米国の暗号資産規制をめぐり、地域銀行とホワイトハウスの間で火花が散った。舞台はX(旧Twitter)だ。
テキサス独立銀行協会(IBAT)の会長、クリストファー・ウィリストン(Christopher Williston VI)は3月7日、暗号資産関連法案「CLARITY Act」をめぐり妥協に反対する姿勢を投稿した。
“Compromise on CLARITY is compromising local lending and economic production.” 「CLARITYで妥協することは、地域融資と経済生産を損なうことだ」
さらに、
“It’s simply impossible to roll over in the fight for liquidity that powers the economies of the places we call home.” 「地域経済を支える資金の流れを守る戦いで、引き下がることはできない」
と述べ、地域銀行にとって預金は地元経済を支える「生命線」だと強調した。
「自宅に火をつける放火犯」
これに対し、ホワイトハウスの大統領デジタル資産諮問委員会(President’s Council of Advisers on Digital Assets)でエグゼクティブディレクターを務めるパトリック・ウィット(Patrick Witt)が即座に反論した。
“No compromise on CLARITY means no restrictions on intermediaries offering stablecoin rewards.” 「CLARITYで妥協しないなら、取引所などが提供するステーブルコインの”rewards(報酬・利回り)”にも制限がなくなる」
そのうえで、銀行側の主張には論理矛盾があると指摘する。
“If you believe the banks’ argument about deposit flight, this would be catastrophic.” 「銀行が言うように預金流出が起きるなら、それは壊滅的な結果になるはずだ」
そして最後に、強烈な比喩を投げた。
“Feels like I’m watching an arsonist threaten to burn down their own home.” 「まるで自分の家に火をつける放火犯を見ている気分だ」
銀行側の主張は、結果的に自分たちの首を絞めるものだという批判だ。
対立の焦点はステーブルコイン「報酬」
この論争の背景には、暗号資産関連法案「CLARITY Act(Digital Asset Market Clarity Act of 2025)」をめぐる対立がある。
同法案は、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の管轄整理など、デジタル資産市場の規制を明確化することを目的とした「市場構造法案」と位置づけられている。
現在、最大の争点の一つがステーブルコインの「報酬(rewards)」だ。
前段階として成立した「GENIUS Act(2025年7月成立)」では、ステーブルコインの発行体が保有者に金利や利子を支払うことは禁止された。一方で、関連会社や第三者による報酬の提供までは禁じられていない。
例えばCoinbaseなどの取引所は、USDCの発行体Circleとの収益分配契約などを原資に、ステーブルコイン保有者に利回りを還元することができる。GENIUS Act成立(2025年7月)直後には4%台の利回りが提供されており、現在も有料会員(Coinbase One)向けに3.5%程度の利回りが提供されている。
こうした利回りは銀行預金より高くなることも多く、銀行業界はステーブルコインが「デジタル版マネーマーケットファンド」として預金を吸収する可能性を警戒している。
実際、業界団体のIndependent Community Bankers of America(ICBA)は、ステーブルコインの普及によって最大1.3兆ドルの預金がコミュニティバンクから流出し、融資能力が8,500億ドル縮小する可能性があると警告している。
地域銀行にとって預金は、地域企業への融資や住宅ローンの原資となる。預金流出は融資縮小につながり、地方経済にも影響を与えかねないとの懸念が強い。
ただし、銀行業界の立場は一枚岩ではない。地域銀行が預金流出を警戒して反対を強める一方、ウォール街の大手銀行はブロックチェーン決済や資産のトークン化の実験を進めており、暗号資産インフラへの関与を模索している。
一方で、市場はこの法案の行方を投資判断の変数として見ている。トランプ政権の元高官でヘッジファンドマネジャーのアンソニー・スカラムッチは2月8日、こう述べた。
“One of the real gatekeepers here is the Clarity Act. I think there’s a lot of institutions that are not going to move on Bitcoin until they get clarity from the U.S. Government.” 「ここでの真の障壁の一つはCLARITY Actだ。米政府からの明確な方針が出るまで、ビットコインに動かない機関投資家は多い」
法案の成立可否が、機関投資家の暗号資産参入タイミングを左右するという見立てだ。
What’s Next 上院審議の行方
CLARITY Actは昨年7月に下院を通過し、上院では農業委員会が今年1月29日、共和党賛成12・民主党反対11の党派ライン採決で可決した。
しかし、ホワイトハウスの強い働きかけにもかかわらず、業界対立の調整がつかず、上院銀行委員会では審議のめどが立っていない。1月にCoinbaseのブライアン・アームストロングCEOが銀行業界寄りとして支持を撤回したことを受け、銀行委員会はマークアップを延期した経緯がある。
ロビイストの間では、3月から4月に銀行委員会が承認し、8月の夏季休会前の7月が本会議採決の大きな締め切りとなるとの楽観的な見方もあるが、逆風も小さくない。
仮に共和党が委員会承認を押し切ったとしても、本会議ではフィリバスターを打ち破るために超党派の合意が必要となる。民主党の筆頭委員エリザベス・ウォーレンはCLARITY Actに強く反対しており、妥協は容易ではない。
さらに、トランプ一族の暗号資産ビジネスとの関係も政治問題化している。ウォーレンは、トランプ関連の暗号資産事業に総額約9,000万ドルを出資した巨額投資家であるジャスティン・サンをめぐるSEC詐欺訴訟の取り下げ(今月5日、Rainberry社が1,000万ドルを支払う和解が成立し、サン個人への訴訟は全件棄却)について、SECがトランプの取り巻きの手先になっていると非難。法案に腐敗防止条項を盛り込むよう要求している。
加えて、中間選挙の年には大型法案の成立が難しくなる傾向もある。
今回のX上の論争は、トランプ政権のクリプト推進路線と、地域銀行ロビーの利害衝突が表面化した象徴的な出来事といえるが、仮に銀行とクリプト業界の摩擦が調整されたとしても、中間選挙を控えた政治環境を考えれば、年内成立は楽観視できない。

