バイデン氏がん公表、広がる同情と募る疑念

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バイデン前大統領が18日、前立腺がんを患っていると公表した。AP通信によれば、排尿トラブルをきっかけに検査を受けたところ、前立腺に結節が見つかり、15日にがんと診断されたという。がんは骨にまで転移しており、悪性度を示す「グリソンスコア」は最も高い「9」。重い段階にあると見られる。

マサチューセッツ総合病院のがん専門医は、転移性前立腺がんの治療成果はここ数十年で大きく進歩しており、患者の平均余命は4〜5年程度と見込まれると指摘。バイデン氏のようなケースでは薬物治療が主軸となり、手術や放射線治療はあまり推奨されないとのことだ。

公表直後から、政界からは励ましの声が相次いだ。

オバマ元大統領はX(旧Twitter)で、がんの画期的治療法の発見にここまで尽くしてきた大統領はいない、とバイデン氏の取り組みに言及し、「決意と潔さで困難に立ち向かうだろう」とコメント。ハリス前副大統領も「ジョーは戦士」と述べ、回復への期待を寄せた。

一方、普段は厳しい批判を展開しているトランプ大統領もSNSで「メラニアとともに深く悲しんでいる」「早期回復を祈る」と投稿。しかし翌日には一転、記者会見で、バイデン氏の病状公表のタイミングと、過去に取り沙汰されてきた認知機能の問題を結びつけ、「国民に知らされていないことが起きている。誰かが医師に話をしなければならない」、「ステージ9(ステージの表現は誤り)になるには長い時間がかかる」「誰かが事実を知らせていない。大問題だ」と疑念を織り交ぜた。

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オバマ政権で保健政策特別顧問を務めたエゼキエル・エマニュエル医師は「10年ほど前から進行していた可能性もある」との見解を示す。MSNBCの番組「モーニング・ジョー」に出演した同氏は、「70歳以上では定期的な前立腺検査は一般的に勧められていない」と前置きしつつ、バイデン氏のような立場で検査を受けなかった可能性は「やや驚き」とも語った。もし検査を受けていたにもかかわらず、その情報が伏せられていたとすれば、医師側の説明責任も問われかねないと指摘している。

こうした中、保守派の論客やメディアからは、情報隠蔽の疑いをめぐる声が強まっている。

FOXニュースのジェシー・ワッターズ氏は、「これは医療ミスなのか、それとも意図的な隠蔽なのか」と述べ、大統領主治医だったケビン・オコナー氏の議会召喚を求めた。さらに「もし再選していたら、バイデン氏が任期中に亡くなり、ハリス氏が大統領になり、その時、医療チームやメディアは“すみません、見逃してしまいました”などという状況は信じられない」と疑問を呈している。

FOXの元司会者ビル・オライリー氏も「もし大統領ががんだったと知りながら公表しなかったなら、それは犯罪」と発言。政府関係者が公衆を誤導した場合は「重大な法的責任が生じる」として、議会での証言が必要だと主張した。

民主党内に広がる再建議論

20日に発売された書籍『Original Sin』では、バイデン氏の再選出馬が2024年の敗北の「原罪」として位置付けられている。著者のCNNジェイク・タッパー氏とAxiosのアレックス・トンプソン氏によれば、バイデン陣営は認知機能の問題を隠す努力を続けていたという。そもそもハリス氏では勝てず、政権の“重荷”を背負っていない新たな候補を立てる機会を逃したという見方が示されている。

歴史的な支持率低下に直面する民主党内でも同様の批判が上がり始めていた。

下院のロー・カンナ議員は18日午前中のテレビ番組で、バイデン氏の再選出馬は「間違いだった」と明言。隠蔽工作の存在は否定しつつも、党は過ちを認めるべきだと述べた。上院のクリス・マーフィー議員も「もっと早く撤退すべきだった」と語り、有権者の不安に党が正面から向き合わなかった点を問題視している。

がんの公表は、健康状態への対応をめぐる新たな疑問を巻き起こし、バイデン氏が民主党の再出発を巡る議論の重要な一部であり続ける可能性がある。