冷戦時代にCIAがロシアの月面探査機「Lunik」を誘拐したという嘘のような話を題材にした映画『Lunik Heist(ルーニック強盗)』の製作準備が進行している。
The Wrapによると、2度のオスカー候補に選ばれたケンプ・パワーズが監督・脚本を務め、ジャレッド・レト、ジョン・ムレイニー、ルピタ・ニョンゴが出演する。サーチライト・ピクチャーズが製作。脚本は2021年にマサチューセッツ工科大学の科学技術誌に掲載されたジェフ・メイシュの記事を元にしている。
作戦が実行されたのは1959年、メキシコの首都で開かれたソビエト博覧会の期間中だった。
当時、両国の威信をかけた宇宙開発競争が激しさを増していた。人工衛星スプートニク一号の打ち上げに続く、月面探査、有人衛星でソ連に先を越された米国は、危機感を募らせていた。
作戦に加わったCIAの工作員、シドニー・ウェルスリー・フィナーが1967年に作成し、現在機密が解かれている資料によると、CIAは最初、まさかソ連が本物の月探査機「Lunik」を展示するほど「バカ」だとは思っていなかった。しかし、分析の結果、エンジンや電子機器は取り除かれている以外、そのまさかであることが判明する。
ただし当初「24時間無制限のアクセス」を得たというCIAの将校グループは、性能、配線形式、エンジンサイズなどについて検証することができたが、重要な部品の製造元に関する情報だけは得ることができなかった。
そこで、次の会場に移動させる時を狙って、一晩「拝借」する作戦を立てることになった。
拝借というよりも強奪である。それはさておき、盗むにしても物が大きい。キャビンのような形状だったという木箱の入れ物は6メートル x 3メートルで、高さが最長4メートルに達していた。
検討の結果、側面と底部が内側からボルトで固定された木箱は屋根から侵入するしかないことが判明。梯子やロープ、釘抜き、釣り明かりや工具を現地調達して準備を整えた。
強奪は、搬出用のトラックが鉄道の操車場に移動するまでの間に実行された。ソ連兵が車両に付き添っていないことを確認すると、トラックを止めて木箱を覆った上で、新たな運転手が引き継いだ。元の運転手については「ホテルにエスコートされ、一晩泊まらされた」と説明している。
あらかじめ借りておいた廃品置き場にトラックを乗り入れ、夜を徹した作業が行われた。
最初の難関は、屋根を剥がして侵入に十分なスペースを確保することだったが、度重なる展示で何度も開閉されてる屋根はすでに傷んでおり、強行侵入の痕跡を残さないようにするのは容易だった。
チームは、球体の機首にある点検窓を外して侵入する班と尾部から130個のボルトで固定されている蓋を取り外してエンジン室に侵入する班に分かれた。筆者は、機種とエンジン部の間の部分を確認するために切り離し作業が必要になるなどの困難に言及している。それでも必要なマークを撮影したり手で書き取るなどして、なんとか作業を終えた。
痕跡を残さないよう慎重に元通りにし、屋根板を再度釘で固定した。機材を回収して迎えの車が来たのは明け方の4時だった。
廃品置き場から事前に決められた場所までトラックを移動して、元の運転手に交代させた。操車場のソ連兵は、1日遅れで到着したルーニクに驚く様子もなかったといい、著者のフィナーは「今日まで、ソ連兵はLunikが一晩借りられたことに気付いたという兆候はない」としている。
まさに映画のような実話。サーチライト・ピクチャーズの社長、マシュー・グリーンフィールドは、「ジャレッドにルピタ、ジョンの並外れた才能と洞察に優れたケンプの監督のもと、『Lunik Heist』は策略と意外なヒーローに溢れたワイルドでジェットコースターのような作品になる」と映画化に期待を語っている。