米スペースX(SpaceX、SPCX)のイーロン・マスク(Elon Musk)最高経営責任者(CEO)は米国時間11月6日、来年12月の年換算売上(ARR)が5,000億ドル(約80兆円)を超える可能性が「かなり高い」と述べた。ただし「約束ではなく、最善の推測だ」と断っている。
発言の場は、米運用会社バロン・キャピタル(Baron Capital)がニューヨークのメトロポリタン歌劇場で開いた第33回Baron Investment Conferenceだ。マスク氏はビデオ中継で登壇し、同社のロン・バロン(Ron Baron)CEOと約1時間対談した。売上のほか、半導体工場「テラファブ」、データセンター、大型宇宙船「スターシップ」、携帯事業についても数字を交えて語った。
売上予測:1兆ドルも「論外ではない」
マスク氏はまず、今年12月に年換算売上を1,000億ドル(約16兆円)超とする目標について、「自然災害でもない限り達成する」と断言。そのうえで、来年12月のARRは5,000億ドルを超える可能性が「かなり高い」とした。1兆ドル(約160兆円)も「もはや論外ではない」としながらも、可能性は「2%程度」と付け加えた。
10月20日の決算会見では、来年末の年換算売上を「5,000億~1兆ドル」と幅で示していた(関連記事:SpaceX(SPCX)7〜9月期決算:売上161%増で黒字転換 来年1〜3月期は最大370億ドルの見通し)。今回は上限の1兆ドルを「2%程度」とし、トーンを下げた形だ。
足元の伸びについては、10~12月期は前期比で約70%、来年1~3月期も「同程度かもしれない」と述べた。7~9月期の売上は145.75億ドルで、10~12月期が70%増えれば約248億ドル(約4兆円)となり、アナリスト予想の229億ドルを上回る。来年1~3月期も同じように伸びれば約420億ドルとなり、会社が10月に示した見通し(330億~370億ドル)も上回る(いずれも編集部試算)。会社の正式な見通しより強気とも読める。
24/7 Wall St.によると、アナリスト37人の2027年度の売上予想は平均約1,800億ドル、最高で2,900億ドルだ。ただしマスク氏の試算は来年12月の売上を年に換算した数字で、1年間の売上合計とは単純に比べられない。マスク氏自身も対談で、予測は「当たり外れが半々になる水準を狙っている」と語っている。
テラファブ構想:世界生産の30倍
マスク氏によると、世界のAIチップの生産量は、消費電力に換算して今年が20~25GW、来年が35~45GW程度になるという。テラファブ(Terafab)がめざす年1TW(テラワット)は、来年の世界生産の約30倍にあたる。
バロン氏が「1兆ドルかかる」と向けると、マスク氏は「時間をかければ、おそらくそれ以上」と応じた。ただし資金がすぐに全額必要になるわけではなく、段階的に建設するという。
テキサス州オースティンには研究拠点を置き、新しい製造方法を数多く試す。設計から試作、検証までを一つの拠点で行い、通常1年かかる開発の周期を1カ月に縮められるかもしれないとした。
10月の決算会見では、最初の試作チップを2027年5~6月ごろ、量産を2028年7~9月期ごろとしていた。今回は時期に触れなかった。
データセンター事業:地上から宇宙へ
マスク氏は、データセンターへの地域の反発について「熊手を持った住民の怒りはかなり高い」と冗談めかして語った。ただ、テネシー州メンフィスの自社拠点については、地元では歓迎されていると強調した。飲食店やホテルは満席で、地域の水準の2倍の賃金を払うこともあるという。
強みとして挙げたのは建設の速さだ。メンフィスでは1GWを超える自家発電所を、通常5年かかるところ約1年で建て、今後1.5~2GWに増やすという。一方、米国では工事を実際に担う人手が足りず、建設途中のデータセンターが各地に残っていると指摘した。
採算については、バロン氏が「SpaceXは建設費350億ドルのデータセンターを、他社に年500億ドルで貸している」と説明したが、マスク氏は「ある意味では」と応じるにとどめた。会社の正式な説明は、10月の決算会見でブレット・ジョンセン(Bret Johnsen)最高財務責任者(CFO)が示したものだ。貸出価格は1ワットあたり50ドルをやや上回り、新たな設備投資は1年以内に回収できているという。
なお、四半期報告書(10-Q)によると、7~9月期は1社の顧客が売上の34.5%を占めた。社名は開示されていないが、ブルームバーグは関係者の話としてAI開発のAnthropicと報じている。
地上の先に掲げるのが宇宙だ。エヌビディア(NVDA)と共同設計した宇宙データセンター「スターマインド(Starmind)」は、「推測だが」と断りつつ2027年7~9月期に打ち上げを始め、28年に本格化、29年に大量の打ち上げに入るとの見通しを示した。グーグルのAI半導体(TPU)を載せた衛星などが、すでに宇宙で正常に動いているとも述べた。
宇宙をめざす理由は電力だという。米国の平均消費電力は500GW強で、年200GWのAI計算を地上で賄うのは、米国の電力網を毎年40%増やすのに等しく現実的でない。宇宙なら太陽光が絶えず、大気による減衰もないため、得られる太陽光電力は地上より30%多いという。マスク氏は「中国と競うには、知能を宇宙へ持っていくしかない」とも語った。
地上の制約は政治でも強まっている。3日の中間選挙では、新規データセンター建設の一時凍結を訴える民主党のジーナ・ヒノホサ(Gina Hinojosa)氏がテキサス州知事に当選した。マスク氏は選挙後、Xに「宇宙のデータセンターがいまやかなり魅力的に見える」と投稿している。ただし対談では、選挙結果についての質問は出なかった。
10月の決算会見では、年末の計算能力を2.5~3GWとし、2027年末に13GWを下回れば「驚く」と述べていた。今回は計算能力の目標には触れなかった。
スターシップ:上段キャッチは「約1週間後」
宇宙の計算が地上より安くなるのは、軌道への輸送費が下がってからだとマスク氏は説明する。その前提となるのが、機体を丸ごと回収して再使用するスターシップだ。
マスク氏は、発射塔のアームで2段目の宇宙船(シップ)を受け止める初の試みを、シップ42号機で「約1週間後」に行うと述べた。米メディアは11月13日の打ち上げを目標と報じている。1段目のブースターの回収には2024年から成功しているが、シップを塔で受け止めた例はまだない。マスク氏は、再使える軌道用の耐熱シールドを「人類が挑んだなかでも最も難しい技術的問題の一つ」と呼んだ。
完全な再使用が実現すれば、軌道への輸送費は1kgあたり100ドル(約1万6,000円)を下回るとの見通しを示した。2~3年のうちに、1トンを軌道に運ぶ費用が、カリフォルニアからオーストラリアへの航空貨物を下回るとも語った。
ブースターを発射台で受け止めてすぐ飛ばせば、原理的には1時間に1回の打ち上げも可能だという。ただしこれは理論上の上限だ。10月の決算会見で示した現実的な見通しは、2027年前半に週1回、後半に週2回以上だ。
携帯事業:通信会社の買収にも言及
バロン氏は、周波数は公共の財産なのに、需要に応えられない既存の通信会社がなぜ持ち続けられるのかと問うた。マスク氏は、SpaceXは取得済みの周波数で「かなり先まで行ける」としたうえで、こう続けた。既存の通信会社よりはるかに有効に使えるなら、「その通信会社を買収して、周波数を10倍有効に使えばいい」。
SpaceXをめぐっては、米紙ワシントン・ポストが2日、米エコースター(EchoStar)と、傘下の格安携帯ブランド「Boost Mobile」の買収などを協議していると報じたばかりだ(関連記事:SpaceX、携帯参入へ格安Boostと協議か)。ただし今回の発言は、周波数を有効に使うことを前提とした一般論で、特定の会社を指したものではない。EchoStarは周波数の多くをすでにAT&TとSpaceXに売っており、Boostの価値は周波数より、大手から借りる回線の契約にある。
SpaceXは衛星経由の携帯サービス「Starlink Mobile」を、各国の携帯電話会社と提携して提供している。日本のソフトバンクやNTTドコモ、ニュージーランドのSpark NZなどとの提携も進めている。グウィン・ショットウェル(Gwynne Shotwell)社長によると、9月末の月間利用者は2,200万人を超えた。ただし決算資料はこうした提携を企業向け事業の成果として挙げており、四半期報告書でもStarlink Mobileの売上は企業・政府向けの売上に含めて開示されている。2,200万人は、SpaceXが個人と直接契約した携帯加入者の数とは性格が異なる。
SpaceXが自社の周波数を使った携帯サービスを始めるのは、2028年初めの予定だ。米クアルコム(Qualcomm、QCOM)は11月4日、SpaceXが同社の基地局向け技術を採用し、2027年に全米で地上5G網の展開を始めて複数年で数万カ所に広げると発表した。ただし商用サービスの開始時期は示しておらず、SpaceX自身は発表していない。
今後の注目点
- 11月13日(目標):スターシップ15回目の試験飛行。初のシップのタワーキャッチに挑む。米連邦航空局(FAA)の打ち上げ免許が前提
- 10~12月期の決算:売上が前期比70%増(約248億ドル)に届くか、12月に年換算売上1,000億ドルを超えたか
- 米連邦通信委員会(FCC)の承認:低帯域の800MHz帯の取得が承認されるか
- 2027年5~6月ごろ:テラファブの最初の試作チップ(会社の社内目標)
- 2027年:携帯向け地上5G網の展開開始(Qualcommの発表)
- 2027年7~9月期:スターマインドの打ち上げ開始(マスク氏の見通し)
- 2028年初め:取得した周波数を使う自社の携帯サービスの開始(会社の計画)




