米上院で審議が停滞している暗号資産法案「Clarity Act」において、最大争点の一つだったステーブルコイン利回り規制(Section 404)について、妥協案が固められた。
報道によれば、取りまとめを主導したのはトム・ティリス上院議員(共和党)とアンジェラ・アルブルックス上院議員(民主党)。年内成立への期待は高まる一方、銀行業界は早くも「不十分」と反発。対するクリプト側は「守るべきものは守った」と主張する。
両者の言い分の間に、誰が何を失い、何を得るのかが見えてくる。
The Blockが報じた妥協案の骨子は以下の通りだ。
・ステーブルコイン保有のみを理由とした利息・利回りの支払いは禁止
・銀行預金の利息と経済的・機能的に同等なものも禁止対象
・一方で、activity-based rewards(活動ベース報酬)は許容
すでに昨年成立したGENIUS Actによって、ステーブルコイン発行体による直接的な利回り提供は禁止されている。今回のSection 404は、その抜け道となり得た「取引所や関連プラットフォーム経由の利回り提供」を封じている。
ただし、完全禁止ではない。
「実際の活動」に基づくものであれば認められる余地が残された。報酬は「残高・期間・保有年数、またはその組み合わせを参照して計算可能」ともしている。決済、送金、DeFi利用などに紐づく報酬設計であれば、実質的に残高連動型に近いインセンティブを維持できる可能性がある。
ここに、クリプト業界が「守った」と主張する理由がある。
もっとも、SEC(証券取引委員会)、CFTC(商品先物取引委員会)、財務省が1年以内に「許容される活動」の詳細ルールを策定するとされており、不確実性は残る。
銀行は反発
米国銀行協会など5団体は、政策の方向性自体は支持しつつも、現行案では利回り付きステーブルコインへの規制が不十分だと主張した。
その主眼は預金基盤の防衛にある。声明では、こうした商品が預金の代替となって地域銀行から資金を吸い上げれば、銀行の調達コストが上昇し、消費者ローンや中小企業ローン、農業ローンの縮小を招くと警告している。
Circleに突きつけられるモデル転換
このルール変更の影響を最も強く受ける企業の一つが、USDCを発行するCircleだ。
Circleはこれまで、
「USDC流通量拡大 → 準備金運用益増加」
という構造で成長してきた。
特に重要だったのがCoinbaseとの提携である。CoinbaseはCircleとの収益分配契約に基づき、USDC保有者へインセンティブを提供しながら残高を積み上げてきた。
しかしSection 404によって、「保有しているだけ」で報酬を与えるモデルは制限される可能性が高い。
これは、Circleに「USDCを持たせる」戦略から、「USDCを使わせる」戦略への転換を迫る。
同社が進める決済ネットワーク「Circle Payments Network(CPN)」や、Visaなどとの提携は、その方向性を示している。ステーブルコインを“金利付き資産”ではなく、“送金・決済インフラ”として定着させる必要があるからだ。ただし現状、Circleの売上の大半は依然として準備金収益に依存している。今後は、決済やネットワーク利用そのものからどれだけ収益を生み出せるかが問われることになる。
Coinbaseのジレンマ
Coinbaseにとっても影響は大きい。
同社のステーブルコイン収益は2024年に9億1100万ドルに達し、サブスクリプション・サービス収益の約40%を占める柱だ。その仕組みは主にCircleとの収益分配協定に基づく。CoinbaseプラットフォームにあるUSDCの保有量に応じてCircleから収益を得て、その一部をユーザーに還元することで残高を積み上げてきた。
Section 404が施行されると、ユーザーへの還元コストは消えるが、同時に残高を積み上げるインセンティブも消える。保有報酬を目的にUSDCをCoinbaseに置いていたユーザーが流出すれば、Coinbaseプラットフォーム上のUSDC残高が減少し、Circleからの収益配分も減る。
CoinbaseのCPOであるFaryar Shirzadは「real usage(実際の使用)に基づく報酬は守られた」と述べた。activity-based rewardsの解釈・設計次第で残高連動の報酬を維持できる可能性がある。しかし最終的なルールはSECとCFTCと財務省が1年かけて決める。その間の不確実性がくすぶり続けることになる。
「保有」から「使用」へ
ユーザー視点で見ると、今回の規制の方向性は明確だ。
USDCを持っているだけで報酬を受け取る時代は縮小し、「使うこと」に報酬が紐づく方向へ移る。
送金する。
決済に使う。
DeFiで運用する。
ステーブルコインは、「利回りのあるドル代替資産」から、「ドル決済インフラ」へ引き戻されようとしている。それは、銀行業界が当初から望んでいた姿に近い。
もっとも、Section 404はClarity Act全体の一部分にすぎない。法案の本丸は、SECとCFTCの管轄権を明確化し、暗号資産市場を制度金融の中へ正式に組み込む点にある。
今回の妥協案は、法案前進への重要なシグナルではある。しかしDeFi開発者規制や倫理条項など、なお残る争点は多い。銀行業界もすでに反発姿勢を示しており、デッドラインとされる5月末までに上院銀行委員会と本会議採決へ進めるかは、なお不透明な状況だ。

