6月第1週に発生した連邦政府による新規契約の首位はFisher Sand & Gravel(25.9億ドル、国境壁建設)。その下にElbit America(8,614万ドル)、General Dynamics One Source(7,142万ドル)、ATSC(6,345万ドル)――いずれもCBPの監視タワープログラムの受注企業だ。8位にはTeledyne FLIR Defense(2,876万ドル)が並ぶ。壁を建て、タワーを立て、センサーを展開する――データは、DHSが「境界線の管理」に何を買っているかを如実に示している。
こうした個々の契約を国土安全保障省(DHS)のFY2026発注データ全体(約376億ドル、6,864件)と合わせてみると、巨大な監視インフラ網が見えてくる。
本誌の推計では、2026会計年度(以下、FY2026)のDHS新規契約のうち、壁・フェンス・バリアなど物理的な国境建設を除いた「監視の目」テクノロジーに絞ると、関連企業への発注総額は約12億ドルにのぼる。機能別に整理すると、四つの層に分かれる。
固定監視(Fixed Eyes)
国境沿いに固定または再配置可能なタワーを設置し、広域を面的にカバーする。
中核を担うのは、2023年に発注されたCTSE(統合タワー・監視機材)プログラムだ。最大14年、3社体制のIDIQ契約で、ElbitAmerica(イスラエル系)、General Dynamics One Source、ATSC(民間)の3社を中心に、最終的に南北国境に約900基の監視塔を展開する計画とされる。FY2026のDelivery Order累計はElbitが3.0億ドル、GDが7,142万ドル、ATSCが6,345万ドル。
このCTSEに割り込んだのがAndurilだ。2025年12月に3.6億ドルでCBPから「PURCHASE OF TOWERS」を受注。シリコンバレー系防衛スタートアップの旗手で、Palmer Luckey(オキュラス創業者)が設立した同社の自律型タワーはAIによる自動検知・分類機能を持つ。CTSEの3社とは異なる調達ルートで食い込んだ形だ。
機動監視(Mobile Eyes)
固定タワーの届かない空白地帯を、陸・海・空の機動センサーが埋める。
陸:Teledyne FLIR Defense(今週のEMSC-L)
CBPが10年以上にわたって使い続けてきた指定サプライヤー。熱画像カメラとレーダーをピックアップトラックの荷台に搭載したLVSSの進化版がEMSC-Lだ。1人のオペレーターが車内から30秒以内に16フィートのマストを展開でき、16km先の人物を追跡できる。今回はソール・ソース(指名発注)での受注。FY2026のCBP・沿岸警備隊向け累計は9,397万ドルにのぼる。
海:Saildrone
風力と太陽光で自律航行する無人水上艇。全長10メートルのVoyagerは100日間無補給で稼働し、レーダーと光学センサーを搭載する。2026年3月に沿岸警備隊と1,559万ドルの契約を結んでおり、少なくとも16隻が五大湖と北東部沿岸に展開中と報じられている。
Guardianは今週、この配備を批判的に報じた。「五大湖は違法薬物や不法移民の温床とは言えない地域だ。問題の本質はリアルタイムの迎撃ではなく、データを生成することにある。これは技術実験であり、持続的な海上監視インフラを構築することが真の目的だ」――研究者の指摘は、この調達の性格を端的に示している。
空:Shield AI
垂直離着陸型無人機VBATを沿岸警備隊に提供。プエルトリコやカナダ国境の沿岸警備艦に搭載し、海上監視を担う。FY2026の沿岸警備隊向け累計は2,934万ドル。本誌注目の理由は別にある――同社の自律AIパイロット「Hivemind」は現在、ウクライナの一方向攻撃ドローンに実装されているほか、イラン戦争を背景に需要が高まる低コスト攻撃ドローン(LUCAS)への統合も進んでいる(CNBC)。国境監視と戦闘攻撃の同一技術を使い回す「デュアルユース」の象徴的存在だ。
デジタル身元確認(Identity Eyes)
拘束・接触の瞬間に人を「識別」する「目」だ。
BI² Technologies(FY2026累計2,511万ドル、非競争入札)は本誌5月26日号でも取り上げた虹彩認証の専門業者だ。FY2025は460万ドルで始まった連邦契約が、One Big Beautiful Bill施行後の一年でほぼ5.5倍に膨らんだ。ICEの現場捜査官が約38センチの距離から数秒で対象者の虹彩を照合し、クラウド上の犯歴データベースと突合する仕組みで、非競争・唯一ソース(FAR 6.302-1)を根拠に入札なしで発注された。一部の報道によると、Ballard Partners(トランプ政権に近いロビイスト事務所)の顧客企業として名前が挙がっている。
CellebriteはDHSへの納入額こそFY2026で550万ドルにとどまるが、ICEとHomeland Security Investigations(HSI)向けに5年・上限1億ドルのIDIQを今年中に締結予定。スマートフォンフォレンジックツールの大手プロバイダーで、押収したスマートフォンのロック解除やPCのデータにアクセスするツールを提供している。近年は、スマホに仕掛けられた政府系スパイウェアをAIによって検出するサービス開発にも取り組んでいる。
AI・データ統合(Invisible Eyes)
全レイヤーのデータを集約し、分析・予測・意思決定に変換する「見えない目」。
PalantirはFY2026で1.05億ドルをDHSから受注。主力はICEの「移送管理の近代化」(8,627万ドル)で、逮捕から拘留・送還に至る全プロセスをImmigrationOSとGothamプラットフォームで管理する。2026年2月に5年・上限10億ドルのBPA(包括購買契約)がDHS全体で発効し、個別入札なしでCBP・ICEをはじめとするDHS各機関にサービスを供給する体制が整った。
主要国のミリタリー並み
四層を合算すると、「監視の目」だけで約12億ドル。壁・建設の246億ドルと合わせたDHS全体376億ドルは、2025年に成立した大規模歳出法(通称 “One Big Beautiful Bill”)がDHSに投じた1,910億ドルの一部に過ぎない。
規模感を示す比較がある。ICEのFY2026ベースの資金規模は約290億ドルで、カナダの国防費(約293億ドル)とほぼ同規模に達している。デンマーク、ベルギー、ルーマニアなどNATO加盟国の国防費は軒並みこれを下回る。Brennan Center for Justiceは「他のすべての連邦法執行機関の年間予算を合算した額より大きい」と指摘する(Newsweek)。10年前、ICEの年間予算は60億ドル以下だった。
その装備の顔ぶれを見れば、DHSがもはや単なる「法執行機関」ではないことがわかる。イスラエル製の固定タワー、AI統合の自律タワー、無人水上艇、垂直離着陸UAS、虹彩認証システム、そして全データを統合するAIプラットフォーム――これは国防総省(DoD)の装備目録と区別がつかない。
象徴的なのはShield AIだ。沿岸警備隊のVBAT監視ドローンに載っているHivemindと、対イラン攻撃ドローン群に載っているHivemindは同じソフトウェアだ。AndurilもDHSの国境タワーとDoDの戦闘ドローン開発を同時に進める。「国境監視」と「軍事作戦」の境界線は、少なくとも技術レイヤーにおいては、すでに存在しない。違うのは配備場所だけである。


