故ギンズバーグ判事にも非難が”飛び火” 米最高裁 中絶権利覆す判断

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米連邦最高裁判所が24日、女性の人工妊娠中絶の権利を認めた1970年代の判断を覆したことに関連し、権利擁護派の一部からは、現役の判事に加えて、二年前に死去したルース・べイダー・ギンズバーグ判事を非難する声が上がっている。

米最高裁はこれまで妊娠中絶を憲法上の権利とした1973年の「ロー対ウェイド判決」の判例に倣ってきたが、今回その判断を覆したことで、各州が独自に中絶禁止法を定めることを容認した形。保守色の強い州ではすでに中絶を全面的に禁止する法律が施行された。

これを受け、中絶の権利を擁護するリベラル派の間では、保守派の判事3人を送り込んだトランプ前大統領や共和党に怒りの矛先が向かう一方、故・ギンズバーグ判事に対する不満が噴出。生涯現役を貫かずに、オバマ政権中に引退してリベラル派の判事を後任に据えていれば、こうはならなかったと責める声が上がった。

ギンズバーグ判事は1993年、当時のクリントン大統領の指名を受けて就任して以来、リベラル派のアイコン的存在として知られた。2020年9月に87歳で死去した後、その後任にトランプ氏が指名した保守派のエイミー・コニー・バレット判事が就任したことで、最高裁判事は保守派6人、リベラル派3人となり、保守色がさらに強まった。

米誌ハリウッド・リポーターのコラムニスト、スコット・ファインバーグ氏はツイッターで、「RBG(ギンズバーグ判事)はいろんな意味でヒーローだ」と称賛した上で、「でも現役を貫いたことで、本人が最も重要視していたものが破滅に追い込んだことはひどい皮肉だ。悲しいことに、これは彼女のレガシーの大きな割合を占めることになるだろう」とコメントした。

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ポッドキャスターでコメディアンのケイティ・ハーパー氏は、エクササイズの一種で、スラングでは失敗するという意味もある「Plank」という単語をかけ、「RBGが最高裁を引退せずPlankし続けて良かった」などと、ギンズバーグ判事がエクササイズに励んだ生前の写真を添えて皮肉った。

ジャーナリストのオーウェン・ヒギンズ氏は「RBGが今日の最高裁判断を可能にした」とし、「オバマ氏が故・スカリア判事の代わりにガーランド(米司法長官)や他の誰かを後任に据えられなかったおかげだ。あなた(オバマ氏)の職務怠慢と大統領としての失敗が、今の瞬間を現実にした」と怒りの矛先をオバマ氏に向けた。オバマ氏は在任中、2016年に死去した保守派のスカリア判事の後任にリベラル派のメリック・ガーランド氏を指名したが、当時共和党が多数を占めた米議会上院の承認が得られないまま、トランプ政権に引き継いだ。ガーランド氏はバイデン政権になって司法長官に就任している。

生涯現役主義が裏目に?

ギンズバーグ判事は晩年、高齢の上、大腸がんとすい臓がんで入退院を繰り返した。最高裁のリベラル派の席を確保するため、オバマ政権が2期目を迎え、上院で民主党が少数派に転落する前から、早期引退を勧める声が上がっていたが、本人は現役続行を固持した。

ニューヨーク・タイムズの編集委員、ドロシー・サミュエル氏は、Politicoの取材に「これは多面性のある問題だ。ギンズバーグ判事は万人の平等に熱意を持って取り組んでいた。女性が国を構成する一員であるための道を開いてきた。しかし、彼女がもたらしたのは、自身も貢献してきた平等に関する判断を覆すような裁判所で、その影響はこれから長年にわたって続く」と述べ、「非常に自己中心的な行いだった」と非難した。

スタンフォード大の法律学教授、ミシェル・ドーバー氏は、「彼女はギャンブルをした。自分自身だけではなく、私の娘や孫娘の権利をも巻き込むギャンブルをした。そして不幸なことに、それが彼女のレガシーだ。悲劇的だと思う」とコメントした。