火曜日, 6月 2, 2026
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米議員のマネーはどこへ向かっているのか〜STOCK法5月のトレード開示より

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STOCK法に基づき公開された米議会議員の株取引開示を整理すると、5月は大きく3つの流れが見えてくる。第一に、ビッグテックおよび一部半導体銘柄の売却。第二に、債券や構造化商品(元本保護や条件付き利回りを持つ仕組み債)、地方債への資金シフト。そして第三に、資本財やヘルスケアといった実需連動型セクターへのローテーションだ。

共通しているのは、単純なリスク回避ではなく株式リスクの取り方を変える動きである。なお、STOCK法では取引から45日以内の開示が義務付けられているため、5月分取引の開示は6月末まで継続する点には留意したい。

テイラー議員、ハイテクから実需へ継続的ローテーション

4月にブロードコムとラムリサーチを売却したテイラー議員(共和・オハイオ)は、5月15日にも同様の動きを見せた。

今回売却したのはアルファベット(GOOGL)2件とアップル(AAPL)2件。一方で購入したのはAT&T(T)、ホーム・デポ(HD)、メドペース(MEDP)、パーカー・ハニフィン(PH)である。

特集コーナー

4月の「半導体売り」に続き、5月はビッグテックの比重を落としながら、通信、住宅関連、医療サービス、産業機械へ資金を移している。購入先はいずれも景気や政策需要との結び付きが強く、成長株中心のポートフォリオとは異なる性格を持つ。2カ月連続で、ハイテクから実需系セクターへのローテーションが確認できる。

ジェイコブス議員、決算急騰の翌週にQUALCOMMを利益確定

ジェイコブス議員(民主・カリフォルニア)は5月6〜7日、クアルコム(QCOM)を合計100〜200万ドル規模で売却した。

この取引は、同社の四半期決算発表から数日後に行われている。4月29日の決算では、データセンター向けチップ事業への期待や中国需要改善への見方を背景に株価が急反発し、一時7%下落後に16%高で引けた。売却のタイミングを考えると、半導体セクター全体への弱気転換というより、イベントドリブンの上昇を受けた利益確定と見るのが自然だろう。上昇局面でリスクを調整する動きとして位置付けられる。

マコーミック議員、構造化商品と地方債を積み増し

5月の開示で最も特徴的だったのは、マコーミック上院議員(共和・ペンシルベニア)の動きだ。

同議員は5月4日から20日にかけて、S&P500連動およびMSCI EAFE連動の構造化ノートを合計18件購入した。さらに地方債も3件取得しており、総額は数百万ドル規模に達する。

構造化商品は、株式市場への参加を維持しながら、一定の下落耐性や利回りを組み込む設計が一般的だ。株式を全面的に売却するのではなく、上昇余地は取りたいが、下振れリスクにも備えたいという投資家心理を反映しやすい。ブリッジウォーター出身という経歴を踏まえると、この動きは単なるディフェンシブ戦略ではなく、ボラティリティ上昇を前提とした資産配分とも解釈できる。純粋な株式リスクを抑えながら市場参加を続ける姿勢がうかがえる。

バビン議員、資源株を一括売却

バビン議員(共和・テキサス)は5月5日、エネルギー・鉱業関連の国際銘柄8件をまとめて売却した。

一方で、4月にはブーズマン議員によるエネルギー株の買い増しも確認されている。エネルギーセクター内でも強弱感は分かれており、市場参加者の見通しが一方向に収斂しているわけではない。資源価格や地政学リスクを巡る評価について、時間軸や前提条件の違いが表れている可能性がある。

防衛・宇宙ベンチャーからの資金引き揚げ

モリソン議員(民主・ミネソタ)は、防衛・宇宙関連の非上場ベンチャー3社(Hermeus Corp、Saronic Technologies、Star Catcher Industries)を売却した。

対象企業はいずれも自律システムや宇宙関連技術に関わる企業であり、テーマ性の強い投資先だった。売却理由を断定することはできないが、流動性の低いプライベート投資を整理し、より管理しやすい資産へ再配分する動きとして注目される。

その他の動き

短期国債(T-Bill)については、売却(カーター議員、100〜500万ドル規模)と購入(コーエン議員、5万ドル超)の両方が確認されており、方向感は一様ではない。金利見通しそのものというより、資金待機か再投資かという戦術面の違いを反映している可能性が高い。

デルベニー議員やマコーミック議員に共通する地方債への資金シフトは注目に値する。税制メリットと安定したキャッシュフローを重視する姿勢として整合的だ。

モレノ議員(共和・オハイオ)は2025年5月にナスダックへ上場した暗号資産・株式取引プラットフォームeToro(ETOR)を10〜25万ドル規模で売却した。上場初日に29%高を記録した同社株を約1年保有した後の利益確定とみられる。

5月の全体像:「リスク回避」ではなく「リスクの再設計」

5月の議員トレードを俯瞰すると、「ハイテク・半導体の一部利確」と「債券・構造化商品・地方債へのシフト」が同時進行している。ただし、これは単純なリスクオフとは少し異なる。

実際に目立ったのは、市場から資金を引き揚げる動きではなく、株式リスクの取り方を見直す動きだった。ビッグテックや一部半導体銘柄の比重を落とす一方で、構造化商品や地方債、実需に支えられたセクターへ資金を振り向ける例が相次いでいる。

背景には複数の要因が重なっていた。対中政策と通商摩擦、ホルムズ海峡を巡る地政学リスク、そして金融政策の転換だ。5月にはケビン・ウォーシュ新FRB議長が始動し、新体制の下で次の一手が読みにくくなった局面でもある。こうした不確実性が重なるなかで、議員たちはポートフォリオの組み替えを進めていた。

断片的な開示データではあるが、そこから浮かび上がるのは「リスクを減らす」のではなく、「リスクを組み替える」という共通した姿勢である。5月の議員トレードは、ワシントンの投資家たちがどこへ逃げたかではなく、どのリスクを残し、どのリスクを手放したのかを示している。

*本稿は、6月1日までに上・下院議会に公開された公式資料をもとに作成しています。