マンハッタンにある数学博物館では「Math Unfolded: An Exhibit of Mathematical Origami Art」と題し、数学を切り口にした折り紙アートの世界を紹介する特別展を開催している。

館内奥に設けられた特設ギャラリーには、24人のアーティストによる66作品を展示。作家には、物理学者で、折り紙の理論家として知られるロバート・J・ラング氏や神谷哲史氏といった著名な名前が並ぶ。作品は昆虫や動物を模した具象的なものから、抽象作品、幾何学的デザイン、服飾品までと幅広く、数学を取り入れることで実現する折り紙の新たな可能性を探求する内容となっている。

「折り紙を数学の観点から紹介する展示企画は米国ではじめて」とシンディー・ローレンス(Cindy Lawrence)館長は語る。今回の企画は、長年の友人であり、数学者でアーティストのエリック・ディメイン(Erik Demaine)氏との話し合いがきっかけとなり、折り紙団体「Origami USA」の協力を得て、開催にいたった。

Cindy Lawrence館長©mashupNY
Erik Demaine and Martin Demaine : Voronoi Sunflower, Sunflower Series (2018) ©mashupNY

なお、エリック氏は最年少でマサチューセッツ工科大の教授に就任した若き天才数学者で、父親でガラスアーティストのマーティン・ディメインさんとともに創作活動に取り組んでいる。作品には、ニューヨーク現代美術館に常設展示されているものもある。

ギャラリーや美術館風の展示形式は、数学に関心のある来館者に加え、数学になじみはないが芸術に関心の高い人々にも多く来場してもらいたいという意図が込められている。また、作品とともにコンピュータープログラムによる折図を展示するなど、アートと数学、コンピューター科学が交差する過程を示すことで、理解を助け、関心を高める工夫がなされている。

Robert J. Lang, White-Tailed Deer, Opus 550 (2002) / ©mashupNY

展示には実用的な作品も含まれる。ウィン・ウィン(Uyen Nguyen)氏がデザインしたスカートやバッグには、折り紙技術と数学が応用されている。

Uyen Nguyen, Stem and Leaf Ensemble(2019) / Mark Kornbluth

現在、自身のブランド「Win Win」を展開するウィンさんは、エンジニアからデザイナーへ転向した異色の経歴の持ち主。コーネル大学原子物理研究所で折り紙の研究を行なっていた頃、同大学のファッションプログラムの学生と共同で、バンクーバーファッションウィーク2016春夏コレクションに作品を出展した。その後、台湾の奇美博物館で開催された世界最大の折り紙展示会ではキュレーターを務めている。

ウィン氏はすべてのデザインにコンピューターを使用するといい、フラットに折り畳まれたファブリックが立体的なスカートに変化するデザインには、フィボナッチ数列を応用しているのだという。

フィボナッチ数列やサイン波形をデザインに応用しているというウィンウィンさん。©mashupNY

折り紙をファッションに応用する難しさは、生地の加工にあるとウィンさんは語る。フィボナッチのスカートでは、2枚の型紙で生地を挟んで折りたたみ、オーブンでベイクして製作したのだという。将来性について、折り紙はデザインだけではなく、縫い合わせずに製作するなど、製造過程における新たな可能性が期待できると語る。

折り紙技術の実社会への応用は様々な分野で進行している。シンディー館長によると、自動車のエアバッグに応用されているほか、宇宙衛星のソーラーパネルの開発や医療研究にも使用されている。またタンパク質フォールディングの研究者と折り紙作家との共同研究もはじまっているという。

一方、フィラデルフィア在住のフェイ・ゴールドマン(Faye Goldman)氏は、幾何学や数学をベースに、無数の小さなモジュールの組み合わせから成る立体的な造形物を創作するアーティストとして知られる。

Faye Goldman氏によるスナポロジーを応用した作品群

作品はいずれも華やかな色が幾重にも折り重なり、宝飾品や伝統工芸品のような美しさが漂う。これら作品の創作には、ドイツのHeinz Strobl氏が考案したスナポロジー(Snapology)という折り紙の技術を使用しているのだという。また素材には紙ではなく、ポリプロピレンのリボンを使用。中でも日本製のリボンが製作に最も適していると語る。

フェイさんは、自著「Geometric Origami」のほか、レクチャーを通じて技術を一般に広める活動を行っている。理系でないと理解に苦しみそうだが、これまで開催したレクチャーでは、90%の参加者が理解して帰ったといい、スナポロジーの基礎概念はわかりやすいものだと述べる。

パープルが好みのカラーだというフェイさん。作品にも好みの色を使用。Faye Goldman ©mashupNY

展示は来年1月5日まで。日本の伝統文化の枠を超え、アートや学問など様々な方面から注目を集める進化する「ORIGAMI」の世界をのぞいてみてはいかがだろうか。

「Math Unfolded: An Exhibit of Mathematical Origami Art」