米テキサス州の鉄鋼スタートアップHertha Metalsは9月29日、レアアース永久磁石に使われる高純度鉄の国内生産に向け、シリーズAで1億3,365万ドルを調達したと発表した。このうち6,500万ドルは米国防総省による株式出資だ。
調達資金は、テキサス州コンローに建設する商用工場「Hertha Chalyx」に充てる。鉄鋼グレードと磁石グレードの高純度鉄を年間1万トン生産する計画だ。同じコンローにある実証施設「Pi100」では、すでに年間360トンの生産能力を確保し、純度99.95%の鉄の製造に成功しているという。
レアアース磁石の「7割」は鉄
中国の輸出規制で注目されているのは、ネオジムやジスプロシウムなどのレアアース元素だ。
しかし、ネオジム磁石(NdFeB磁石)を構成する重量の約7割は、実は鉄だという。
NdFeB磁石は、ドローン、ミサイル、電気自動車、データセンターなどのモーターに使われる。高性能磁石に必要なレアアースの確保だけでなく、その大部分を占める高純度鉄の供給も、米国のサプライチェーン構築には欠かせない。
Herthaによれば、米国は高純度鉄の9割以上を中国からの輸入に依存している。
Herthaの強みは製法にある。
同社は、従来は複数の工程が必要だった鉄鉱石の還元から精製までを、単一の連続反応炉で行う「Flex-HERS」プロセスを開発した。低品位の鉄鉱石も原料として利用できる。同社によれば、生産コストは従来の高炉より25%低く、CO2排出量は天然ガスを使う場合で50%、水素を使えば最大98%削減できるという。
「mine to magnet」米政府が供給網の各段階に資本
第二期トランプ政権スタート以降、政府はネオジム磁石の国内サプライチェーンを構築するため、複数の企業に出資・融資・購入契約などを組み合わせている。
| 企業 | サプライチェーン | 政府の関与 | 政府資金 |
|---|---|---|---|
| MP Materials | 採掘→分離・精製→磁石 | 優先株・ワラント、融資、価格下限、購入契約 | 優先株4億ドル+融資1.5億ドル |
| USA Rare Earth | 採掘→磁石 | 直接資金、融資、株式・ワラント | 最大16億ドル |
| Vulcan Elements | 磁石 | 条件付き融資・ワラント、出資 | 融資6.2億ドル+出資5,000万ドル |
| Hertha Metals | 高純度鉄 | 株式出資 | 6,500万ドル |
採掘から分離・精製、磁石、そして磁石を構成する高純度鉄まで、米政府が供給網の各段階に資本を入れる構図だ。
MP Materials(NYSE: MP)――売上を政府が下支え
MP Materialsには2025年7月、国防総省が優先株とワラントを取得し、筆頭株主となった。ワラント行使時の持分は約15%と報じられている。
これに加えて、国防総省は1億5,000万ドルの融資、NdPr(ネオジム・プラセオジム)製品について1kg当たり110ドルの価格下限を10年間保証する契約、新しい磁石工場「10X」の生産分を10年間引き取る契約を結んだ。
政府が資本を入れるだけでなく、価格と需要まで支える仕組みだ。
USA Rare Earth(NASDAQ: USAR)――最大16億ドルの最終契約
USA Rare Earth(USAR)は2026年1月、商務省と最大16億ドルの支援を受ける非拘束的な基本合意(LOI)を結んだ。その後、6月3日に商務省とのdefinitive agreements(最終契約)を締結した。
契約には、最大2億7,700万ドルの連邦資金と、最大13億ドルのシニア担保付融資枠が含まれる。資金の拠出は、プロジェクトのマイルストーン達成などが条件となっている。また、米政府は普通株1,610万株と約1,760万株のワラントを取得する。
同社は9月、ブラジルのレアアース鉱山会社Serra Verdeとの合併を完了した。国防総省はこれに先立つ8月、Serra Verdeの生産分を長期購入する案件などに7億5,000万ドルを投じている。
一方、中国は2026年6月、MP MaterialsとUSARを輸出管理リストに追加した。米政府が支援する企業が、中国側の輸出管理の対象にもなっている。
Vulcan Elements――陸軍の「100万機」ドローン計画へ
ノースカロライナ州の磁石メーカーVulcan Elementsには2025年11月、国防総省の戦略資本局(OSC)が6億2,000万ドルの条件付き融資とワラントを、商務省が5,000万ドルの出資を行う意向を示した。
米陸軍は9月、年間100万機のドローン量産計画「SkyFoundry」に使用する磁石の供給元にVulcanを選定している。
ただし、現在の生産能力は年間10トン程度にとどまる。年間1万トンを計画する新工場の稼働時期も、まだ示されていない。
さらに、原料調達を担う予定だったReElementは2026年7月、OSCによる8,000万ドルの融資手続きから撤退した。政府が資金と需要を用意しても、実際の生産能力がすぐに立ち上がるわけではない。
Hertha Metals――供給網の「鉄」を押さえる
今回のHerthaのシリーズAは、Khosla VenturesとDoerr Capitalが共同で主導した。
CEV、Pear VC、Gates Frontier、Siemens Financial Servicesのほか、日本からはToyota Venturesと、グローバル・ブレインが運営する日本特殊陶業(Niterra)の「SUISO no MORI Fund」が参加した。
国防総省による6,500万ドルの出資は、産業基盤分析・維持(IBAS)プログラムが経済防衛ユニット(EDU)と連携して実施したものだ。
EDUは、ファインバーグ国防副長官の覚書に基づいて2026年4月に発足した。資本、調達、関税、輸出管理などの経済的手段を組み合わせ、米国の経済・安全保障上の優位を高めることを任務とする。トップには、ファインバーグ氏が率いたサーベラス出身のジョージ・コリティデス氏が就いている。
Herthaへの出資も、こうした経済安全保障政策の一環として位置づけられる。
米政府は中国へのレアアース依存を減らすため、出資・融資だけでなく、防衛調達による需要の創出や価格保証まで組み合わせている。民間企業だけでは負いにくい資金調達、需要、価格のリスクを政府が引き受け、国内サプライチェーンの立ち上げを後押しする構図だ。
2027年規制に間に合うか
問題は、政府が資本を入れた企業が、いつ実際の供給能力を持つかだ。
国防調達規則(DFARS)は、中国などで製造されたネオジム磁石の調達をすでに禁じている。2027年1月1日からは、規制対象が採掘・精錬・分離の段階にまで広がる。
一方、米政府が資本を入れた供給網の立ち上がりは、まだこれからだ。
USA Rare Earthは最大16億ドルの政府支援について6月に最終契約を締結したが、同社のRound Top鉱山の商業生産開始は2028年を目標としている。
Vulcan Elementsの新工場も稼働時期は明らかになっていない。
HerthaのChalyxは、2027年第4四半期に炉を立ち上げ、2028年半ばに磁石メーカーへの販売を始める予定と報じられている(Tectonic Defense)。
米政府が出資・融資・購入契約を通じて構築してきた「mine to magnet」の供給網は、2027年1月の規制開始時点ではまだ完成していない可能性がある。政府の「持ち株」が、実際の供給量に変わるのはいつか。2027年1月の規制拡大は、その進捗を測る最初の大きな節目になる。



