火曜日, 5月 26, 2026
ホーム ポリティクス USAspending Watch 虹彩認証に$25M──DH...

虹彩認証に$25M──DHS契約に見る“監視インフラ投資”の加速

5

5月18日~25日の週に公表された米政府の新規契約上位10件のうち3件を、移民取り締まりを担うICEを傘下に持つ国土安全保障省(DHS)が占めた。

内訳は、国境の壁建設関連(LMI Consulting、$172M)、軽量偵察ヘリコプター10機(Davenport Aviation、$95M)、虹彩認証システム(BI2 Technologies、$25.1M)。これらはそれぞれ、抑止・機動・識別という異なる機能を補強する支出であり、現場オペレーションの多層化が進んでいることを示唆している。

さらに同週、ICEはBabel Street系のFlywheel Dataとも$10.3Mの契約を結び、位置情報・身元特定APIのライセンスを追加した。物理資産に加えて、現場での照合や追跡を支えるデータ基盤の整備も進んでいる。

BI2 Technologies:閉鎖環境から現場運用へ

今回の契約で注目されるBI2 Technologiesは、マサチューセッツ州プリマスに拠点を置く非公開企業で、これまで郡刑務所・拘置所などに虹彩認証システムを提供してきた。虹彩認証は瞳孔周辺の模様を用いる生体認証技術であり、指紋や顔認証と比較して長期的な変化が少ない点が特徴とされる。

特集コーナー

同社のシステムは約38cm以内の距離から数秒で認証可能とされ、現場での迅速な本人確認を前提とした設計となっている。今回の契約では、「フィールド作戦中に対象者の身元を迅速に認証するための、生体情報システムへのアクセスを伴う虹彩認証技術」が提供範囲とされている。

BI2は犯罪者の認証情報を蓄積したクラウド型ネットワークも運用しており、現場で取得したデータと既存データベースの照合が前提となる構成とみられる。これは、従来の閉鎖環境(刑務所)向け認証から、現場運用とクラウド照合を組み合わせた運用形態への拡張と読める。

同社の連邦契約はFY2025に$4.6Mで始まり、今回のFY2026案件は$25.1Mと大幅に増加している。

既存生体認証との統合

DHSが2025年に公開した「AI Use Case Inventory」によれば、ICE・CBP・TSA・USCISの4機関で計182件のAIユースケースが確認されており、そのうちICEで25件、CBPで45件が既に稼働中とされる。

この中で、生体認証および身元確認に関連する領域では、すでに顔認証・指紋・ライセンスプレート認識の複数手法が実運用段階にある。例えばCBPはNECの顔認証システムを複数の入国審査・通関プロセスに統合している。

ICEも同様に、CBP経由でNECのモバイル認証システム(Mobile Fortify)を利用するほか、独自の顔認証基盤を複数用途で運用している。さらに、顔認証および指紋照合を行うモバイルアプリの現場配備も進んでいる。

今回の虹彩認証の導入は、こうした既存手段に追加される形で、複数の生体情報を組み合わせた識別精度および運用柔軟性の強化を意図したものと考えられる。

予算環境と今後の契約動向

DHSは今年、76日間に及ぶ予算停止を経験したが、その後に上院の国土安全保障・政府問題委員会が可決した歳出調整法案では、ICEに$7.5B、CBPに$9.5Bが割り当てられた。さらにCBPには、AIおよび機械学習の調達・実装に向けて2029年までに$3.5Bが措置されている。この予算は、単年度の調達ではなく、複数年にわたるシステム導入・統合・運用を前提としたものであり、生体認証を含む監視関連技術の継続的な導入余地を示している。

一方で、これらの技術活用については、市民権団体や一部の議員から強い懸念も示されており、運用範囲や対象の拡大が社会的・法的な論点となっている。

今回の契約群は、DHSにおける現場識別インフラの整備が、物理・航空・データ・生体認証を横断する形で進行していることを示す一例といえる。今後は、歳出法案の成立状況に加え、CBP・ICEによる個別契約の仕様や入札動向を継続的に確認する必要がある。