ポスト・トランプは“バンス頂点”のエリート支配?共和党の影のネットワークが勢力拡大

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Phil Mistry / Shutterstock.com

ポスト・トランプを見据え、エリート主導の政治体制を理想とする共和党系ネットワークが勢力を固めているという。ワシントン・ポスト紙が報じた。

中心人物は、保険業から政治活動家、さらにベンチャーキャピタリストへと転身したクリス・バスカーク氏。現在、副大統領のJ.D.バンス氏と共同で設立した「ロックリッジ・ネットワーク」という実業家や寄付者の組織を率いている。

このネットワークは2019年、バンス氏とシリコンバレーの実業家ピーター・ティール氏が主催した会合から生まれたという。参加者には、共和党の大口献金者レベッカ・マーサー氏、元FOXニュース司会者タッカー・カールソン氏、経済学者オーレン・キャス氏らが名を連ねた。現在では、マーク・アンドリーセン氏やデイビッド・サックス氏など著名な投資家も加わっている。

メンバーたちは、トランプ氏という一人の候補を超えて、有権者・資金提供者・候補者をつなぐ恒久的な政治基盤の構築を目指している。すでに2026年の中間選挙や2028年の大統領選に向け、MAGA運動の持続的な体制づくりを進めており、多くがバンス氏を次期大統領候補として期待しているという。

組織の詳細は秘密主義的に包まれているが、「国を導くのはエリート層であるべきだ」という社会観に基づいているとされる。バスカーク氏のプロジェクト群は、右派が「貴族的ポピュリズム」と呼ぶ思想を反映し、裕福な資本家と労働者階級を結びつけ、再産業化によって両者の利益を一致させることを目的としているとも解釈されている。

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ポスト紙によれば、こうした活動の背景には、民主党に政権を奪われればトランプ時代の成功が一過性に終わるという危機感や、従来の共和党寄付者とトランプ支持の富裕層・労働者層をまとめる組織の必要性があった。バスカーク氏は1980年代の左派の組織論『Roots to Power』などから政治組織術を学び、バンス氏とともに左右両陣営の政治ネットワークを研究することから活動を始めたという。

このグループには公式サイトや窓口は存在せず、世論調査員やデータ分析チーム、オンライン広告部門、映像制作部門を内部に抱えている。潜在的な有権者のデータベースも構築しているという。

傘下の政治活動委員会「Turnout for America」は、チャーリー・カーク氏の「Turning Point Action」とともに2024年大統領選で激戦州のトランプ支援を展開した。ただし、連邦選挙委員会(FEC)の記録によれば、支出額は3,450万ドルで、イーロン・マスク氏の「AmericaPAC」(約2億6,100万ドル)には遠く及ばない。

さらにバスカーク氏は、トランプ政権の経済政策に沿った企業に投資するベンチャーキャピタル「1789 Capital」を運営しており、ドナルド・トランプ・ジュニア氏がパートナーに名を連ねている。ジュニア氏とカーク氏は最近、トランプ支持のビジネスリーダーが集う会員制クラブを設立し、その入会金は50万ドルに達するという。

一方で、こうしたエリート主導の発想はMAGAのポピュリスト政治と矛盾するのではないかとの指摘もある。バスカーク氏は「矛盾はない」と否定しているが、専門家の中には「政権関係者やトランプ氏への接近の見返りに金を払う“ペイ・トゥ・プレイ”の構図に見える」と警鐘を鳴らす声もある。