米暗号資産取引所大手のコインベース(Coinbase、ティッカー:COIN)は10月29日(米東部時間)の引け後、2026年7-9月期(Q3)決算を発表しました。売上高は12億1,560万ドルで前年同期比35%減。GAAPの純利益は7億1,870万ドル(希薄化後EPS 2.51ドル)と大きく出ました。ただし、その大半は自社で保有する暗号資産の評価益で、本業の実力を示す調整後純利益は7,770万ドルにとどまります。取引手数料が細るなか、取引量に左右されにくいサブスクリプション・サービス収入が約半分を占め、その最大の項目がUSDCを中心とするステーブルコイン収入(3億700万ドル)です。
ポイント
- 純利益7億1,870万ドルの大半は保有暗号資産の評価益(税引き前で7億1,500万ドル)。これを除いた調整後純利益は7,770万ドルで、前期(Q2)の赤字1億490万ドルから黒字に戻した程度です。
- 取引手数料は前年同期比44%減。 暗号資産の値動き(ボラティリティ)が数年ぶりの低水準となり、個人の現物売買が大きく減りました。純収益の約半分(49%)、取引量に左右されにくい「サブスクリプション・サービス」が占めます。
- ステーブルコイン収入は3億700万ドルで前期比5%増。 同社のサービス内のUSDCの平均残高は過去最高の220億ドルに達し、USDCの時価総額の約30%を占めました。
数字で見るQ3
売上は前期とほぼ同じ水準で、強気相場だった前年から3分の1以上減りました。経費を削ったことで、調整後EBITDAは前期比60%増となり、黒字は15四半期連続です。
| 項目(百万ドル) | 2025年Q3 | 2026年Q2 | 2026年Q3 | 前年同期比 |
| 売上高 | 1,868.7 | 1,220.1 | 1,215.6 | -35% |
| うち取引手数料 | 1,046.3 | 599.2 | 590.2 | -44% |
| うちサブスクリプション・サービス | 716.6 | 555.1 | 570.2 | -20% |
| 純利益(GAAP) | 432.6 | -359.5 | 718.7 | +66% |
| 調整後純利益 | 420.7 | -104.9 | 77.7 | -82% |
| 調整後EBITDA | 800.7 | 207.8 | 332.9 | -58% |
調整後純利益は、GAAP純利益から、投資目的で保有する暗号資産の評価益7億1,500万ドルとその他の投資利益3,920万ドルを差し引き、これらの利益にかかっていた税金相当額1億1,330万ドルを加え戻して算定しています。投資目的の暗号資産は9月末時点で約22億ドルあり、相場が下落すれば、同じ仕組みでGAAP純利益を押し下げる可能性があります。GAAP純利益が前期の赤字(−3億5,950万ドル)から一転して大幅黒字となったのは、主にこの評価損益の振れによるものです。本業の改善幅を判断するうえでは、調整後の数値を見る必要があります。
コインベースは自社でもビットコインを買い増しています。ブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)CEOは、Xでライブ配信した決算後のQ&Aで、「自社のバランスシートで、ちょうど18,000枚目のビットコインを買った」と述べました。保有が大きいほど、ビットコイン相場の動きがそのままGAAPの純利益を左右します。
個人向けの現物の売買代金は234億ドルと、前年同期(574億ドル)の4割ほどに減りました。一方、先物などデリバティブの取引量は9,630億ドルと、前年同期(8,438億ドル)を上回っています。
第2の柱に育つステーブルコイン:USDCから入る3億ドル
ステーブルコイン収入は3億700万ドルで、サブスクリプション・サービス収入(5億7,020万ドル)の半分強を占める最大の項目です。前期(2億9,200万ドル)からは5%増えましたが、前年同期(3億2,500万ドル)は下回っています。
収入の源は、サークル(Circle、CRCL)が発行するドル連動型ステーブルコイン「USDC」の準備金から生まれる利息です。サークルの上場時の届出書(S-1)などによれば、コインベースは自社のサービス内にあるUSDCの準備金収入を受け取り、それ以外のUSDCについても残りの収入の50%を受け取る取り決めです。この契約は2026年8月に条件を変えず2029年まで更新されたと報じられており、コインベースの四半期報告書(10-Q)も「サークルとの取り決めに変更はない」と記しています。
- 同社のサービス内のUSDCの平均残高:220億ドル(前年同期150億ドル、前期200億ドル)
- USDCの平均時価総額:730億ドル(前期770億ドルから減少)
- 同社のサービス外のUSDC:510億ドル
残高は1年で5割近く増えましたが、収入は前年同期を下回っています。準備金の運用利回りが下がったことが考えられますが、決算資料には理由の説明はありません。
Q4の見通しと株価の反応
Q4(10-12月期)の取引手数料は、10月25日までで約1億6,500万ドルと会社は開示しました。ただし、この数字から四半期全体を推し量ることには注意を促しています。
- サブスクリプション・サービス収入:5億5,000万~6億3,000万ドル
- 調整後の経費:10億700万~11億5,700万ドル
- 2026年通期の調整後の経費:42億~44億5,000万ドルに引き下げ(中央値で約1億ドル減)
株価は、決算発表前の10月29日の通常取引を約1%安の160.59ドルで終え、時間外取引では小幅な動きにとどまりました。EPS 2.51ドルは市場予想(0.26ドルの赤字)を大きく上回りましたが、前述のとおり上振れ分のほとんどは評価益です。売上高は市場予想とほぼ一致と報じられています。
規制の論点:予測市場とデリバティブ
今回の決算資料には、暗号資産の市場構造法案(CLARITY法案)への言及はありません。代わりに将来のリスクとして挙げたのは、「デリバティブ取引と予測市場の事業の成長と、その規制上の扱い」です。どちらも伸びている事業です。
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- 予測市場: 2026年2月に開始し、Q3に年換算の売上高が2億ドルを超え、サービス開始以来、四半期ごとに平均82%のペースで成長。毎日取引する利用者は前期比60%超増えました。アレシア・ヘイズ(Alesia Haas)CFOは決算後のQ&Aで、予測市場とデリバティブを合わせると取引手数料収入の約25%を占め、現物の売買の減少を補ったと説明しました。現物の取引を奪うのではなく上乗せの取引だとも述べています。
- デリバティブ: 直近12か月の取引量は4兆3,410億ドル(前年同期は3兆2,410億ドル)。買収した暗号資産オプション取引所Deribitと、海外向けの取引所INTXの統合は10月に完了しました。
予測市場をめぐっては、連邦の商品先物取引委員会(CFTC)が認める一方で、州によって賭博として規制しようとする動きもあります。今週、予測市場大手のカルシ(Kalshi)が評価額400億ドルで10億ドルを調達する一方、ユタ州の司法長官が同社を刑事告発したと報じられています。コインベースの新しい成長事業も、この規制の綱引きの影響を受ける可能性があります。
サークル決算Q3決算は11月4日
コインベースの数字は、USDCの発行元サークルの決算(米東部時間11月4日午前8時、日本時間同日午後10時)にも関係します。コインベース内のUSDCは前期の200億ドルから220億ドルに増えた一方、USDC全体の平均時価総額は770億ドルから730億ドルに減りました。コインベースに置かれるUSDCの割合は、前年同期の約22%から約30%に高まっています。
会社自身もこの構図を認めています。ヘイズCFOは決算後のQ&Aで、「USDCの経済的な取り分の約50%を得て、流通量の約30%を当社のプラットフォームで保有している」と説明しました。サークルとは、USDCを広げる点では利害が一致する一方、決済のインフラづくりでは競合する関係だとも述べています。同社は他のステーブルコイン(OUSD、PYUSD)にも対応しています。「約50%」は全体をならした取り分で、契約の配分条件そのものではありません。
サークル決算の確認ポイント
前述の取り決めでは、コインベース内のUSDCが増えるほど、サークルが支払う配分(流通コスト)は重くなります。
- USDCの流通額の減少が、準備金収入にどれだけ響いたか
- 流通コスト(コインベースへの支払いを含む)が収入に占める割合
- AIエージェントによる決済や自社チェーン「Arc」など、配分に頼らない収入の伸び。みずほは先週、AIエージェントがUSDCの需要を減らすリスクを理由に目標株価を引き下げました。
