9月3日、米国は輸入ドローンとその部品に最大100%の追加関税をかける。その同じ9月、国防総省はGauntlet IIの結果に基づき、低コスト攻撃ドローン最大6万機の生産発注を進める予定だ。
一方では「単価を下げろ」と大量調達を進め、他方では輸入品への関税を引き上げ、中国製部品の排除を急ぐ。「中国依存を断ちながら、低コストで大量生産する」――。トランプ政権のドローン政策は、この難題に直面している。
9月には競争調達の第2弾、新関税の施行、米中交渉など、今後のドローン産業政策の方向を左右するイベントが集中する。
Drone Dominance Program——1年で「実験」から「量産」へ
第二次トランプ政権の発足後、ドローンをめぐる産業政策は段階的に進んできた。
鍵となるのは2025年6月6日にトランプ大統領が署名した大統領令14307「Unleashing American Drone Dominance」だ。
同大統領令は、物流、インフラ点検、精密農業、緊急対応といった商業用途の拡大、国内生産の拡大、そして「信頼できる米国製ドローン」の輸出拡大を掲げた。あわせて国防総省には、「米国で製造された低コストかつ高性能なドローンを調達・統合し、それらを用いて訓練する能力」を整備するよう求めている。
これを受け、ヘグセス国防長官は7月、2026会計年度末までに陸軍の全分隊に小型の片道攻撃ドローンを配備すること、部隊が現場で小型ドローンを改修できる体制を整えることを指示した。
そして今年2月、国防総省はDrone Dominance Program(DDP)を始動させた。
DDPは国防イノベーションユニット(DIU)が主管し、総額11億ドル、4フェーズの競争調達で小型片道攻撃ドローンを購入する。2027年までに20万機超のAI搭載型ドローンを配備し、量産によって単価を段階的に引き下げることを目指す。
特徴は選抜方式にある。
企業を集めて実機を飛ばさせ、公開リーダーボードで性能を比較し、発注先を決める。第1フェーズ「The Gauntlet」は2月中旬から3月にかけてジョージア州フォート・ベニングで実施され、25社が参加。1億5,000万ドルで3万機という調達枠を競った。第2フェーズはミシガン州キャンプ・グレイリングでの予選(6月8~19日、49社・79機種)を経て19社に絞られ、8月にコロラド州フォートカーソンで本戦が行われる。各社は120機の攻撃ドローンと8セットの耐久部品を約5週間で納入することが求められている。
こうしたなか、ホワイトハウスは8月18日、初のDrone Dominance業界会合を開催した。会合には約40社、100人が参加したと報じられている。
「実験」から「量産」へ。米政府はドローンを一気に戦場の大量消費財へと変えようとしている。
「1機3,000ドル」という難題
問題は、その価格だ。
公式発表や米メディアの報道によると、DDPが掲げる価格目標は次のようになっている。
第1フェーズ:1億5,000万ドルで3万機 → 1機あたり約5,000ドル 最終フェーズ:1機あたり3,000ドル(初期の発表では2,300ドル)
参考までに、イラン製Shahedを参考に開発された米国のLUCASは1機3万5,000ドルとされる。
一方、8月に行われるGauntlet IIでは、さらに具体的な価格が設定されている。
▪️長距離打撃型
約20kmまでの遠距離で目標を捕捉し、撃破する
1機あたり4,500ドル
▪️近接市街地型
最大2km
建物、塹壕、地下環境に対応
1機あたり3,500ドル
弾薬は機体とは別枠で、1発あたり3,250ドル。殺傷用・訓練用いずれも同額とされる。発注数は両区分とも、1位8,000機、2位7,000機、3位6,000機、4位5,000機、5位4,000機。各区分で合計30,000機、両区分あわせて最大6万機になる。
ただし、この数量は見込みであり、確定ではない。募集要項には、政府が各区分で5社未満を選ぶ権利と、順位ごとの配分を調整する権利を留保すると明記されている。第1フェーズの調達枠は1億5,000万ドルで3万機、単純計算で1機あたり約5,000ドルだった。第2フェーズの固定価格は4,500ドルと3,500ドル。そして最終目標が約3,000ドル。
価格は、段階的に下げる設計になっている。問題は、その設計が部品の調達現実と噛み合うかどうかだ。固定価格である以上、コスト超過は企業側が負う。しかも、そのタイミングで米政府はコストを押し上げかねない政策を同時に進めている。
「安く作れ」と「中国を排除」が同時進行
大きな要因は3つある。
第一は関税だ。9月3日から、最大離陸重量 25kg 超のドローンと熱画像機能を持つドローン、そのドッキングステーションと重要部品に100%、それ以外の小型機と部品に25% の追加関税がかかる(日本など一部の同盟国には10~15%の上限が設定される一方、原産地要件がある)。一方、Blue UAS クリアランス取得機体などには180日間の猶予(2027年2月9日まで)が認められている。
ただし、この猶予は期限付きだ。後述するように、Blue UAS掲載機の大半は中国製モーターを搭載していると報じられている。2027年2月に猶予が切れた時点で、それらの部品にも関税が及ぶ可能性がある。軍向けサプライチェーンが当面守られているのは、問題が先送りされているからだ。
第二は中国の対抗措置だ。8月5日、中国商務省は、ドローンおよびその主要部品・関連技術のうち、中国の軍民両用品目輸出管理リストに掲載されたものについて、対米輸出を「個別に厳格審査し、許可簡素化措置の対象外とする」と発表した。理由として「国家安全保障」を挙げている。
全面禁輸ではない。しかし許可の可否は個別審査に委ねられ、これまで適用されていた簡素化措置は使えなくなる。中国は供給の可否を個別審査に委ねることで、輸出の運用を調整できる余地を残した。これが米中交渉の材料になる可能性もある。
第三は、国防総省自身による中国製部品の排除だ。Gauntlet IIでは、参加機体に中国製のバッテリーとモーターを使用してはならないとされている。
つまり米国のドローンメーカーは、中国製部品を使って安く作ることも、輸入品に頼ることも難しくなっている。供給側が締められ、関税がかかり、調達要件も厳しくなる。その一方で、政府は単価を大幅に下げようとしている。この両立が、最大の焦点になる。
桁違いの米国の製造コスト
この問題を数字で示しているのが、カーネギー国際平和財団のジェイク・ステックラー氏の分析だ。
ウクライナのドローン・電子機器メーカーの平均賃金は月500ドル、熟練工の求人相場は月600~700ドル。これに対し、米国の同等労働者は月5,000ドル超で、およそ10倍の開きがある。
部品はさらに厳しい。米国では兵器への中国製部品の使用が制限されるため、あるドローンメーカーは、米国での製造が「文字通り100倍高い」と証言している。
また、米メディアDefenseScoopの取材に対し、元国防高官は次のように明かしている。
中国製の小型ブラシレスモーターは、1個12~25ドル。これに対し、真に米国製と言えるものは、1個100~225ドル。ドローン1機に4個使うとすると、中国製なら48ドル、米国製なら400ドル。差額は352ドル。これだけで近接戦闘型の固定価格3,500ドルの、約1割に相当する。
供給能力の差も桁が違う。中国が年間1億個の小型ブラシレスモーターを製造できるのに対し、米国の産業基盤は10万個程度と、1,000倍の開きがある。
ウクライナとロシアは安価な中国製部品を使いながら、安い労働力を背景に自国の部品製造も立ち上げてきた。米国には、中国の部品量産能力も、ウクライナの低賃金と実戦直結型の生産構造もない。ウクライナでは月に数十万機を生産し、1日あたり約9,000機を投入しているとされる。米国がこれと同じ規模を目指すなら、10倍の人件費と制約された部品調達を抱えたまま、生産性を大幅に引き上げなければならない。
ボトルネックはAIチップではなく、モーターと電池
ドローンをめぐる報道では、AI半導体やNVIDIA製チップの輸出規制が注目されがちだが、大量生産を考えるとボトルネックは別のところにある。
ステックラー氏の分析によれば、米国と同盟国はNVIDIA Jetsonのような、機体上で自律処理を行う先端AIチップでは優位を保っている。一方、ドローンが大量に必要とするのは、飛行制御、通信、センサーなどに使われる大量の「レガシー」チップだ。この市場では中国が存在感を強めている。
さらに直接的なのが、モーター、バッテリー、レアアースだ。中国製ドローンは米国の商用ドローン市場の約9割、世界市場の8割超を占めるとされ、米国はバッテリーやレアアースでも中国に依存している。
そして、国防総省が承認したBlue UASリスト掲載機体の大半は、依然として中国製のモーターを搭載していると、複数の関係者がDefenseScoopに証言している。
これは違反ではない。Blue UASの根拠となる2020会計年度国防授権法(NDAA)848条が規制対象としたのは、カメラや通信リンク、通信チップといった「データを保存・送信する部品」だった。中国のサーバーに情報が流れうる部品である。モーターやバッテリー、スピードコントローラーのような単純な部品は、対象から外れている。規制されなかった結果、非中国製モーターへの需要が生まれず、中国以外の供給者も育たなかった。米国製モーターが8倍から10倍高いのは、その帰結でもある。
「中国製バッテリーとモーターを含んではならない」というGauntlet IIの要件は、この現実に真正面からぶつかる。Blue UASが認めてきたものを、DDPが禁じる形になっているからだ。
中国が8月5日に輸出を制限し、米国が8月の競技で中国製部品を締め出す。デカップリングが双方向で同時に進んでいるが、代替供給網はまだ完成していない。
「米国製ドローン」の首位は米国企業ではなかった
この構造を象徴するのが、第1フェーズの結果だ。
首位を獲得したのは、英国企業Skycutterが提出した、ウクライナのSky Fall社が設計した光ファイバー制御のFPVドローン「Shrike Fiber」。スコアは99.3点で、2位のNeros(87.5点)に11.8点の差をつけた。3位はPerennial Autonomy(80.3点)、6位にはUkrainian Defense Drones(72.9点)が入った。
「米国製ドローンの優位」を確立するためのプログラムで、最初の競技を制したのは、ウクライナ設計・英国提出の機体だった。
評価項目には使いやすさや生産速度も含まれていた。実戦で鍛えられた設計と生産体制が、米国企業を上回ったことになる。これは同盟国との連携が、米国の産業能力の穴を埋めうることを示すと同時に、国内生産の拡大と海外依存の低減を掲げたEO 14307との間に、現実との距離があることも示している。
「ドローン株」と実際の受注企業は一致しない
市場の側から見ても、この構造は興味深い。
第1フェーズで発注を受けた11社に、Red Cat傘下のTeal Dronesは入らなかった。ただしTeal Dronesは7月2日、Gauntlet IIへの進出を発表している。つまり、「ドローン関連銘柄」として買える企業と、実際に米軍の発注を受けている企業には乖離がある。
受注企業の多くは非上場のスタートアップであり、首位と6位は外国勢だ。「防衛費が増えるからドローン株」という単純な発想は、この市場構造では機能しにくい。
なお、公開リーダーボードによれば、第1フェーズで11社が受注した実数は24,320機とされる。国防総省が発表する「3万機」という数字とは差がある。
政府の解法は「大量発注」で需要を作る
では、どうやってコストを下げるのか。専門家が指摘する解決策は、国防総省が米国企業から大量に買い、部品レベルの供給者に規模拡大の動機を与えることである。
業界団体AUVSIのマイケル・ロビンズ会長は前出のDefenseScoopの取材で、問題は需要シグナルの不在にあった、と指摘する。
「非中国製モーターへの需要シグナルが、これまで存在しなかった。いまはある。企業が資金を調達し、米国と同盟国に製造を戻し始めている」
ハドソン研究所のブライアン・クラーク氏も、これは本質的に供給網の問題であり、代替供給元の分析、関係構築、契約の枠組み、そして供給者の採算が成り立つだけの部品とドローンの購入が必要だと述べている。
この観点で見ると、DDPの「2027年までに20万機超」という数量目標は、単なる装備計画ではない。部品供給者に投資を促すための需要シグナルそのものである。
7月31日、国防総省の戦略資本室(Office of Strategic Capital, OSC)がPerformance Drone Works社に最大8.2億ドルの条件付き融資を供与すると発表したのも、同じ文脈にある。
目的は、ドローンの重要部品を大量生産するための国内製造能力の構築だ。資金が完成機ではなく部品に向けられている点が、ボトルネックの所在を示している。
補助金でも調達契約でもなく、融資という形をとっているのも特徴的だ。8月20日に公表された国家安全保障科学技術戦略(NSSTS)でも、戦略的資本投資の枠組みや、民間資本を通じて安全保障技術を支援する経路の検討が示されている。
今後OSCの資金がどの部品・企業に向かうのかは、米国がどこに供給網を築こうとしているのかを読む指標になる。
3,000ドルは可能か
整理すると、こうなる。
第1フェーズの実績は1機あたり約5,000ドル。第2フェーズの固定価格は4,500ドルと3,500ドル。最終目標は約3,000ドル。価格は段階的に下げる設計になっている。
一方、中国製から米国製にモーターを切り替えるだけで1機あたり352ドルの上乗せが生じ、バッテリーとスピードコントローラーも同様の構造にある。組み立ての人件費は10倍。中国は8月5日、その供給の弁に手をかけている。
そして固定価格である以上、この差は値下げ交渉では吸収されない。企業のマージンを直接削る。
この矛盾が早急に解決できるのかは不明であり、移行のために以下のような選択も考えられる。
- 価格目標が折れる 約3,000ドルが達成されず、次フェーズ以降の固定価格が引き上げられる。
- 数量目標が折れる 20万機という目標の達成時期が後ろ倒しになる。
- 部品要件が緩む 同盟国原産の部品を認める範囲が拡大する。あるいは逆に、Blue UASの「重要部品」の定義が拡大され、要件が統一される。
- 中国側が緩む 9月24日に予定される習近平国家主席の訪米などを通じて、輸出管理が政治的に調整される。
直近の観測点は三つある。
第一に、8月のGauntlet IIの結果と、それに基づく発注内容。中国製バッテリー・モーター禁止という条件のもとで、4,500ドルと3,500ドルという固定価格に何社が応じられたのか。募集要項は各区分で5社未満を選ぶ権利を政府に留保している。19社が競って選ばれたのが10社に満たなければ、価格に見合う企業が想定より少なかったという読み方ができる。
第二に、Blue UASの部品要件。DCMAへの移管を機に「重要部品」の定義が見直され、モーターやバッテリーが対象に加わるのかどうか。加われば要件は統一されるが、リスト掲載機の多くが再認証を迫られる。
第三に、中国の個別審査の運用。全面禁輸ではない以上、許可の出方そのものが交渉状況を映す指標になる。
米国の防衛歳出は2026年に約1兆ドルと過去最高を記録し、2027年度要求は1.5兆ドルに達するとされる。しかし、予算を増やすことと、低コストの兵器を大量生産できる産業基盤を作ることは別の問題だ。
1機3,000ドルという目標は、AIの性能だけで達成できるものではない。12ドルのモーターを、いくらで、どこで作れるようになるのか。その答えを政府が「大量発注」と「政府資本」で作れるのか。ドローンは、トランプ政権が掲げる「中国依存からの脱却」と「米国製造業の再構築」を同時に実現できるかを試す、重要な試金石でもある。



