デジタル資産規制の包括法CLARITY Actの上院審議は、4月以降にずれ込む見通しとなった。しかし、規制整備そのものが停滞しているわけではない。今週ワシントンでは、議会審議とは別のレイヤーで、デジタル資産市場のルールを形づくる動きが相次いだ。
3月13日、上院多数党院内総務ジョン・スーンは、デジタル資産の包括的な規制枠組みを定めるCLARITY Actについて、上院銀行委員会での採決は4月以降になるとの見通しを示した。(binance.com)
背景にあるのは二つの事情だ。一つは優先順位の問題。トランプが「これが成立するまで他の法案には署名しない」と明言したSAVE America Actの審議が、来週の上院本会議採決に向けて議会リソースを集中的に吸い上げている。もう一つは銀行業界との調整だ。伝統的な金融機関はクリプト企業が軽い規制のもとで競争優位を持つことに強く反発しており、この摩擦が委員会審議を複雑にしている。
下院ではすでに294対134という大差で可決されており、民主党から78票を集めた実績があるが、上院ではより党派ラインに分かれる見通しが強まっている。スーンの発言は、現時点ではフィリバスターを打ち破れず成立を逃す可能性を示唆しているともとられる。
規制当局は立法を待っていない
法案審議が滞るなか、規制当局側では今週、歴史的とも言える動きがあった。
3月11日、証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)は両機関の協調枠組みを定めた了解覚書(MOU)を締結し、「共同調和イニシアチブ」の設置を発表した。SEC議長ポール・アトキンスは声明で、「数十年にわたる規制当局間の縄張り争い、重複登録、異なる規制体系がイノベーションを阻害し、市場参加者を他の法域に追いやってきた」と述べ、今回のMOUを「新たな調和の時代への道筋」と位置づけた。
このMOUが重要なのは、CLARITY Actが解決しようとしている問題の一つ——SECとCFTCのどちらがデジタル資産を管轄するかという長年の「縄張り争い」——に対して、立法を待たずに規制当局が自ら先手を打ったからだ。共同調和イニシアチブはクリプト資産を含む新興技術への「目的に合った規制枠組み」の整備を明示的な作業項目に挙げている。
FDICが引いた線:ステーブルコインは預金ではない
同じ3月11日、FDIC議長トラヴィス・ヒルは米銀行協会のワシントン・サミットで、ステーブルコインに関する重要な方針を示した。
論点はパススルー預金保険の適用可否だ。GENIUS Actはステーブルコインが「連邦預金保険の対象」でないことを明示しているが、第三者経由の預金に適用されるパススルー保険については明文規定がない。ヒル議長はこの「沈黙」を保守的に解釈し、GENIUS Act規制下のステーブルコインにはパススルー保険を適用しない方針を提案する意向を示した。
「銀行が保有する準備金を預かる口座が破綻した場合に、ステーブルコイン保有者を被保険預金者として扱うことは、GENIUS Actのステーブルコインを預金保険の対象としないという禁止規定と矛盾する」というのがその論拠だ。
この方針が確定すれば、ステーブルコイン発行体は銀行に比べて一つの安全網を持てないことになる。銀行業界が求めてきた「同等規制」の方向と整合する。
なお同議長は、トークン化預金については既存の預金と同等の規制・保険適用を受けるべきとの立場も示しており、ステーブルコインとの規制上の差異を明確にした。
フレンチ・ヒルが示す完成図
CLARITY Actを起草した下院金融サービス委員会委員長フレンチ・ヒルは今週、GENIUS Actと同法案の役割分担を改めて整理した。
「ステーブルコインが利回りを払うべきでないという点では、両党間で合意が成立している」とヒルはFox Businessの取材に語った。GENIUS Actはステーブルコインの発行体規制を担い、CLARITY Actはそこで生じる空白——特に銀行系と非銀行系の発行体間の競争条件の均等化——を補完する設計だという。
銀行業界の反発は根強い。JPモルガンCEOジェイミー・ダイモンは、銀行が厳しい規制に縛られる一方でクリプト企業が同等の事業機会を得ることへの不満を公言しており、妥協の余地を求めている。
ヒルはこうした摩擦について、必ずしも立法で解決する必要はないとの立場を示した。利回りやリワードをめぐる論点は「GENIUS Actの実施規則を策定する財務省の規制提案の中で対応するのが最善だ」と述べ、規制当局主導のルールメイキングで十分対応できると強調した。一方でCLARITY Actの上院審議においても、銀行系・非銀行系の同等規制という原則を法文上で明確にすることには意義があるとの見方も示している。
議会の採決を待たず、基本ルールは固まりつつある
今週の動きを重ねると、CLARITY Actの審議は遅れるが、それを待たずに規制の地ならしが進んでいるとの構図が浮かぶ。SECとCFTCの管轄整理、FDICによる預金保険の線引き、そして議会による制度設計の共有——三つの動きが同時に進んでいる。
つまり、議会の採決を待つことなく、デジタル資産市場の基本ルールはすでに形づくられつつある。



