先週、右派YouTubeを最も騒がせたのは、タッカー・カールソンの「離党」宣言だった。
23日配信の「Can’t Be Censored」のインタビューで、カールソンはこう言い切った。世論調査の数字を見れば、自分はもう共和党を支持する理由がない。アメリカに忠実でない政党を、どうして支持できるのか。35年間共和党を擁護し、Foxでも働いてきたが、今回は擁護できない。なぜなら、それは不道徳だからだ。私は降りる。私が降りるなら、他の多くの人たちも降りるはずだ——そう語った。
さらに、トランプのMAGA運動にも距離を置いた。26日配信のSky Newsとのインタビューでは、イラン戦をトランプの大統領としての「終焉」だと主張し、「MAGAはもう終わった。運動としての未来はない」と断じた。
カールソンによれば、MAGAとは本来、ひとつの思想体系ではない。トランプが好き勝手に定義してきた、衝動や嗜好の集合体にすぎないという。自分はもともとMAGAを信じたことはないが、「アメリカを再び偉大にする」という言葉自体は信じていた。しかし今回の戦争は、その理念への明白な裏切りだった。アメリカは自国の国益のためではなく、イスラエルの国益のために戦ったのだ、と彼は結論づけた。
イラン戦をきっかけに、カールソンはトランプと距離を置き始めた。だが今回は、単なる批判ではなく「離党」へと踏み込んだ。そこには、アウトサイダーとしての立ち位置を確立しながら、崩れ始めた共和党支持層の受け皿を狙う意図が見える。
YouGovによる調査(The Conversation掲載)では、2024年にトランプへ投票した有権者のうち、再選挙があれば別の候補に投票すると答えた層が、無党派層で31%、穏健派とアフリカ系アメリカ人でおよそ3割に上った。さらに、イラン戦争への評価がマイナスだと答えた層に限ると、49%が再投票を拒否すると回答している。
福音派の足元も揺らいでいる。NPR/PBS Newsとマリスト大学の調査では、白人福音派のトランプ支持率は1月の69%から4月には64%へ低下した。わずか3か月で純支持率は10ポイント下がっており、共和党政権にとって最も安定した基盤とされてきた層に変化が起きている。
この文脈で見逃せないのが、カールソンのスタジオに起きた象徴的な変化だ。研究者マシュー・D・テイラーによれば、カールソンは5月半ば、自身のポッドキャストスタジオに飾っていたアメリカ国旗を、「アピール・トゥ・ヘブン」旗、いわゆるパイン・ツリー・フラグに差し替えた。
この旗は独立戦争期にまで遡る歴史的な軍旗だが、2013年以降は、ニュー・アポストリック・リフォーメーション(NAR)系の福音派指導者ダッチ・シーツらによって、キリスト教ナショナリズムの象徴として政治的に再利用されてきた。下院議長マイク・ジョンソンの議員事務所前や、最高裁判事サミュエル・アリート邸でも掲げられたことで知られ、2021年1月6日の議事堂襲撃でも複数の同旗が確認されている。
テイラーの分析が興味深いのは、この旗が本来象徴してきた層、つまりトランプを支持し続ける親イスラエル・カリスマ系福音派と、カールソン自身がイラン戦争をめぐって対立する立場にある点だ。つまりカールソンは、旗の本来の発信先である既存のMAGA確立層に向けたというより、トランプに幻滅しつつある保守キリスト教層、次の旗印を探している層に向けて掲げ直したのではないか、というのがテイラーの見立てである。
離党宣言、MAGA形骸化発言、そして旗の差し替え。これらは別々の出来事ではなく、同じ方向を向いた一連のポジショニングとして読むことができる。
落ちない数字
カールソンの数字は高水準を維持し続けている。過去3か月間のYouTubeチャンネルの週間視聴数は平均1,650万回で、この間登録者を15万人増やした。現在の登録者数は567万人に達している。
一方で、伸び悩んでいるのが、親イスラエル派でイラン強硬論を唱えるベン・シャピーロだ。登録者数は702万人とカールソンを上回るが、週間視聴数は平均546万回と大きく下回る。
非介入主義に踏み込むほど数字を伸ばすカールソンと、タカ派路線を守り続けるシャピーロの停滞。イラン戦争をめぐるMAGA内部の路線対立が、視聴者の動きとしても可視化されているように見える。
今週の数字
チャンネル 登録者数 前週比 週間視聴数(推計)
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ショーン・ライアン 627万人 +2万人 3,510万回
タッカー・カールソン 568万人 +1万人 2,293万回
ジョー・ローガン 2,100万人 ±0 1,197万回
メーガン・ケリー 414万人 ±0 1,256万回
キャンディス・オーウェンズ 601万人 ±0 1,059万回
マット・ウォルシュ 344万人 ±0 592万回
ベン・シャピーロ 702万人 ±0 562万回
ティム・ディロン 122万人 +1万人 160万回
ティムキャスト 147万人 ±0 83万回
※6/29測定。週間視聴数は総視聴数の前週差分で算出。
離党を宣言し、MAGAの終焉を語り、保守キリスト教層へ新たなシグナルを送る。こうした一連の動きは、単なる政権批判というより、トランプ後を見据えた新たなポジショニングにも映る。本人は繰り返し出馬を否定しているが、カールソンには以前から政界進出の憶測が絶えない。もっとも、彼が目指しているのは候補者になることではなく、選挙の勝敗を左右する可動層を握ることなのかもしれない。その支持を動かせる立場に立てば、誰が共和党候補になろうとも、無視できない交渉力を手にできる。そんな計算をしているのかもしれない。

