面で映像は終わる。

その後の発表で、母親はジャズミン・ヘッドリー(Jazmine Headley)さん(23歳)で、子供は1歳であることがわかった。清掃婦のヘッドリーさんはこの日、子供のデイケアのバウチャー(引換券)を求めるため、訪問した。職員の対応は遅く、混雑しており、自分の番を待つヘッドリーさんは、椅子がないために床に座ったという。ヘッドリーさんの母親によると、ヘッドリーさんと子供はドアや通路を邪魔していたわけではないが、セキュリティガードから座らないよう指示を受けた。しかし、椅子がないことからヘッドリーさんが断ったところ、スーパーバイザーが呼ばれ、その後、警察官が呼ばれたという。ヘッドリーさんは、児童への有害な行いや不法侵入、逮捕に抵抗した疑いなどで逮捕された。

Facebookに金曜日に投稿された動画は大きな反響を呼び、現時点で56万回以上再生されている。警察官や施設に対し、事態への対応方法に声が寄せられている。

来年よりニューヨーク州司法長官に就任するレティーシャ・ジェームス(Letitia James)現ニューヨーク市政監督官は、「貧困は犯罪ではない。このビデオに映る警察の対応はひどく、軽蔑に値する。ただちに徹底的な調査が行われなければならない。いかにしてこの恐ろしい状況に至ったのか、結果を公にし、説明責任を果たさなければならない」と調査を呼びかけた。

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ブルックリンのエリック・アダムズ(Eric Adams)区長は、群衆や子供にテーザー銃を向けるなどした警察官の対応に疑問を呈するとともに、センターを訪問し、アクションを求めることを発表した。

ニューヨーク市警察のオニール本部長(James O’Neill)は、父親として、本部長として心が痛む、と述べるとともに、混乱した状況で、警察官による一連の判断がどのように下されたか、調査をすると発表した。

容疑は全て取り下げ、釈放へ。

ビデオが大きな話題となった翌日の11日午後、ブルックリン地区エリック・ゴンザレス(Eric Gonzalez)検事長は、彼女に対する全ての容疑は取り下げられるだろうと述べた。
クレイグ・ウォーカー(Craig S. Walker)判事は、ヘッドリーさんを釈放するよう命じ、同日夜、5日間拘留されていたライカーズ島の刑務所より釈放された。

ニューヨークタイムズによると、ヘッドリーさんには2016年、ニュージャージ州マーサー郡でクレジットカードの盗難及び、個人情報取引の容疑で訴追されていたが、マーサー郡上級裁判所に出頭しなかったため、逮捕令状を発行していた。ヘッドリーさんはこの件で12日、裁判所に出廷する予定だという。

ブルックリンのディフェンダーサービスは、この件についても容疑を取り下げるよう、現在裁判所に働きかけを行っているという。

警察官の訓練が不十分の声も

2014年スタテンアイランドで、黒人男性のエリック・ガーナー(Eric Garner)さんが、警察官によって羽交い締めにされ、窒息死させられる事件が発生した。この事件を受け、ニューヨーク市は2015年より、事態を沈静化させるデエスカレーションと、暗黙のバイアスに関する大規模な教育を実施すると発表した。

今回の逮捕事件を受け、NYタイムズでは、警察官に対する教育が不十分なのではないかという意見も出ている。ウェブメディアのVOXは、マリファナの非犯罪化などの実施で、有色人種のコミュニティとの信頼確保に努めようとする警察にとって、溝が深まる事件となったと述べている。