イラン戦をめぐるトランプ”直接”批判が、右派インフルエンサーの間で広がりを見せている。当初は一時的な波乱と見られたこの動きは、収まる気配を見せない。
批判の視野は目下、非介入主義やイスラエル批判にとどまらず、権威の限界・正当性の議論へと発展している。
一方で、トランプはインフルエンサーの選別、MAGAメディアの再編を進める動きをみせている。ただし、その成否は見えない。
トランプはアンチキリストかーーカールソン
タッカー・カールソンは、トランプ批判を一段高い位置に引き上げた。「邪悪だ」といった表現から、「彼はアンチキリストではないか」と。
「彼はイエスを嘲っている。これは特定の事実ではなく、真実そのものへの攻撃だ」
発端は、トランプがSNSに投稿した“AIイエス画像”だ。自らをキリストのように描いたこの投稿は批判を浴び、現在は削除されている。
カールソンは聖書の預言に言及しつつ、「自らを神の上に高める指導者——これはアンチキリストか?」と問いを投げた。
批判は、政策の是非から権威の根源への問いに移行している。
「blasphemous——冒涜だ」——ケリー
メーガン・ケリーも、AIイエス画像を正面から取り上げた。
画像の内容を丁寧に説明した上で、「これは明らかに、自分を神に見立てている。どんな定義によっても冒涜だ」と断じ、「謝罪すべきだ——彼は決してそうしないが」と付け加えた。
トランプの教皇批判にも言及。
「世界14億人のカトリック教徒の指導者」に対する批判は「賢明ではなかった」と諭すように述べつつ、「先週はムスリム、今週はカトリック。次は誰か。イスラエル人でないことは保証する」と皮肉った。
ヘグセス国防長官の記者会見での宗教的言辞にも批判を向けた。
「ペンタゴンのブリーフィングで神に祈るのは適切ではない。日曜日に祈れ、毎朝ひざまずいて祈れ。しかし何人殺したかを報告している最中に、イエスや神に言及するな。神がそれを承認しているかのように振る舞うな」
批判の軸は一貫している。宗教レトリックの政治利用は、戦略的にも不合理だという指摘だ。
トランプは呪いをかけられた――オーウェンズ
キャンディス・オーウェンズは、批判をトランプの周囲へと広げる。
「トランプは悪魔的な影響下にある」
「ポーラ・ホワイトが呪いをかけたのかもしれない」
ホワイトはトランプのスピリチュアル・アドバイザーで、ホワイトハウス信仰局の上級顧問だ。4月のイースターランチでトランプに向かって「あなたが払った代償を払った人はいない。裏切られ、逮捕され、冤罪をかけられた。それは私たちの主が示したパターンだ」と発言し、広く批判を浴びた。
オーウェンズはさらに踏み込む。「あなたはすべての約束を裏切った。チャーリー・カークを裏切り、メーガンを裏切り、タッカーを裏切り、私を裏切った」
切り離せる論客と切り離せないインフルエンサー
トランプはこうした批判に対し、言論空間の整理を進めている。
カールソン、ケリー、オーウェンズらには「低IQ」「三流ポッドキャスト」「精神科に行け」といった個人攻撃を繰り返し、影響力を切り下げようとしている。
一方で、トランプが距離を縮めようとしている人物もいる。
ジョー・ローガンだ。
ローガンは“可動層”のキーマン
登録者2,000万人を超えるローガンは、トランプ支持から距離を取りつつある。イラン戦についても、公約違反と批判している。
それでも、ホワイトハウスは先週、彼を大統領令署名式に招いた。テーマはサイケデリクス研究の迅速化――ローガンが長年主張してきた分野である。
Axiosの報道によれば、この大統領令は批判を続けるローガンとの関係維持のための「橋」として位置づけられていた。
この動きから読み取れるのは、トランプが単に「影響力の大きさ」で相手を判断しているわけではないことだ。むしろ、支持の可動性、つまり「動かし得る層」かどうかを重視している。
カールソン・ケリー層は高齢層中心の固定支持層であり、論客として切り離し可能と判断されている。ローガン層は若年男性中心の可動支持層だ。Reuters/Ipsosの2月調査によれば、18~29歳男性のトランプ支持率は33%で、前年同時期から10ポイント下落している。若年男性層の離反食い止めには、ローガンが欠かせない。
主要インフルエンサーの今週の数字
チャンネル 登録者数 前週比 週間視聴数(推計)
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ショーン・ライアン 612万人 +2万人 2,306万回
タッカー・カールソン 557万人 +1万人 1,775万回
キャンディス・オーウェンズ 596万人 ±0 1,121万回
メーガン・ケリー 417万人 −1万人 967万回
ジョー・ローガン 2,090万人 ±0 716万回
ベン・シャピーロ 706万人 −1万人 751万回
マット・ウォルシュ 339万人 +2万人 439万回
※週間視聴数は総視聴数の前週差分で算出
カールソンとケリーの視聴数は前週から低下した。ただし視聴数ではローガン(716万回)やシャピーロ(751万回)を依然として上回っており、トランプ側が進める「信用失墜戦略」は少なくとも現時点では十分に機能していない。
シャピーロが理論的補強
この状況で、ベン・シャピーロは素早く理論的な補強を行った。
「アメリカは今、二つの新しい党に分かれつつある。民主党と共和党ではない。アメリカ例外主義者と、党派を超えた不満党だ」
例外主義者はアメリカが偉大だと信じ、必要な困難な仕事をする。
不満党は左にも右にもいて、アメリカは偉大ではなかったと信じ、世界から撤退しようとする――シャピーロはそう定義し、「今この対立はイランをめぐって戦われている」と説明。右派の「不満党」に、大統領が「Low IQ」と呼んだ人々を含めた。
非介入主義者と左派を同列に並べることで、批判者を「反米」として処理する。トランプの個人攻撃に理論的な骨格を与え、選別を正当化するための言語と読める。
ただし、シャピーロ自身の視聴数(751万回)はカールソン(1,775万回)の半分以下にとどまっており、この理論が右派言論空間でどこまで浸透するかは未知数だ。
再編の行方を決める二つのポイント
現時点では、非介入派の影響力は依然として維持されている。仮にカールソンやケリーが弱体化したとしても、ローガンという不確定要素は消えない。
ローガンは批判を撤回していない。今回の大統領令は一時的な「ガス抜き」に過ぎない可能性がある。
次の臨界点――停戦の崩壊、戦争の長期化――で彼がどちらに動くかは依然として不透明だ。
カールソン・ケリーの視聴数は転落に向かうのか。ローガンは最終的にトランプ側に立つか、それとも離れてしまうのか。この二点が、トランプによるMAGAメディアエコシステムの再編の成否を占う鍵となる。

