タッカー・カールソンとマージョリー・テイラー・グリーン(MTG)。かつてMAGA陣営を代表する存在だった2人が、同じ週に相次いで「第三政党」に言及した。これは単なる話題づくりなのか。それとも、MAGA運動再編の新たな局面のはじまりか。
コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌のインタビューでカールソンは「第三政党の結成を手伝うつもりだ」と語った。国益を最優先する誠実な取り組みが必要だとの考えも示し、中東情勢よりも自国民の生活を優先すべきだという趣旨の発言も交えている。二大政党は表向き対立していても実際には利害を共有しているという、いわゆるユニパーティー的な構図を批判。アメリカにとって最大の課題は戦争と財政であり、この点で民主党と共和党の足並みは実質的に揃っていると主張し、現状の二大政党制そのものを、民主主義の体裁をまとった実質的な一党支配だと言い切った。
カールソンは前週、ポッドキャスト「Can’t Be Censored」でも共和党を離れる考えを示していたが、今回はさらに踏み込み、自ら第三政党づくりに関わる意向まで明らかにした。
ほぼ同じタイミングで、ピアース・モーガン氏のインタビューに応じたMTGも、複数の関係者との間で新党構想について協議を進めていることを明かしている。
積み重なった亀裂
もっとも、この動きは突然始まったわけではない。
カールソンは今年春、イラン攻撃を巡ってトランプの強硬姿勢を「あらゆる面で下劣だ」と痛烈に批判し、その後はトランプを支持してきたこと自体を悔いる発言をしていた。これに対しトランプはSNS上でカールソンらを名指しし、「彼らはMAGAではない」「負け犬だ」と切り捨てている。
一方のMTGは、2026年1月に議会議員を辞職。エプスタイン文書の開示を巡ってトランプと対立したことがきっかけとされ、辞職表明の際には大統領との関係について、忠誠は一方通行ではいけないという趣旨の批判を口にしていた。6月には共和党そのものへの支持を取り下げる考えを明らかにした。
構想倒れに終わるのか──先行事例が示す高いハードル
もっとも、威勢のいい発言と実際に政党を立ち上げることの間には、大きな隔たりがある。米政治専門メディアNOTUSが第三政党関係者に取材したところ、その見方は総じて厳しい。
2021年に第三政党「フォワード党」を共同設立したCEOのリンゼイ・ウィリアムズ・ドラスは、全米規模の政党づくりは「実質的に51の政党を作るようなものだ」と表現する。州ごとに異なる選挙法や資金規制を一つひとつクリアしなければならず、その複雑な制度自体が既存二大政党に有利なよう設計されているという。実際、今年には中道系政党「ノー・レーベルズ」が党名変更を試みた際、共和・民主両党から訴訟を起こされ、裁判所が党名変更を認めない判断を下す事態も起きた。
リバタリアン党のエヴァン・マクマホン党首も、カールソンの共和党批判には一定の理解を示しつつ、選挙のルールを作り運用しているのは結局のところ共和・民主両党であり、第三政党が直面する制度的な壁は厚いとの見方を示す。
一方、左派系政党「ワーキング・ファミリーズ党」の広報担当者ラヴィ・マングラは、第三政党への需要そのものは認めながらも、それがカールソン発の新党で満たされるとは考えにくいとみる。構想を語ることは容易でも、候補者を擁立し、組織を整え、有権者基盤を築くことはまったく別の仕事だという。
とはいえ、ネット上でのカールソンの影響力は依然として際立つ。右派YouTubeでは元ネイビーシールズ隊員のショーン・ライアンには及ばないものの、今週も推計2,400万回を超える視聴を集め、政治系インフルエンサーとして他を大きく引き離している。
主要インフルエンサー 今週の数字
チャンネル登録者数 前週比 週間視聴数(推計)
ショーン・ライアン 631万人 +4万人 3,951万回
タッカー・カールソン 569万人 +1万人 2,482万回
メーガン・ケリー 414万人 ±0 1,184万回
ジョー・ローガン 2,100万人 ±0 774万回
キャンディス・オーウェンズ 602万人 +1万人 418万回
ベン・シャピーロ 701万人 -1万人 407万回
マット・ウォルシュ 344万人 ±0 334万回
ティム・ディロン 122万人 ±0 133万回
ティムキャスト 147万人 ± 026万回
※7/6測定。週間視聴数は総視聴数の前週差分で算出。
マスクの「アメリカ党」
第三政党構想と聞いて思い出されるのが、昨年のイーロン・マスクによる「アメリカ党」騒動だ。トランプの大型減税・歳出法案「Big Beautiful Bill」に反発したマスクは、トランプを「恩知らず」と非難した上で、新党「アメリカ党」の結成を発表した。その後、バンス副大統領らの仲裁もあり対立は沈静化したが、彼もまた「ユニパーティー」との決別を掲げていた。
もっとも、政治的アウトサイダーだったマスクと異なり、カールソンとMTGは長年MAGAの中核にいた人物だ。そのため今回の動きは、保守運動の外部からの挑戦というより、MAGA内部からのスピンアウトという色彩が強い。
第三政党が全国規模で二大政党に挑むハードルは依然として高い。しかし近年の米議会は、わずかな議席差で多数派が決まる状況が続いている。二大政党を置き換えることは難しくても、局地的に議席を獲得し、勢力が拮抗する議会でキャスティングボートを握る余地はある。
現時点では構想はまだ言葉の段階にすぎない。しかし、右派インフルエンサーは、メディアであると同時に政治プレーヤーにもなろうとしている。これから問われるのはネット上の人気ではない。その支持を候補者擁立や資金集め、有権者の動員へと結びつけ、現実の政治力へ転換できるかどうかだ。

