トランプ

FOXニュースなど保守系メディアを所有し、トランプ前大統領と長年懇意にしてきたメディア王、ルパート・マードック氏(91)だが、ついに、その蜜月関係を断ち切ろうとしているのかもしれない。

先週、マードック氏率いるニューズコープ傘下の新聞は、昨年1月の米議会議事堂襲撃におけるトランプ氏の対応を強く非難する論説記事を相次いで掲載した。ニューヨークポスト紙は22日の社説で「自分の支持者らがペンス前副大統領を吊し上げろなどと叫んで議事堂に乱入する中、トランプ氏は何もせず、3時間8分もの間プライベートダイニングでテレビを見ていた」とトランプ氏の対応の不備を指摘し、トランプ氏の唯一の焦点は平和な政権移行を妨害することだった、と非難。「道義的にも人格的にも、彼は再びこの国を治めるに値しない人物であることを証明した」と言明した。

同社傘下のウォール・ストリート・ジャーナルも同日、似た内容の社説を掲載。暴動の参加者が武装していたのを知りながら、トランプ氏は軍の動員もペンス氏の安全確保も怠り暴動を煽ったとし、「人格は危機の時こそ表面化する。ペンス氏は1月6日の試験に合格。トランプ氏は完全に不合格だった」と厳しい評価を下した。

両紙は先月にも論説記事で、主に共和党保守派に向けトランプ路線からの脱却を呼びかけている。先月10日のウォール・ストリート・ジャーナルの社説では、2024年の米大統領選はフロリダ州のロン・デサンティス知事、マイク・ポンペオ元国務長官、ニッキー・ヘイリー元国連大使など保守派の精神に忠実な候補が豊富にいるとし、「アメリカを再びまともな国にしよう」と呼びかけた。

マードック氏自身も昨年、トランプ氏と距離を置くとも取れる発言をしており、保守派は政治的議論に積極的であるべきだが「トランプ氏が過去に執着するうちは、実現しない」と話していたという。

FOXニュースも今月22日、トランプ氏が推薦候補の応援演説を行ったアリゾナ州の選挙集会の模様を報じず、代わりにデサンティス氏のインタビューを放送するなど、脱トランプ路線の兆候を示した。

背景としては、2020年の大統領選結果に不正があったと主張し続けるトランプ氏にマードック氏が愛想を尽かしたのではないかとする見方が強い。

マードック氏のメディアは選挙不正説をめぐる訴訟に直面しており、先月、デラウエア州の裁判所の判事は、投票機メーカーのドミニオン社がFoxニュースに対して提起した名誉毀損訴訟に関し、親会社「Fox Corp」による却下の求めを退けた。エリック・デイビス判事は意見書で、マードック氏と長男ラクラン氏は、根拠のない投票不正説の放送を故意に許可した可能性があると指摘。ドミニオンのFoxに対する名誉毀損の主張は、直接的な責任の理論に基づいており、十分であると宣言した。

トランプ氏とマードック氏 四半世紀以上にわたる蜜月時代

ルパードマードック

英紙ガーディアンによると、マードック氏のメディアとトランプ氏とは数十年に渡って相互関係を維持してきた。約30年前、トランプ氏の最初の妻で先月休止したイヴァナさんとトランプ氏との離婚話が持ち上がった当時、トランプ氏はニューヨークポストをたびたび報道ツールとして利用してきたという。トランプ氏の顧問で盟友のロジャー・ストーン氏も、同紙は「彼のニューヨークでの地位とブランドを築き上げるにあたり非常に重要だった」と語っている。

ただ、トランプ氏の大統領当選前の2015年、まだ共和党候補の一人だったトランプ氏についてマードック氏は「胡散臭い」と感じていたという。

米国でベトナム戦争の英雄とされ、かつてオバマ氏と大統領の座を争った故ジョン・マケイン上院議員をからかったトランプ氏に、マードック氏はツイッターで「ドナルド・トランプはいつになったら自分の友人たちを辱めるのをやめ、国を自由にするのか」と辛口のコメントをした。ウォール・ストリート・ジャーナルも当時、トランプ氏を「破滅的」「もう終わった」などと批判していた。

しかし2016年の大統領当選後、両者は関係を修復し、結び付きをより強固なものにした。

マードック氏は数少ないホワイトハウスの仲介なしでトランプ氏と直接話せる間柄だったという。21世紀FOXがディズニーに売却された際には、トランプ氏がマードック氏に電話をかけFOXニュースへの影響はないかと心配を伝えたとも報じられている。

トランプ氏の長女イバンカ氏と、娘婿のジャレッド・クシュナー氏夫妻も、休暇でマードック氏所有の大型ヨットに乗るなど親交がある。イバンカ氏はマードック氏と妻のウエンディさんの双子の娘の管財人の一人に指名されているという。

そんな蜜月時代も終わりを迎えるかもしれない。マードック氏の側近だという人物は先月、Vanity Fairに、マードック氏は「実利主義の人」だと説明。「政治の風向きを読むのが誰よりもうまい。かなりの人が、トランプ氏へのこれまでの印象を見直そうとしているのは明らかだ。本気だと考えられている」と、マードック氏の方向転換の可能性を示唆した。