過去数十年の大統領の慣例を破り、納税記録の公表を拒み続けたトランプ氏だが、法廷闘争の末、記録の入手が認められた下院の歳入委員会によって、その一部が公開された。内容をめぐって米メディアが、さまざまな分析を示している。

公開されたのは2015年から2020年の記録で、それによると2015年と2016年、2017年、2020年の連邦所得税の課税所得をゼロと申告していた。

  • 夫婦合算の2015年の所得金額の合計は、マイナス3170万ドルで、課税所得ゼロ、ただし、二人で連邦所得税64万1,931ドルを支払った。
  • 2016年の所得はマイナス3120万ドル、課税所得ゼロ、支払った所得税は750ドルだった。
  • 2017年の所得はマイナス1280万ドル、課税所得ゼロ、前年同様750ドルを支払った。
  • 2018年は一転。所得金額2440万ドル、課税所得2290万ドル、所得税99万9,466ドルを支払った。
  • 2019年は、所得金額444万ドル、課税所得297万ドル、所得税支払いは13万3,445ドルだった。
  • 2020年の所得は再び負に転じ、マイナス469万ドル、課税所得ゼロ、所得税の支払いもゼロだった。

2020年は大統領としての給与約40万ドル、投資から得た課税対象となる1100万ドルの利息収入を得ていた。一方、不動産などの事業収入は約1600万ドルの赤字で、結果として所得金額がマイナス500万ドル近くに上った。

The Hillは、2020年以外にも、投資のリターンが事業の損失で相殺され、課税所得を抑えるパターンがみられると指摘。さらに公開された資料をもとに、各年の損失の多くは、2015年に発生した約1億500万ドルを繰り越したもので、この損失も2009年に発生した7億ドルの一部だと説明した。

トランプ氏のこうした手法については、専門家によって説明の仕方がわかれるようだ。

トランプ氏の納税記録について議会で証言したこともある米シンクタンク、タックス・ポリシー・センター(TPC)のスティーブ・ロゼンタール研究員は、同サイトの取材に、トランプ氏がこれらの損失を隠れみのとして使っていると批判した。

一方、ニューヨークにあるゴールドバード=マコーン法律事務所のパートナーで税制法が専門のスティーブ・ゴールドバード氏は「彼の昔の損失は、隠れみのではない」と説明。「被った損失を翌年に順々に引き継いでいるだけだ。損失が発生していなければ、それすら不可能」とした。

ゴールドバード氏はまた「これらの損失は実際の損失の可能性もあるが、不動産の減価償却費による可能性が高い」と、トランプ氏の事業の特徴にも言及。「トランプ氏は不動産事業者なので、これらを損失に計上できる」と話した。

トランプ氏はこの点で違法性を問われているわけではなく、自身も節税対策をスポーツと似ている、などと語ったことがある。ただ、こうしたアプローチが可能な税制そのものに疑問も出ている。

米上院財務委員会のロン・ワイデン議員(民主党・オレゴン州選出)は、「これはドナルド・トランプよりも大きな問題だ。トランプ氏のような節税対策を、多くの富裕層が行っている」と警鐘を鳴らし、「税制をよりシンプルなものにする必要がある。特にパートナーシップに関して。富裕層がパートナーシップを節税に利用できる現状を終わらせることを優先事項とすべき」と改革を訴えた。パートナーシップ形態の企業では、個人事業主と同様、事業収益を個人所得として税務申告を行うことができる。

ただし、改革をめぐって議員らが合意を形成するのは困難との見方も強い。ある関係者はThe Hillの取材に「すべての法の抜け穴には有権者がいる」と、支持者とそれを代表する議員がいると指摘。「公共の利益のため立ち上がる人間が誰もいないというのはよくある。有権者の利害はたくさんあるわけで、簡単に買収できる」と、改革の道のりは険しいとの見通しを語った。