3月25日、トランプ政権は大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の初期メンバー13人を発表した。
マーク・ザッカーバーグ(Meta)、ジェンスン・ファン(NVIDIA)、ラリー・エリソン(Oracle)、マーク・アンドリーセン(a16z)、フレッド・エアサム(Coinbase共同創業者)、リサ・スー(AMD)、セルゲイ・ブリン(Google)——。
旗振り役はトランプ政権のAI・暗号資産担当として130日間の任期を終えたデイビッド・サックスが務める。規制される側が、規制を設計する側に回った。顔ぶれからそう読み取れる。また、科学者不在の人選は、AI・半導体・エネルギー・暗号資産という4つの市場に対する政策バイアスが強まったとも考えられる。
「産学混合」から「産業連合」へ
PCASTは歴代政権が設置してきた科学技術諮問機関だが、今回の構成は過去とは異質だ。
トランプ一期目(2019年設置)ではMITやハーバードの研究者が中心を占めていた。今回は2025年ノーベル物理学賞受賞者でもある量子コンピュータ研究者ジョン・マルティニスを除き、ほぼ全員が産業界のトップかVCだ。
テック偏重の新PCASTは、AI・半導体ではNVIDIAのファン、AMDのスー、Google共同創業者のブリン。次世代エネルギーインフラではデウィット(Oklo:次世代小型核分裂炉)とマムガード(Commonwealth Fusion Systems:核融合)。暗号資産・Web3ではCoinbase共同創業者のエアサムとフリードバーグ。次世代インフラを担う企業群が、一つのテーブルに集められた構図だ。
トランプとの距離:「スポンサー」から「設計者」へ
人選は、政治とテックの関係そのものが変化していることを示している。
Google(Alphabet)、Meta、NVIDIAはそれぞれ就任委員会に100万ドルを寄付している。Alphabetはさらに、YouTubeによるトランプ締め出しをめぐる和解金として2,200万ドルをホワイトハウス舞踏場の建設資金に充てた。CoinbaseはSECから別の訴訟を取り下げられる前に就任式に100万ドルを寄付しており、同社幹部は、これが政権との関係構築費用であったことを認めている。
Oracleの創業者エリソンとトランプの関係はさらに深い。エリソンは2021年以降、共和党系スーパーPACに3,000万ドル超を献金し、2020年にはトランプのためにマリブの自邸で6桁の参加費を取るファンドレイザーを開催している。OracleはStargate(5,000億ドルのAIインフラ計画)の主要パートナーとしてトランプとともに登壇し、軍事パレードのスポンサーも務めた。
開示記録によれば、トランプ本人もMeta社債、Oracle社債、PCASメンバーと関係が深いCoreWeave社債を保有している。いずれもPCAST発足発表の5ヶ月前、2025年10月の取引だ。
彼らが望むもの①——AI規制の「連邦統一」
現在、20以上の州が独自のAI規制を進めている。こうした規制の寄せ集めはリスクでありコストになる。実際、アンドリーセンやMetaは今年の中間選挙で連邦統一を支持する候補者を政治の中枢に送り込むため、政治活動委員会やロビー活動に巨費を投じている。(詳細は本サイト記事「AI大手、選挙資金で主導権争い」参照)。
サックスはBloombergの取材で「50の州がそれぞれ異なる規制を設けており、イノベーターの対応を困難にするパッチワーク規制が生まれている」と語り、PCASTの優先課題として連邦統一ルールの推進を挙げた。
彼らが望むもの②——クリプト規制の確定
もう一つの柱が暗号資産だ。議会ではステーブルコインの規制枠組みを決める「CLARITY Act」の議論が続いており、クリプト業界と銀行の利害対立が重大な争点になっている。PCASTにはCoinbase共同創業者が入っている。
PCASTの正体——「諮問機関」か「調整卓」か
新PCASTに対する評価は割れている。
懐疑的な見方も根強い。PCASTは諮問するだけで政策を作らない機関であり、TechCrunchによればオバマ政権のPCASTは8年間で36本の報告書を出したが具体的な政策変更につながったのは2件のみ。13人のビリオネアが並んでいても、その性格は変わらない可能性がある。
一方、シリコンバレーの利害調整卓として機能するかもしれないという見方もある。例えばOracleのエリソンとNVIDIAのファン、MetaのザッカーバーグはStargateをめぐる利害の当事者だ。報道によればテキサス州AbileneのデータセンターをめぐりOracleとOpenAIの拡張交渉が破綻した際、NVIDIAは1億5,000万ドルを投じて介入し、空き枠にMetaを誘致しようとした——その背景にはAMD製システムの導入を阻止するという競合排除の意図があったとされる。なおOracleはその後「報道内容は誤りだ」と反論しており、両社の全体的なパートナーシップ(4.5GW規模の契約)は継続中だとしている。PCASTにはAMDのリサ・スーも名を連ねており、競合2社が同じ諮問機関に座るという構図が生まれている。
除外された顔ぶれ
初回メンバーからはイーロン・マスクとサム・アルトマンが外れた。
マスクは昨年、トランプの目玉法案「Big Beautiful Bill」を公開批判し、対立が表面化した。自ら率いた政府効率化省(DOGE)の権限をめぐる訴訟にも直面している。支持率(49%不支持・39%支持)の低下も、中間選挙を前に政権が距離を置く理由になりうる。
コア支持層の反応も冷ややかだ。ローラ・ルーマーは、議事堂襲撃事件をめぐってトランプのFBアカウントを凍結したザッカーバーグの任命に対し「MAGAへの平手打ちだ」と反発した。
今回の人選は、政治的アラインメントの問題とも考えられる。
今回の動きから読み取れるもの
規制リスクの性格が変わりつつある。
これまでAIデータセンターや半導体、暗号資産に対する規制は、「いつ、何が来るか分からない不確実性」として市場に織り込まれてきた。しかしPCASTが連邦統一ルールや規制枠組みの提言を行えば、そのリスクは「予測可能なコスト」にシフトする可能性がある。
また、政策設計に関与する企業とそうでない企業の間には、規制対応コストの非対称性が生まれる。同じセクターに属していても、置かれる環境は一様ではなくなる。
さらに見落とされがちなのがエネルギーだ。Okloや核融合企業の参加は、AIの電力需要に対する政策的な解として、原子力系インフラが再び前面に出てくる可能性を示唆している。






