TACOは褒め言葉?民主党が密かに羨むトランプ氏の特異性

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Maxim Elramsisy/shutterstock

トランプ氏に2度の敗北を喫した民主党の内部で、トランプ流のリーダーシップに羨望混じりの声が囁かれているという。

そう語るのは政治アナリストであり、クリントン政権下で通商高官を務めたデビッド・ロスコフ氏。2日配信の米メディア「デイリー・ビースト」のポッドキャストに出演した同氏は、バイデン政権の国家安全保障と国際経済の担当官たちと面会したとした上で、トランプ氏に対する「穏やかな羨望」があると明かした。

現在党内には、トランプ氏の行動に注目し、そこから何かを学べることがあると認める者がおり、トランプ氏の決断力を評価する声もある。強い意思決定者というイメージがトランプ氏が大統領である理由の一つであるからだという。

これに対して、民主党は内部討論を延々と繰り返し、徹底的にやろうとする傾向が強いのだという。これは些細なことでも悩んで会議を何度も重ね、白書ばかりを出す政党という印象を有権者に与える。実際、クリントン氏は長時間のセミナーを何よりも好み、オバマ氏も同様だった。ヒラリー・クリントン氏は、膨大な白書を作成することで知られていたという。

ロスコフ氏は熟慮型には一定の価値があると認めつつ、「重要なのは中間地点があるということ」と強調した。

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さらに羨望には、トランプ氏の強い統率力とオーセンティシティという要素も含まれているという。

トランプ氏は内部の敵は容赦しない姿勢を示し、これが離反者の抑制に一役買っている。民主党ではこうはならない。民主党では大統領に反対する発言をしても、なんら処罰や影響を受けることはないという。

しかしながら、こうした強引なリーダー候補が全くいないというわけでもない。ロスコフ氏は、次期大統領選への出馬の可能性が取り沙汰されているエマニュエル元駐日大使に触れ、オバマ氏の大統領首席補佐官だった時代、人々を厳しく叱責することで有名だったと明かした。

オーセンティシティ(本物であること)については、ロスコフ氏は、トランプ氏は「心から語っている」という認識を与える力があると示唆。「民主党はフィルターが多すぎる」と述べ、昨年の大統領選で敗退したハリス元副大統領はステージやインタビューの場面で、「この質問に対する正しい答えが何なのかを常に模索しているように感じられた」と語った。

現在民主党ではオカシオ・コルテス下院議員やバーニー・サンダース上院議員といったプログレッシブ勢、イリノイ州のJ・B・プリツカー知事、ミシガン州のグレッチェン・ホイットマー知事が高い支持率を得ている。これらの議員は有権者に率直に語りかける政治家として評価されている可能性があり、ロスコフ氏は「有権者の心に響くには、オーセンティックであること、真実であること、心から話すことが必要だ」と繰り返した。

TACOは長所?

これとは別に、ニューヨーク・タイムズのコラムニストロス・ドゥーザット氏は、「TACO(Trump Always Chickens Out)」というあだ名が、実はトランプ氏の政治的武器を象徴していると分析する。

この言葉は「トランプはいつも尻込みする」を意味し、極端な政策を掲げつつも、市場が動揺すればすぐに引っ込める傾向を指し、最近金融界隈で注目を集めているとされる。

トランプ氏は先月12日、中国に対する145%の関税を90日間凍結し、25日には欧州製品に対する50%の関税を7月まで延期するとした。いずれの場合も、関税緩和の発表を受け、株式市場が急騰した。

トランプ氏は本来自分を揶揄するあだ名に不快感を示しているが、ドゥーザット氏は先週のコラム記事で、TACOはトランプ氏の「政治的回復力にとって極めて重要」だと指摘。「逸脱や後退、自ら矛盾を恐れない姿勢は、政権の存続を支える重要な一部で、尻込みは、浮動層への暗黙のアピールだ。いかなる極端な措置も暫定的であり、限界を試しながら後退も辞さない姿勢が安心感を与えている」と語った。

実際のところ、4月2日に「解放記念日」と称して世界関税を発表した後のトランプ氏の支持率低下について、ドゥーザット氏は、バイデン政権のアフガン撤退後に類似したものと見ていたのだという。バイデン氏はこの初期の低迷から回復できなかった。ところがトランプ氏の支持率は、関税措置の延期、DOGEの取り組みが人気低迷を招いたイーロン・マスク氏との関係解消、これまで友人と称したプーチン大統領を批判するといった姿勢転換を経て再び上昇した。現在の支持率は「分極化した国の大統領としては完全にノーマルな水準」だという。

ドゥーザット氏は、トランプ氏の基本的に即興的な外交政策は、今日の困難な情勢の下では一貫性のある代替案よりも適している可能性があり、恥ずかしげもない政策転換は複雑な環境への適応と考えることもできると指摘。悪い決断から抜け出すトランプ氏の能力は「過小評価」されていると加え、バイデン氏がトランプ氏のように恥知らずであれば、それは政権運営に活かされただろうと述べた。

こうした声は、敵への批判一辺倒から自党のリーダーに足りない資質として積極的に評価していこうというものだが、危険もともなう。先述のロスコフ氏は、コンサルタントの中にはトランプ氏のようにならなければならないといった過激な主張もあると明かし、こうした羨望は『危険な羨望』だと警告を込めて語った。