NY中学校「ヴェニスの商人」演劇授業中止に

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マンハッタンの中学校では、シェークスピアの「ヴェニスの商人」を扱った演劇制作のカリキュラムを中止することを決定した。ニューヨークポスト紙が伝えた。

授業は、シェイクスピア作品の公演に定評のある一座「Theater for a New Audience(TFNA)」の協力で、グリニッチビレッジにある「75 Morton」中学校の7年生の演劇クラスのために企画された。ユダヤ人の父兄から、題材の適切性をめぐって懸念の声が寄せられたという。

「ヴェニスの商人」はシェークスピアの代表的な喜劇の一つだが、反ユダヤ主義的な要素を含むとして、長らく議論の対象となっている。スミソニアン・マガジンは、劇中に登場するユダヤ人の高利貸し「シャイロック」について、「ステレオタイプな貪欲なユダヤ人として描かれ、キリスト教徒に唾をかけられ、絶えず侮辱されている」と問題点を指摘している。Time誌は、「シャイロック」という言葉自体、ユダヤ人を中傷する言葉として考えられていると伝えている。エルサレム・ポストによると、ナチスドイツでは「反ユダヤ主義の信用性を高めるために」好んで上演され、1933年から1939年の間、50劇団以上が上演していたという。

当初、同学校の校長が、保護者と教師、TFNAを交えた会合を設ける予定だとされていたが、結局、話し合いをすることなく、急遽中止が決定された。学校側からは、保護者にメールで「学校コミュニティの一部が、人種差別や反ユダヤ主義の懸念があると、この演劇に反対の意を表している」と連絡があったという。メールではまた、TFNAはカリキュラムを「適切な分析、気配り、思慮深さをもって作品が扱われるよう、名誉毀損防止同盟(ADL)の提言を考慮して製作した」としつつ、「劇団の異なる一団と先に進めることを決定した」と説明しているという。

ADLは米国最大のユダヤ人団体で、教育現場で「ヴェニスの商人」を扱うにあたり、反ユダヤ主義の問題を議論するためのガイドや資料を提供している。

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父兄からは賛否の声が上がっている。

ある保護者はポスト紙の取材に、「最低限の知識と内容の理解がないと、戯曲に描かれている反ユダヤ主義がいかに悪いもので、危険であるかを理解できない」と学校の決定に一定の理解を示した。一方、別の保護者は、「適切に教えるには、十分な文脈化が必要」と難しさを認めつつ、「劇には素晴らしい教えがあり、シャイロックを取り上げて、人種差別に関するレッスンに適用することができる」と指摘。中止以外の可能性をめぐる議論があっても良いとの考えを示した。