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ステーブルコイン規制『CLARITY Act』が狙うもの——Circle株20%下落の“本当の理由”

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米上院で調整が進む暗号資産規制法案「CLARITY Act」の一部条項をめぐり、市場がざわついている。

きっかけは、暗号資産分野の記者Eleanor Terrettが3月24日に投稿した妥協案の内容だ。SNSでは「CLARITY ACT will KILL CRYPTO」「No FARM YIELDING to earn INTEREST」といった投稿が拡散。Circle(CRCL)株は同日約20%下落した。

下落の前後には、いくつかの動きが重なっていた。ARK Investはこの妥協案報告の4日前、3月20日に約590万ドル分のCRCL株を売却していたため、タイミングの近さが注目を集めた。また、FRBの利下げ観測により、CircleがUSDCの準備金(主に米国債)から得る運用利回りが頭打ちになるという懸念も、売り圧力として意識されていた。なお、急落を受けてARKは同日、約2,000万ドル分を逆張りで買い戻しており、同社のスタンスは一様に弱気だったわけではない。

しかしSNSでは、CLARITY Actの規制内容そのものが下落の本命だとする見方が支配的で、「Circleの収益の大半はUSDC準備金の利息だ。この法案でビジネスモデルが破壊される」などといった言説が広がった。

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だが、Terrettの示した内容を読むと、市場の動揺は明確に禁止される事項そのものよりも、どこまでが禁止され得るのかという「未定義ゾーン」への警戒から来ているように見える。

禁止されるもの、残るもの

今回のドラフトでは、取引所やブローカーなどの「デジタル資産サービスプロバイダー」がステーブルコイン残高に対して利回りを提供することが禁止される。「直接・間接を問わず」、さらに利息と「経済的または機能的に同等(economically or functionally equivalent)」なものも対象に含まれる。 一方で、すべての報酬が禁止されるわけではない。ロイヤルティプログラムやプロモーション、サブスクリプションに紐づく「アクティビティベースの報酬」は、一定条件のもとで認められる余地がある。

重要なのは、この線引きが妥協案の段階では確定していない点だ。SEC・CFTC・財務省の3機関が、今後12カ月以内に「何が許される報酬か」を定義し、回避防止ルールを策定することになっている。

背景として押さえておくべき経緯がある。先に成立したステーブルコイン規制法GENIUS Act(2025年7月18日署名)では、発行体がステーブルコインの保有に対して利息や利回りを支払うことが禁止された。ただし、取引所などの第三者が類似の報酬を提供することは明示的には禁じられていなかった。銀行側がこの「パススルー」構造を抜け穴と問題視してきた経緯があり、今回のCLARITY Act条項はその要求を一定程度反映した形になっている。

「Circleのビジネスモデルは破壊される」のか

SNSで拡散した言説には、重要な誤解が含まれている。

今回の条項が標的とするのは、ユーザーへの利回り還元の仕組みであり、CircleがUSDCの裏付け資産(主に米国債)を運用して利息を得ること自体を禁じるものではない。準備資産からの利息収入は引き続き得られる。

影響が及ぶのは、むしろユーザー側の保有インセンティブだ。これまで一部のプラットフォームでは、CircleがCoinbaseに準備金利息の一部を配分し、それをユーザーへリワードとして還元する「パススルーモデル」が機能していた。USDCの成長は、この需要創出メカニズムに支えられてきた側面がある。今回の規制が標的としているのは、この仕組みだ。 したがって、「収益モデルの破壊」というよりは、採用を後押ししてきた成長エンジンへの制約と捉える方が正確だろう。

もっとも、この制約は二次的な影響を伴う。保有インセンティブが弱まれば流通残高の成長が鈍化し、結果として準備資産から得られる利息収益自体も圧縮される可能性がある。Circleの2025年Q3決算では収益の約96%が準備金利息に依存しており、この構造的な脆弱性が市場の懸念を増幅させている。

「economic equivalence」という最大の不確実性

今回のドラフトで最も警戒されるのが、利息と「経済的に同等」という曖昧な表現だ。 Terrettによれば、業界関係者の評価は割れている。ある関係者は「『経済的同等性』という基準は曖昧で、将来の規制当局に広い裁量を与える。残高や取引額に連動したリワードへの制限も、インセンティブ設計を難しくする」と警戒する。一方で別の関係者は「概ね予想の範囲内で、利回り商品化を防ぎつつ取引インセンティブは残す、バランスの取れた内容だ」と評価する。

確定していないのは規制の範囲だ。この文言が規制回避を防ぐための広い解釈余地を残している以上、今後の運用次第で影響範囲は大きく変わり得る。Circle株の約20%下落が反映しているのは、確定した規制ではなくこの不確実性そのものと見ることができる。

なぜ今、この規制なのか

ここで一歩引いて考える必要がある。 ステーブルコインの裏付け資産として最も使われるのは米国債だ。発行残高が拡大するほど米国債の需要が増える構造は、財政赤字が拡大する中で民間のステーブルコイン発行体を国債の安定的な買い手として組み込む、という政策的な意図とも重なる。ステーブルコインの普及はドル体制をデジタル時代に適応させる手段にもなり得る。

同時に、もう一つの重要な軸がある。銀行システムの防衛だ。ステーブルコインが利回り商品として機能すれば、銀行預金からの資金流出を招く可能性がある。今回の条項は、ステーブルコインを「利回り商品」ではなく「決済インフラ」として位置づけることで、銀行との棲み分けを図る意図もにじむ。

CLARITY法案のこの条項は、銀行とクリプト業界との利害調整を図ると同時に、こうしたマクロ的な政策目的も内包しているとみられる。

今後の展開

焦点は二つある。 一つは、3月25日に予定される銀行側からのフィードバックだ。「economic equivalence」の文言がどこまで引き締められるかによって、規制リスクの評価は大きく変わる。

もう一つは、4月内に開催とみられる上院銀行委員会のマークアップだ。民主党内での温度差が表面化すれば、委員会を通過しても本会議での議事妨害阻止は難しくなり、法案成立の確度は揺らぐ。

仮に法案が成立しても「未定義ゾーン」がすぐに解消されるわけではない。SEC・CFTC・財務省が12カ月以内に許容リワードの定義と回避防止ルールを策定するまでの間、プラットフォームは何がグレーで何が黒かを手探りで判断し続けることになる。その内容次第では、パススルーモデルに依存してきたプラットフォームに対して不均等な影響が生じることになる。

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