右派YouTubeでいま伸びているのは、「反民主党」よりも、むしろトランプへの失望だ。
その象徴が、タッカー・カールソンの急伸だった。先週の週間視聴数は2,284万回。前週の1,313万回から大幅に増加し、このシリーズで追ってきた右派論客の中でも最大級の伸びを記録した。登録者数も1週間で2万人増加している。
背景にあるのは、トランプとMAGA支持層の一部との間に広がるズレだ。
「MAGAは終わった」
カールソンの論調は、この数カ月で明確に変化している。
イラン戦を境に、彼はイスラエル批判から徐々にトランプ批判へと軸足を移した。4月にはトランプを「邪悪だ」と表現し、今月初めには「みんなをミスリードしてごめん」と、2024年選挙で自身が果たした役割への後悔をにじませた。
そして先週、ついにこう言い切った。
「MAGA運動は終わった」
発端となったのは、19日に投開票されたケンタッキー州連邦下院共和党予備選だった。
7期目の現職トーマス・マッシー議員が、トランプ陣営の支援を受けた挑戦者エド・ガルレインに敗北した。
マッシーは、コロナ期の大型歳出や対外軍事介入に反対してきた共和党内でも数少ない“反ワシントン保守”の象徴的存在だ。エプスタイン資料の機密解除やイラン問題でも、政権や党指導部とたびたび衝突してきた。
今回の選挙では、トランプの強い敵意に加え、親イスラエル系団体や大口献金者が資金面で後押しした。州外から巨額資金が流入し、両陣営合わせた広告費は3,200万ドル。米下院予備選としては史上最高額と報じられている。
カールソンはこの敗北について、「ここしばらくで最も悲しい瞬間だ」と語った。
「明らかにMAGAの終焉だ。もちろん、われわれが知っていた共和党の終焉でもある」
番組内では、ミリアム・アデルソン、ポール・シンガー、ジョン・ポールソンら親イスラエル系の有力献金者を名指しし、「トランプは彼らとともにマッシーの政治生命を終わらせようとした」と批判。さらに、エプスタイン資料の機密解除拒否やイラン問題への対応を挙げ、「トランプは有権者のために戦わなかった」と不満をあらわにした。
トランプがイスラエル国内での支持率を誇示し、「イスラエルで首相選に出れば勝てる」と発言した件にも触れ、「この1年でアメリカは再び偉大になったわけではない。むしろ、想像以上の速さで国力は低下した」と語っている。
ただし、カールソン自身も「次に何が来るのか」は明言しない。
「これは終わりではない。始まりだ」
そう述べて締めくくった。
下院を失い、上院も失うかもしれない」——ケリー
変化はカールソンだけではない。
メーガン・ケリーもまた、イラン戦以降、トランプとの距離を取り始めている。
マッシー敗北について、彼女は「2,000万ドルもの資金がイスラエルのために使われた。アメリカの選挙がこんな形で決まってほしくない」と不満を示した。
さらに、保守派インフルエンサーとして人気を持つホッジズ兄弟との対談では、現在のMAGA運動を「筋金入りの忠誠者だけの小さな集団へ縮小している」と表現した。
「トランプは『新たな戦争はしない』『イラン戦争はしない』と言い続けてきた。その人物に投票した人たちが、一転してイランとの戦争を支持している。驚くべきことだ」
そのうえで、2026年中間選挙について「共和党は下院を失い、上院も危ういかもしれない」と予測している。
“TDS”の意味が反転
敗北したマッシー自身も、週末のNBC「Meet the Press」で興味深い言葉を使った。
「右派の中で“TDS”——Trump Disappointment Syndrome(トランプ失望症候群)が広がっている」
DOGEの終焉やイラン戦争によって、「トランプが築いた支持連合の一部が疎外された」と彼は語る。
「他国のための戦争を望まない人々が切り捨てられた」
もともと“TDS”は、「Trump Derangement Syndrome(トランプ狂乱症候群)」——熱狂的支持者が批判者を嘲笑するために使ってきた言葉だった。その言葉を、今度は共和党議員自身が“トランプへの失望”を表すために使う。
この反転こそが、今週の右派空間を象徴している。
今週の数字
チャンネル 登録者数 前週比 週間視聴数(推計)
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ショーン・ライアン 619万人 +1万人 4,300万回
タッカー・カールソン 562万人 +2万人 2,284万回
キャンディス・オーウェンズ 599万人 ±0 1,103万回
マット・ウォルシュ 342万人 +1万人 988万回
ジョー・ローガン 2,090万人 ±0 894万回
メーガン・ケリー 414万人 ±0 844万回
ベン・シャピーロ 704万人 ±0 529万回
ティム・ディロン 118万人 ±0 198万回
ティムキャスト 147万人 ±0 31万回
※5月25日時点。週間視聴数は総視聴数の前週差分から推計
数字が示しているのは、「トランプ支持」そのものよりも、「裏切られたAmerica First」への怒りが、コンテンツとして強く消費されていることだ。
もっとも、YouTube視聴数と選挙の動員力は別物である。マッシー敗北で示されたのは、結局のところ資金力だった。3,200万ドルという史上最高規模の選挙資金が、依然としてトランプ陣営と党主流派の強さを物語っている。
不満は可視化され始めている。問題は、それが“視聴数の反乱”で終わるのか、それとも投票行動に変わるのかだ。その最初の答えは、今秋の中間選挙で見えてくるのかもしれない。




