ロック大御所ニール・ヤング スポティファイ配信停止のワケ

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音楽配信サービス大手の「スポティファイ(Spotify)」は、反骨のカリスマ、ニール・ヤングの楽曲を削除する計画を明らかにした。

ワシントンポスト紙によると、同社は声明で「世界の音楽と音声コンテンツをユーザーに届けたいと考えている。これにはリスナーの安全とクリエイターの自由を両立させるという大きな責任がともなう」とした上で、「コンテンツポリシーを詳細に定めており、パンデミック開始以来、2万件を超えるコロナウイルス関連のエピソードを削除してきた。スポティファイから音楽を削除するというニールの決断を残念に思うが、すぐに戻ることを願っている」と発表した。

この2日前、ニール・ヤングはホームページに、マネージメント側とレーベルに宛てた書簡を掲載し、楽曲の削除を求めていた。書簡はすでに削除されているが、ローリングストーン誌によると、ニールは「スポティファイはワクチンに関する偽情報を拡散しており、信じた人々を死に追いやる可能性がある」と非難。「本日、私のすべての音楽をプラットフォームから取り除くことを、スポティファイに知らせてほしい」と述べ、さらに「ローガンかヤングのどちらかしか選べない。両方は無理だ」と説明した。

ローガンとは、ポッドキャスト番組「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」のホスト、ジョー・ローガンのこと。スポティファイとの契約金は「1億ドル」とも伝えられる、超人気ホストだが、ワクチンに懐疑的な姿勢を示し、イベルメクチンをリスナーに推奨するなど、コロナを巡る言動がたびたび物議を醸している。

昨年大晦日に配信したエピソードでは、ゲスト出演したロバート・マローンが、米国をナチスドイツになぞらえつつ、「国民の3分の1が基本的に催眠状態」にかけられて、アンソニー・ファウチ博士を信じ込まされているなどと主張した。

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ロバート・マローンは、mRNA技術の初期研究に参加した科学者で、mRNAワクチンの「発明者」を自負しているという。

配信後、250人を超える科学者や医師らが、スポティファイに宛てた公開書簡に署名するなど、誤情報への対策を求める声が高まった。

医師らは書簡で、ジョー・ローガンは「コロナのパンデミックに関して、誤情報を放送してきた問題の歴史」があるとした上で、スポティファイは「社会に危害を加える主張」が伝播し、「公衆の科学研究における信頼を傷つける」ことに加担していると非難。マローンの回はプラットフォーム側が、公衆に与えるダメージを軽減させることができなかった卑近な例だとし、「誤情報をモデレートする明確かつ公的なポリシーを直ちに確立する」よう求めた。

ところで、ニール・ヤングと対照的なのが、英の大御所、エリック・クラプトン。これまでヴァン・モリソンとともに、反規制、反ワクチン義務化の姿勢を明確にしているが、今月出演したYouTubeの音楽番組では、先のロバート・マローンが、ローガンのポッドキャストで話した催眠理論に言及。考えを支持する姿勢を示し、話題になった。

今回の騒動をめぐり、一部のメディアは、80年代、当時頂点にあったMTVとの確執に言及している。

ニール・ヤングは、1988年の楽曲「ディス・ノーツ・フォー・ユー」で、「ペプシのために歌わない」「コークのために歌わない」「誰のためにも」「ジョークのように見えるからね」と、楽曲をCMに使用させるアーティストらを痛烈批判。MTVがミュージックビデオの放送を拒む事態に発展した。

これに対して、ニールは「腰抜けのアホ」と書簡をしたため、「スポンサーの機嫌を損ねるのが怖いんだろう」「MTVのMは、音楽(Music)か、金(Money)か」と批判。その後、放送が実現することになった。

ツイッターやフェイスブックの影に隠れて、誤情報拡散に関する誹りを免れてきた感のあるスポティファイ。今回はニール・ヤングよりもジョー・ローガンを取る結果となったが、ドル箱のコンテンツと誤情報防止をいかに両立するのか、今後の動向に注目したい。