「ヒトラーの最も有名なフレーズ」発した観客、会場を追い出される 全米オープンテニス

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ニューヨークで開催中の全米オープンテニスの会場で、ヒトラーの「最も有名なフレーズ」を口にした観客が、警備員に連れ出される出来事があった。

騒動が起きたのは、5日深夜12時15分ごろ。アーサー・アッシュ・スタジアムでは、男子シングルスの4回戦、アレクサンダー・ズベレフ選手(ドイツ)とヤニック・シナー選手(イタリア)の試合が行われていた。

第4セットでゲームカウント2-2となった後、ズベレフ選手(26)は主審に歩み寄り、観客の1人が「ヒトラーの最も有名なフレーズを口にした。許せない」と伝え、注意するよう求めた。主審は後ろを振り返り、「誰だ、誰が言った?」と大声で問いかけた後、選手に敬意を払うようアナウンスした。

その後、客は特定され、警備員によって連れ出された。モニターには複数人の警備員が客に近寄る姿が映し出され、会場からはブーイングと大きな拍手が沸き起こった。

ズベレフ選手はこの試合でシナー選手を破り、準々決勝へと駒を進めた。

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AP通信によると、ズベレフ氏は試合後、最前列にいた観客が口にしたのは「当時のヒトラーの国歌、Deutschland über alles(Germany above all)だった」と観客に説明し、「ちょっと行き過ぎだと思った」と心情を語った。

「彼は長時間、試合に熱中してくれていたんだと思う。ファンが騒いだり、感情を高ぶらせたりするのは好きだし、気にしていない」と述べつつも、ドイツ人として「その歴史をあまり誇らしく思っていない」と明かした。観客は最前列に座っていたため、他の人にも聞こえただろうと述べ、「私が対応しなかったら、自分たちにとっても良くないと思った」と語った。

昔のドイツ国家の歌詞

ネットでは、ズベレフ選手に対する賞賛の声が上がっている。また、「ヒトラーが使用したフレーズ」ではなく、「昔のドイツ国歌の歌詞」との声が上がっている。

「Deutschlandlied」(ドイツの歌)は、1797年にハイドンが作曲した音楽に、1841年に詩人ホフマン・フォン・ファラースレーベンが歌詞を加えた。雑誌ニューヨーカーによると、ファラースレーベンは、「善良なブルジョワのリベラル主義者」で、ドイツ帝国主義を念頭に置いて書かれたものではなかったという。1922年のワイマール共和国時代、すでに国歌として採用されていた。

1933年にヒトラーが政権を掌握した後、国歌の1番の冒頭の歌詞(Deutschland, Deutschland über alles, Über alles in der Welt)は、ドイツ人の優位性を示すものと解釈され、プロパガンダとして使用された。第二次世界大戦後の西ドイツと現在のドイツ連邦共和国では、1番と2番が禁じられ、3番のみが国歌として歌われている。

ニューヨーカーは、ドイツ国歌が「独特」なのは、「極右によって先鋭化され、ファシスト国家を支援するのに用いられたにもかかわらず、最終的に全く同じ歌を使用して、民主主義に対するコミットメントを再び宣言した点」と説明している。

2017年にハワイで開催されたテニスのフェドカップでは、地元のオペラ歌手があやまって1番の歌詞を歌う出来事があった。米国テニス協会は、二度と繰り返さないとして謝罪を表明している。