ニューヨーク市 毛皮販売禁止法案を巡り大論争

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3月末にニューヨーク市議会に提出された毛皮販売禁止法案を巡り、賛成派と反対派が激しい議論を繰り広げている。

法案は、ガーメント・ディストリクトが地盤のコーリー・ジョンソン(Corey Johnson)市議会議長が提出した。毛皮の服や、バッグなどの販売が禁止される。古着や中古品の販売は対象外となる。
違反した場合、500ドル(約5万5000円)から最大1500ドル(約16万5,000円)までの罰金が科され、毛皮製品の売り上げは全額没収される。
毛皮の着用は禁じておらず、宗教的慣習に基づく販売は除外されている。

反対派は、中小企業及び宗教、文化的伝統の保護を主張

15日に実施された禁止法案の公聴会を前に、賛成派と反対派が市庁舎前に集い、抗議活動を行った。
賛成派は動物保護を理由に、反対派は中小企業のビジネスや、宗教及び文化的伝統を損なうと主張している。

ニューヨークタイムズによると、ハーレムのジョニー・グリーン・ジュニア(Johnnie Green.Jr)牧師は「黒人のカルチャーにおいては、毛皮を着用することは、大きな困難を乗り越え、成功を収めたいうステータスの証だ。」と反対理由を語った。さらに、市内で禁止する一方で、ウエストチェスターなどの郊外で販売されるのは、文化的配慮に欠けていると加えた。

ユダヤ教の超正統派の指導者らも、多くの男性が安息日に毛皮の帽子を着用するとし、反対を唱えている。コミュニティのあるエリアから選出された議員の中には、宗教的理由による除外規定によって、憎悪犯罪の増加につながると懸念する声も上がっている。

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FUR NYCによると米国最大の毛皮市場で、米国全体の毛皮コートの生産量の80%を占める。法律の成立により、150社の中小企業が倒産を余儀なくされ、約7,500人が職を失うと主張する。また8億5,000万ドルの歳入が失われると試算している。
中小企業の多くには、移民の家族が多く含まれ、平均で47年間経営を行っている。フェイク・ファーの使用は、非分解性プラスチックの使用を拡大し、レザーやウールなど他の動物製品への使用禁止につながる可能性があると述べた。

ミッドタウンのファー・ディストリクト(西30丁目付近)のライヒ・ファーズ(Reich Furs)社は、1940年代から4世代にわたり、毛皮ビジネスを営んできた。オーナーのライヒ氏は「これは政治的問題であり、同法が成立すれば、皮革業界、精肉業界も攻撃の対象となるだろう。」と述べ、「政治家が市民に対し、行動から衣服、食べ物まで指示することになるだろう。」と語った。

テレビ番組「Love & Hip Hop」に出演のラッパー、サファリー・サミュエルズ(Safaree Samuels)氏は毛皮禁止に異議を唱えるため集会に参加。60万円近い毛皮のコートを着用して現れた。「我々の権利。そして選択だ。」と反対を唱えた。

禁止法案を提出したジョンソン議長は、毛皮のために殺される動物の映像を紹介。「ファッション業界も代替製品を受け入れ、多様化と変革を行うべきだ。」と主張。「論理的な毛皮、環境保護的な毛皮、福祉的な毛皮などはない」と法案に反対する理由はないと述べた。

動物愛護団体のPETAのダン・マシューズ(Dan Mathews)副会長は「贅沢品のために、動物を残虐に殺害する慣行は、現代社会の一部であるべきではない。」として毛皮産業の伝統によって、法は妨げられるべきではないと語った。

「プロジェクト・ランウェイ」に出演するティム・ガン(Tim Gunn)氏は公聴会に出席し、動物を感電死させたり、生きたまま毛を剥ぐ行為は残虐だと証言。毛皮の販売禁止を支持した。

今月頭にはザ・スミスのモリッシー(Morrissey)氏も書簡で同法案の支持を表明した。PETAと協力し、法案の早期通過を促した。

NY州全域での販売禁止法案も

毛皮販売禁止法は、カリフォルニア州のロサンゼルス(2021年施行)やサンフランシスコ、ウエスト・ハリウッドで既に成立している。
ラルフ・ローレンや、マイケル・コース、グッチ、カルバン・クラインなどの有名ブランドも毛皮の使用を中止すると発表した。

同法案とは別に、ニューヨーク州のリンダ・ローゼンタール(Linda Rosenthal)下院議員は、今月、州全域で毛皮の製造や販売、陳列を禁じる法案を提出している。