Cathie Wood(キャシー・ウッド)氏率いるARK Investは、予測市場大手Kalshi(カルシ)の株式を、ARK Innovation ETF(ARKK)、ARK Next Generation Internet ETF(ARKW)、ARK Fintech Innovation ETF(ARKF)の3ファンドで取得した。
今回の取得株数は3ファンド合計126,594株。9月21日時点の保有銘柄データでは、Kalshi株は1株1,066.38ドルで評価されており、3ファンドの保有評価額は約1億3,500万ドルに達する。
Kalshiは非上場企業で、ARKはこれまで、非上場企業への投資を目的とするARK Venture Fundを通じて同社に投資してきた。今回の取引によって、Kalshi株が個人投資家にも日常的に売買される上場ETFに組み入れられたことになる。
この動きは、ARKがKalshiを単なる予測市場の運営企業ではなく、イベント契約を起点に、パーペチュアル先物など複数のデリバティブ商品を扱う取引所へ成長する企業として評価している可能性を示す。
一方、Kalshiの手数料収入はスポーツ関連契約への依存度が高い。州ギャンブル法の適用をめぐる訴訟も続いており、事業拡大には法的な不確実性が残っている。
取得の詳細
ARKの公表データによると、9月18日の取得株数はARKKが90,024株、ARKWが25,318株、ARKFが11,252株。合計で126,594株となる。
9月21日時点の保有銘柄データでは、Kalshi株は1株1,066.38ドルで評価されている。この評価額を取得株数に掛けると、3ファンドの保有評価額は約1億3,500万ドルになる。ただし、これはARKが実際に支払った取得額ではなく、保有銘柄データ上の評価額に基づく概算だ。
各ファンドに占めるKalshi株の比率は、ARKKが1.04%、ARKWが1.42%、ARKFが1.46%。ARKKでは、同じく非上場株として保有するOpenAIに次ぐ規模の非上場保有銘柄となる。
一方、ARKは同じ9月18日、3ファンドでBrera Holdings(SLMT)の普通株計309,101株を売却した。9月21日時点では普通株が保有銘柄から外れ、ワラントのみが残っている。
ARKがKalshiを評価する理由
ARKはARK Venture Fund向けに公開している投資テーゼの中で、Kalshiを「イベント契約」という新しい市場を開拓する企業として説明している。
イベント契約とは、経済、政策、スポーツなど現実世界の出来事の結果を対象とする金融契約だ。ARKは、こうした契約が将来的に株式やオプション、先物に並ぶ新たな資産クラスになる可能性があるとみている。
ARKによれば、Kalshiは二つの大きな市場の交点に位置する。
一つはオプション市場だ。ARKは、2025年の米国上場オプション市場の取引量を152億契約と説明している。もう一つは、合法化されたスポーツベッティング市場で、賭け金総額は1,650億ドルを超える。
Kalshiは、オプション市場の参加者とスポーツベッティングの参加者の双方を取り込める位置にある。ARKは、この二つの需要を同時に取り込める競合サービスは現時点で多くないと分析している。
規制ライセンスという参入障壁
ARKは、KalshiがCFTC(米商品先物取引委員会)から指定契約市場(DCM)として指定されていることも、参入障壁の一つと評価している。
Kalshiは2020年にDCMとして指定され、2024年にはデリバティブ清算機関(DCO)として登録された。こうした規制上の資格を取得するには、時間とコストが必要になるため、後発企業が同じ立場を築くのは容易ではない。
また、KalshiはWebullやRobinhoodとの提携を通じて、証券会社のアプリからイベント契約にアクセスできる環境を整えている。ARKは、こうした提携によって、Kalshiがより大きな個人投資家層に接続できる可能性があるとみている。
予測市場からデリバティブ取引所へ
投資テーゼで特に注目されるのが、イベント契約以外への商品拡張だ。ARKは、CFTCの承認を前提に、暗号資産や個別株などを対象とする無期限先物、いわゆるパーペチュアル先物をKalshiの成長余地として挙げていた。
この構想はすでに具体化している。
Kalshiは5月下旬、CFTCの承認を受けたビットコインのパーペチュアル先物を皮切りに、暗号資産関連商品の提供を開始した。CFTCは5月29日、KalshiEXが申請したビットコイン・パーペチュアル先物契約を承認している。
CNBCによると、同商品の名目取引高は開始以来440億ドルに達している。
さらに9月には、CFTCが金と銀を対象とするパーペチュアル先物の上場を承認した。Kalshiは9月10日、両商品の取引を自社サイトで開始した。貴金属パーペチュアルは、Kalshiにとって暗号資産以外では初めて承認された商品となる。
パーペチュアル先物は満期を持たず、原資産を保有しなくても価格変動を取引できる。市場価格との乖離を抑えるため、資金調達率を用いて契約価格を現物価格などに連動させる仕組みだ。
Kalshiは今後、米国株価指数、銅、通貨などを対象とするパーペチュアル先物についても承認を求めていると報じられている。
こうした商品が拡大すれば、Kalshiの事業は「政治やスポーツの結果を取引する予測市場」から、株式、コモディティー、通貨、暗号資産などを扱う規制下のデリバティブ取引所へと広がることになる。
Kalshiによれば、米国外のパーペチュアル市場の年間取引高は、2023年の28兆ドルから2025年には90兆ドル超へ拡大しているという。ただし、これは市場全体の取引規模であり、Kalshi自身の売上高や利益を示す数字ではない。
評価額は1年足らずで10倍超に
企業価値も急速に上昇している。
Fortuneによると、Kalshiは5月、評価額220億ドルで10億ドルのシリーズFを調達した。ARKの投資テーゼが引用している2025年半ばのシリーズCでは評価額が20億ドルだったため、1年足らずで企業価値が10倍以上に上昇した計算になる。
さらにFinancial Timesは、Kalshiが評価額約400億ドルで新たな資金調達を目指していると報じている。
一方、調査会社PitchBookは9月に公表したレポートで、Kalshiの適正な評価額を304億ドルと算定した。弱気シナリオでは228億ドル、強気シナリオでは421億ドルとしている。
同レポートは、Kalshiの売上高が2030年に64億ドル、調整後利益が37億ドルに達すると予測している。ただし、これらは将来の市場拡大や規制環境を前提とした試算であり、確定した業績見通しではない。
なお、KalshiのTarek Mansour(タレク・マンスール)CEOは、IPOを検討しているものの、2027年より前の上場は想定していないとの考えを示している。
最大のリスクはスポーツ契約
Kalshiの事業モデルには、スポーツ契約をめぐる大きな不確実性が残っている。
Kalshiは、自社をCFTCが規制する連邦レベルの取引所と位置づけ、州ごとのギャンブル免許を取得せずにスポーツ関連のイベント契約を提供してきた。
これに対し、複数の州や先住民部族は、Kalshiの契約が実質的にはスポーツ賭博にあたり、州のギャンブル法に従う必要があるとして提訴している。
PitchBookによると、今年これまでのイベント契約手数料のうち、スポーツ関連が69.9%を占める。複数の試合や結果を組み合わせる「エキゾチック」契約まで含めると、スポーツ関連の比率は82.4%に達する。
PitchBookは、スポーツ関連の手数料収入が25%減少した場合、2026年の予測から約6億4,200万ドル、2030年の予測から約14億ドルが失われると試算している。ただし、同社はこの減少だけでKalshiの事業全体が存続できなくなるわけではないとみている。
第6巡回区、州の規制を認める
この問題をめぐる司法判断も割れている。
第3巡回区控訴裁判所は4月、ニュージャージー州法はKalshiの契約に適用されないと判断した。一方、第9巡回区控訴裁判所は8月、ネバダ州が同州のギャンブル法に基づいてKalshiのスポーツ契約を規制することを認めた。
さらに9月25日、第6巡回区控訴裁判所は、オハイオ州とテネシー州が州のギャンブル法に基づいてKalshiのスポーツ関連イベント契約を規制できるとの判断を示した。裁判所は、Kalshiのスポーツ契約がCFTCの専属管轄の対象となる「スワップ」にあたることをKalshi側が示せなかったと判断。また、連邦法がオハイオ州とテネシー州のギャンブル法に優先するという主張も退けた。
連邦控訴裁判所の判断が分かれる状況が一段と鮮明になったことで、最高裁がこの問題を審理する可能性も意識され始めている。 また、9月24日にはニューヨーク州が、競合するPolymarketを無免許の賭博運営にあたるとして提訴した。個別企業だけでなく、予測市場全体に対する規制圧力が強まっている。
今後の焦点
ARKは、予測市場を一時的な賭けの場ではなく、株式やオプションに並ぶ新たなデリバティブ市場と位置づけている。
Kalshiが暗号資産パーペチュアルを開始し、金と銀へ対象を広げたことは、ARKが想定していた商品拡張が具体化しつつあることを示す。今後、米国株価指数、銅、通貨などの商品が加われば、Kalshiは予測市場の運営企業から、複数の資産クラスを扱う規制下のデリバティブ取引所へ近づく可能性がある。
ただし、現時点のイベント契約手数料はスポーツ関連への依存度が高く、州規制をめぐる法的リスクにもさらされている。
今後の焦点は、Kalshiがスポーツ以外のイベント契約と、暗号資産・貴金属などのパーペチュアル先物をどこまで成長させられるかにある。
ARKが非上場のKalshi株を上場ETFで買い増すのか。そしてKalshiが将来のIPOまでに、どの程度の総合デリバティブ取引所へ変貌するのかが注目される。




