チェイニーが大統領選出馬ならトランプに有利?民主党で警戒の声

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予備選に敗退した翌日、テレビ番組のインタビューで、トランプ氏の再選を阻止するために、大統領選で対抗馬に名乗りをあげる可能性を示した共和党のリズ・チェイニー下院議員(56)。民主党の一部では、そうした動きがかえってトランプ氏の勝利を助けてしまうのではないかと警戒する声が上がっている。

党内の反トランプ派を率いるチェイニー氏は、今月16日のワイオミング州連邦下院予備選で、トランプ氏の支持を受けたハリエット・ヘイグマン候補に40ポイント近くの大差で敗れた。

敗北演説で「本当の仕事がこれからはじまる」と宣言したチェイニー氏は、翌日、テレビ番組「Today」に出演し、「ドナルド・トランプは、国家に重大な脅威と危険をもたらし続けると考えている」とした上で、「彼を倒すためには、共和党と民主党、無党派の幅広い協力戦線が必要になると考えており、私はそれに加わるつもりだ」と話した。さらに2024年大統領選の出馬を検討していることを認め、今後数カ月以内に決断を下すとした。

チェイニー氏の落選は選挙前から濃厚とされ、選挙中から大統領選出馬の可能性がささやかれていた。ただし、トランプ氏に勝利する見込はほぼ皆無とみられることから、無所属や第3党からの出馬、または、予備選は共和党候補の一人としてトランプ氏の勢いを弱め、本戦は無所属で出馬し、トランプ氏の票をうばいにかかるといったシナリオなど、さまざまな憶測が流れていた。

バイデン大統領は、予備選での敗退が決まったチェイニー氏に直接電話をしてねぎらったと報じられている。また民主党議員の中には、「党派よりも国」を尊重し、トランプ氏に正面から立ち向かうチェイニー氏を称賛する声も多い。

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一方、出馬となればかえってバイデン氏の足枷になる可能性を危惧する声も上がっている。

ブレンダン・ボイル下院議員(民主党 ペンシルベニア州)は18日、The Hillの取材に「リズの行動には大変に頭が下がる。彼女は連邦議員としてのキャリアを犠牲にしてトランプ氏に挑んだ」とチェイニー氏を評価。その一方で、「大統領選出馬については、彼女がトランプ氏に対抗して無所属で出馬するつもりなのか、考えがはっきりしない。トランプ氏を阻むつもりが意図せず助けてしまう危険もある」と述べた。

民主党ストラテジストのエディ・ベール氏は「共和党でも無所属でも、チェイニー氏が実際に当選を目指して出馬するつもりなら、それを彼女に進言している人々は妄想的で、物事の大枠が見えていない」と短絡的な考えを批判。「必然的に、バイデン氏から反トランプ派の票を奪う結果となる」と主張した。

左派は冷ややかな反応を示している。バーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)の元選対幹部、ニナ・ターナー氏は、ブッシュ政権下のイラク戦争で暗躍したチェイニー副大統領の娘に同調する動きを牽制。「民主党の中にはリズ・チェイニーを身内のように考える人がいる。とんだ恥さらしだ」とツイートした。

いずれにせよチェイニー氏は選挙の行方を左右できないとの指摘もある。クック・ポリティカル・レポートのデイブ・ワッサーマン氏はツイッターで「2024年の共和党予備選でチェイニーが重要な要素になる、または無所属としてトランプから票を吸い上げるという考えは馬鹿げている」と投稿した。

出馬は現時点では不明だが、チェイニー氏は今後とも副委員長をつとめる議事堂襲撃を調査する下院特別委員会の活動に注力するほか、自身の政治組織を通じて、トランプ氏以外の共和党議員にまで当選を阻止する活動を拡大する意向を示している。

チェイニー氏は、予備選敗退後に選挙資金の残りを新たな政治活動委員会に移動する申請をしたと報じられており、21日のテレビインタビューでは、同組織を通じて「選挙否定派を当選させないよう、全力を尽くす」とし、対抗馬をサポートすると宣言した。この中で、下院共和党トップのケビン・マッカーシー院内総務は、「憲法に背いている」と批判し、下院議長になるべきではないと主張。さらに大統領選への出馬がささやかれているテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)、ジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリー州)を名指しして、「選挙後、憲法の秩序と構造と根本から破壊する対応をとった」と非難。「大統領にふさわしくない」と述べるなど、両氏を標的にする考えを示唆した。