駅のマンゴー売りが逮捕され物議 NY屋台ビジネスの裏事情

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ニューヨーク市の駅構内で先月29日、無許可のカートでマンゴーやキウイなどの果物を販売していたとして、女性が警察官に拘束される出来事があった。

ベンダーの擁護団体「ストリート・ベンダー・プロジェクト」(Street Vendor Project)が7日、女性が連行される様子をツイッターに投稿したところ、コメントが殺到するなど物議を醸している。動画は現在、90万回以上再生されている。

コメント欄には「彼女を逮捕するメリットは?警察は、ただ撤去するよう命じるだけで良かったのでは」「冷蔵設備や手洗い場、販売許可証がなく、保健局の衛生コードに違反しているが、逮捕する必要はない」と、警察の対応を過剰と非難する声が上がった。一方で、「違法だ。これを合法化すれば、プラットフォームはベンダーで溢れかえる」と警官を擁護するコメントなども投稿されている。

ストリート・ベンダー・プロジェクトによると、逮捕されたマリアさんは、ブルックリンの「ブロードウェイ・ジャンクション」駅で10年以上、果物を販売していた。マリアさんは個人的にフード・ベンダーとして働くための資格を所持しているが、使用していたカートは、市から許可を得たものではなかったという。

市長「ルール順守を」

エリック・アダムス市長は9日、地元テレビ局Pix11で、マリアさんが拘束された問題に言及。食中毒の危険などを指摘した上で、「規則に従っていれば、このような事件は起きなかった」ときっぱり。「翌日にはプロパンガスが持ち込まれ、その翌日にはバーベキューが始まる」と事態は徐々に悪化していくと述べ、「それは許されない」と語った。

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2019年には、駅構内でチュロスを販売していた女性が警官に拘束される出来事があった。当時ブルックリン区長だったアダムス氏は、「警官は正しいことをした」と述べつつ、軽い違反行為で手錠をかけるのは、「物事をエスカレートさせ、事態の悪化に繋がる」として、慎重に行動すべきだと語っていた。

複雑な事情も・・・

マリアさんのカートが無許可のものであった背景には、市ならではの事情も関係している。

市のホームページによると、ニューヨーク市の路上でカートを使って販売行為をするためには、販売者個人がライセンス(Mobile Food Vending License)を取得していることに加え、カートに対して発行される許可証(Mobile Food Vending Permit)を得なければならない。

個人のライセンスは申請費用50ドルですぐに取得できるが、カートの許可証は発行数に上限が定められている。新たに取得しようとした場合、数年待たなければならないという。

許可証には複数の種類がある。2015年のニューヨークポスト紙の記事によると、2年間有効のものと、アイスやフルーツを販売するための季節限定(4月〜10月)のものが合わせて5,000件近く発行されており、これに加えて退役軍人と障害者向けの許可証も提供されている。

取得費用は2年間のもので75ドル(場所によって200ドル)、季節限定の許可証は業態によって15ドル、または35ドルで発行されている。

ブラックマーケットで高額取引

発行数が限定されていることから、許可証付きのカートがブラックマーケットで高額でレンタルされているという。

調査報道を専門とするCity Limitsによると、マリアさんは、カートビジネスを始めた当初、許可証のカートを所有するオーナーに1,500ドルを支払っていたが、毎年500ドルずつ値上げされ、2020年は7,000ドルを請求されていた。パンデミックで売上が減少していたマリアさんは、カートのレンタル費用を支払うことができず、オーナーから許可証付きのカートを取り上げられていたという。

ストリート・ベンダー・プロジェクトは、市内で営業するストリート・ベンダーは、一般的な商品を販売するベンダーも含めて約2万店あり、許可証の発行数をはるかに超えている。マリアさんのような個人やスモール・ビジネスのオーナーは、闇マーケットで2万ドルから3万ドルで取引されているカートをレンタルするか、許可なしのカートで罰金を支払いながら営業しなければならないと事情を説明している。

なお、市議会は昨年、許可証の数を今後10年間にわたって、毎年400件づつ追加する法案を可決している。

Pix11によると、マリアさんは再び駅で果物の販売を開始したという。「この仕事に誇りを持っており、誰も傷つけていない」と語っている。