量子コンピューターの米IonQ(イオンキュー、NYSE: IONQ)は11月5日、2026年7~9月期決算を発表した。売上高は1億7,383万ドルと前年同期の4.4倍(336%増)に伸び、2026年通期の売上高見通しを5億500万~5億1,500万ドルに引き上げた。純利益は5億6,396万ドルの黒字となったが、株価に連動するワラント(新株予約権)の評価益という非現金の利益によるもので、本業の営業損失は4億3,308万ドルに広がった。
5日の株価は、中間選挙後に半導体・AI株が売られた流れで終値26.43ドル(前日比10.53%安)まで下げた。決算発表後の時間外取引では、市場予想を上回る売上高と見通しの引き上げを受けて上昇した。
ハイライト
売上高は市場予想(約1億4,170万ドル)を2割強上回り、調整後1株損益(0.29ドルの赤字)も予想より赤字幅が小さかった。
| 項目 | 2026年7~9月期 | 前年同期・補足 |
| 売上高 | 1億7,383万ドル | 3,987万ドル(4.4倍) |
| うちIonQ Platform | 9,030万ドル | 127%増 |
| うちSkyWater Foundry Services | 8,350万ドル | 7月31日に買収完了、前年同期はなし |
| 営業損失 | 4億3,308万ドル | 1億6,881万ドル |
| 純利益(IonQ帰属) | 5億6,396万ドル | 10億5,496万ドルの赤字 |
| 1株利益 | 1.42ドル(希薄化後1.35ドル) | 3.58ドルの赤字 |
| 調整後EBITDA | 1億3,361万ドルの赤字 | 4,891万ドルの赤字 |
| 調整後1株損益 | 0.29ドルの赤字 | 0.17ドルの赤字 |
| 受注残(RPO) | 12億ドル(会社は2倍超に増加と説明) | − |
| 2026年通期の売上高見通し | 5億500万~5億1,500万ドル | 9月8日時点は4億5,000万~4億6,000万ドル |
出所:IonQ決算発表(2026年11月5日)。市場予想はInvesting.com集計。
「黒字」の中身はワラントの評価益
5億6,000万ドル超の黒字は、本業の稼ぎではない。4億3,308万ドルの営業損失を、8億9,616万ドルのワラント評価益が埋めて余りある形になった
| 損益の項目 | 金額 |
| 営業損失 | ▲4億3,308万ドル |
| ワラント負債の公正価値の変動益(非現金) | +8億9,616万ドル |
| 利息収入(純額) | +1,753万ドル |
| その他の損益(評価損など) | ▲5,920万ドル |
| 税引前利益 | 4億2,141万ドル |
| 法人税(繰延税金による益) | +1億4,170万ドル |
| 純利益 | 5億6,311万ドル(うちIonQ帰属5億6,396万ドル) |
IonQは過去の資金調達で付けたワラントを、会計上は負債として扱い、四半期ごとに時価で評価し直している。株価が下がればワラントの価値(=会社にとっての負債)が減り、その分が利益として計上される。逆に株価が上がれば評価損になる。
実際、株価が上昇していた前年同期は、同じ項目で8億8,185万ドルの評価損を計上し、純損益は10億5,496万ドルの赤字だった。1~9月の累計では、今期も4億9,843万ドルの赤字である。四半期の黒字・赤字は株価次第で大きく振れるため、本業の実力は調整後EBITDA(今期1億3,361万ドルの赤字、前年同期は4,891万ドルの赤字)で見る方が実態に近い。
9月末時点のワラント負債は21億2,422万ドル(2025年末は24億7,158万ドル)と、なお大きい。10月の増資では、行使価格69.46ドルのSeries Cワラント1億本が新たに加わった(ワラントの仕組みは10月15日の記事を参照)。
売上4.4倍の内訳と通期見通し
増収分の6割強は買収の上乗せによる。7月31日に買収を完了した半導体ファウンドリのSkyWaterが8,350万ドルを稼いだが、前年同期にこの売上はない。従来からの事業であるIonQ Platformは9,030万ドルで、伸び率は127%(約2.3倍)だった。
インダー・シン(Inder Singh)COO兼CFOによると、Platform事業が今期に結んだ新規契約額の約3分の2は量子コンピューター本体で、次世代機「Superion 256」への需要がけん引した。量子コンピューティングの売上は、通期で110%増を見込む。
通期の売上高見通しは、9月8日に示した4億5,000万~4億6,000万ドルから、5億500万~5億1,500万ドルへ引き上げた。9月の見通しも既にSkyWaterの寄与を含んでいるため、中央値で約12%の純粋な上方修正となる。1~9月の累計売上高は3億1,855万ドルであり、見通しを達成するには、10~12月期に約1億8,600万~1億9,600万ドルと、今四半期(1億7,383万ドル)を上回る売上が必要になる計算だ。
政府マネー:DARPA案件が相次ぐ
IonQは10月7日、DARPAの量子ベンチマーキング・イニシアチブ(QBI)で最終段階のStage Cに選ばれた(関連記事:DARPA、量子コンピューター4社を最終検証段階へ──2033年までに実用化できるか)。Stage Cに進んだ6社の中でトラップドイオン方式はIonQだけだ。会社は契約の潜在価値を最大3億ドルとしているが、DARPAの発表に金額の記載はなく、初回の拠出を超える分は今後の予算措置次第である。
決算発表では、ほかにも政府関連の契約を挙げた。
- DARPA「It’s About Time」計画:光原子時計25台を納入する2,800万ドルの契約。100台を追加する3,000万ドルのオプション付き
- 米空軍研究所(AFRL):量子ネットワーク開発の追加資金750万ドル
- 政府調達代理店Carahsoftと提携し、連邦機関への販路を広げる。Northrop Grummanとは協業の覚書(MOU)を結んだ
買収したSkyWaterは、国防総省の「トラステッド・ファウンドリ」の認定を受けた米国内の工場である。量子の研究資金と国内の半導体供給網の両面で、政府との結びつきが強まっている。
増資とElisity買収
10月の20億ドルの増資と、11月3日に完了したElisity買収で、株数は増資前から約2割増えた。手元資金は増資を含めて約37億ドルある一方、1~9月の本業で5.7億ドルを使っている(関連記事:量子コンピューターのIonQ、Elisity買収の2日後に20億ドル増資―株価は9.5%安)。
次の注目点
- 10~12月期の売上高:見通し達成には約1.9億ドルが必要。Elisity買収の寄与は11月から加わる
- ワラント評価損益の振れ:株価が戻れば、次の四半期は評価損で赤字に転じうる。調整後EBITDAの赤字幅が縮むかが本業の指標になる
- 技術と政府案件:QBI Stage Cの検証の進捗と、Superion 256の2027年の納入開始
- 今後の登壇予定:11月11日のCantor主催カンファレンス(マイアミ)、12月4~5日のレーガン国防フォーラム




