米国ビザ最新事情 自己申請グリーンカードにみる移民局の審査厳格化の傾向

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今回は、自己申請グリーンカードの移民局の審査傾向についてお話ししたいと思います。このところ、移民法弁護士協会のEmail リストでは、『EB-1 Person with an Extraordinary Ability』と、『EB-2 National Interest Waiver』に関して、Nebraska Service Centerで不当と思われる”Request for Evidence”や却下が相次いでいるので、苦情で溢れています。

例えば、ミシュラン2つ星以上のレストランはNYの6万軒のレストランのうち16軒しかないのですが、「そのレストランが高い評判を得ているという証拠にならない」とか、「(プロフェッショナルに印刷された)リーフレットだけではそのイベントが本当に行われたかわからない」といった具合です。そもそも、これらの申請の証拠の証明基準は、”Preponderance of Evidence”と申しまして、「あったかないかで言うと、多分あ
っただろう」という弱いものです。ですので、例にあげたような証拠を否定するべきではないはずです。また、推薦状も証言だけではなく、それをサポートする別の証拠がないと採用されないという傾向が続きます。

通常、私ども移民法弁護士はクライアント様からいただいた資料(証拠)をもとにサポートレターを作成し証拠を添付して申請するのですが、いただく資料の多くは、例えば受賞証書のようなハードエビデンスばかりではありません。最近の賞はWebのみの発表ということも少なからずあり、それに対して「証書を提出するように」と言われても出しようがないケースもあります。先ほどのPreponderance of Evidenceのスタンダー
ドであれば、Webのプリントアウトでも受け入れてもらえるはずなのですが、現在の運用はそこから外れていると言わざるを得ません。

バイデン政権で移民法の規則自体は緩められているのに、なぜこういうことが起きるのでしょうか?一つの説明は、コロナの間に大量のバックログができ、それを解消するために移民局で新たな審査官を大量に採用しているのですが、その応募条件として国土安全保障省(Department of Homeland Security)で〇年の経験があること、というものがあります。

移民局の他には、税関・国境警備局(Custom and Border Protection Service)、移民・関税執行局(Immigration and Custom Enforcement)といった警察的機能を持つエージェンシーでの経験と言うことになります。そうしますと、まず、移民法そのものに対して慣れていないことの他に、警察的な前職ですので、審査が肯定より否定に傾きがちです。

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では、どういう対策があるかと申しますと、なるべくハードエビデンスを揃えることに尽きますが、実際上はそういったものがない功績もたくさんあり、また、例えば受賞証書を提出したとしても、その審査員、審査の方法、過去の受賞者についてのエビデンスを提出するようにと追加要求されることが多く、どこまで証拠を提出すれば認められるのか困惑することも多々あります。アグレッシブなアプローチを取る弁護士は、スーパーバイザーのレビューを要求する場合もあります。これは、移民法の申請は却下の場合は複数の審査官が目を通すことになっていますので原理的には違いがないはずであるものの、特にスーパーバイザーの注意をひくといった効果があると思われます。

一旦却下された場合、Motion to Reopen/Reconsiderという再審査請求、行政庁内のAppeal、そして、連邦裁判所での裁判がありえます。また、新たな申請しなおしも多くみられるところです。上訴を続けていく場合で注意しなければならないのは、初めの申請を提出した時点までの功績しか考慮にいれられないことでしょうか。例えば、申請書提出後、立派なレビューに論文が掲載されてもその論文は評価の対象にならないといった具合です。申請しなおしは、同じような申請書であってもあっさり許可されることも、伝統的には多々あります。本来、再申請したから有利になるということは原理的にはないはずですので、移民法の審査が運に左右されるということを示していると思われます。

しかし、現状がこうであっても申請を先延ばしすることはあまりお勧めできません。なぜならば次の大統領が誰になるか不明で、もしトランプであれば今以上に審査が厳しくなることが予想できるからです。そして、次の大統領就任まで1年を切っております。自己申請をされる方にとって現在は非常に難しい判断を迫られる状態となっておりますので、よく弁護士とご相談されることをお勧めいたします。

寺井眞美(米国NY州弁護士)