2026年9月22日、SpaceX(NASDAQ: SPCX)のグウィン・ショットウェル(Gwynne Shotwell)社長兼COOがSECにForm 144を提出し、342,170株(約5,196万ドル相当)の売却予定を届け出た。
6月のIPO以降、経営幹部による初の大規模な売却届出となる。そのためSNS上では様々な憶測が飛び交っている。ただ、SEC提出書類を見ると、今回の取引にはいくつか重要な特徴がある。
Shotwell氏の売却、実態は「オプション行使→売却」
まず規模を見ると、売却予定株数はSpaceXの発行済み株式約77億株の0.0044%にすぎない。
ショットウェル氏自身の保有規模と比べても大きくない。IPO目論見書によると、同氏の実質保有株はClass A・Class B合わせて約1,287万株(IPO価格換算で約17.4億ドル)で、今回の売却予定株数はその3%弱にとどまる。
Form 144からは、以下の内容が確認できる。
- 売却予定株数:342,170株
- Aggregate Market Value(届出時点の時価総額):約5,196万ドル
- 取得方法:ストックオプションの行使
- 取得日:2026年9月22日
- 売却予定日:同9月22日
- 過去3カ月の売却実績:「Nothing to Report」
- 10b5-1計画の採択日:2026年6月23日
つまり今回は、既に保有していた株式をまとめて処分するというより、ストックオプションを行使して取得した株式を、同日に売却する予定の取引だ。なお、Form 144はあくまで売却予定の届出であり、実際の約定はForm 4で確認することになる。
目論見書の時点(2026年5月1日基準)で近く行使可能とされていたオプションは約17.6万株だった。今回行使された34万株余りの多くは、その後に行使可能になった分とみられる。
売却計画は6月23日に採択されている。SpaceXのIPOは6月12日だったので、IPOから11日後には10b5-1計画が設定されていたことになる。
Rule 10b5-1は、経営者などがあらかじめ売買計画を設定し、その計画に従って取引する仕組みだ。したがって、今回のForm 144だけから、ショットウェル氏が直近の株価や業績を見て売却を決めたとは判断できない。
届出上の時価から逆算した株価は約151.85ドルで、IPO価格135ドルを約12.5%上回る。一方、足元の株価は148ドル前後とこれをやや下回り、6月16日につけた上場来高値225.64ドルからは大きく離れている。
少なくとも今回の1件だけで、経営陣が一斉に売却へ動き始めたとは言えない。
本当の需給リスクはロックアップ解除
むしろSpaceX株の需給を見るうえで重要なのは、段階的に進むロックアップ解除だ。
SpaceXは通常の「180日で一括解禁」ではなく、解除を細かく分ける独特の構造を採っている。IPOで売り出されたのは約6.39億株にとどまり、その後の解除で流通株が段階的に増えていく。
目論見書に記載された主な解除スケジュールは以下のとおり。株数はいずれも上限で、解除された株式がすべて売却されるわけではない。
| 日付 | 解除株数(上限) | 内容 | 状況 |
|---|---|---|---|
| 8月6日 | 9.115億株 | Q2決算発表の2営業日後、180日ロックアップ対象の20%(関係者分を除く) | 実施済み |
| 8月20日 | 3.19億株 | 同7%(関係者分を除く) | 実施済み |
| 9月9日 | 3.19億株 | 同7%(関係者分を除く) | 実施済み |
| 9月10日 | 0.591億株 | 関係者(affiliates)保有分のそれまでの解除相当分 | 実施済み |
| 9月24日 | 3.284億株 | 同7% | 実施済み |
| 10月9日 | 3.284億株 | 同7% | 予定 |
| 10月24日 | 3.284億株 | 同7% | 予定 |
| Q3決算発表の2営業日後 | 13億株 | 同28% | 予定 |
| 12月8日 | 7.976億株 | 180日ロックアップ対象の残り全部 | 予定 |
| Q4決算後〜2027年Q2決算後 | 計17.6億株 | 延長ロックアップ対象(Musk氏以外)を6回に分けて解除 | 予定 |
| 2027年6月12日 | 64億株 | Musk氏の全保有分 | 予定 |
これまでの解除に対する株価の反応はまちまちだ。
最大規模だった8月6日の解除では、株価はIPO価格を下回る108ドル前後の安値圏から当日上昇して引け、8月20日までに約29%上昇した。8月20日は約4%安で引けたものの翌日には反発し、9月9日は3.9%下落している。つまり、「ロックアップ解除=そのまま株価下落」という単純な関係ではない。
ただし、Q3決算後には13億株という、これまでの分割トランシェの約4倍規模の解除が控える。さらに12月8日にも最大約8億株が続く。今後の需給を見るうえでは、Shotwell氏の約34万株よりもこちらの方がはるかに重要だ。
Q2決算では「成長」と「巨額投資」が同時進行
需給とは別に、SpaceXの株価を左右するもう一つのテーマが事業の急拡大だ。
8月4日に発表された2026年Q2決算は、売上高が78億ドル(前年同期比92%増)、調整後EBITDAが35億ドル(同191%増)だった。
一方、資本支出は184億ドルに達し、そのうち158億ドルがAI計算インフラ向けだった。
セグメント別の売上高は次のとおり。
- Connectivity(Starlink):42.9億ドル、前年比+66%
- AI:25.6億ドル、同+247%
- Space(ロケット):9.62億ドル、同+29%
AI事業の伸びが目立つ。
ただしAIセグメントは営業損益ベースでは12.6億ドルの赤字だった。とはいえ、営業損失はQ1から49%縮小し、調整後EBITDAは11.5億ドルと黒字に転じている。
利益を出しているのはStarlinkを含むConnectivityで、Q2の営業利益は16.6億ドル(前年比+79%)だった。加入者数は1,200万件と、前年から倍増している。
現在のSpaceXでは、Starlinkがキャッシュを生み、その一部をAIなど次の成長領域へ投じる構図が強まっている。今後の株価を見るうえでは、AIへの158億ドルの投資がどの程度の収益につながるかが重要になる。
次の焦点はStarshipとStarlink V3
短期的には、9月28日に予定されるStarship Flight 14が大きなイベントになる。
FAA(米連邦航空局)は9月26日、Flight 14の打ち上げ・再突入のライセンスを発行した。これで最後の規制上のハードルが解消された。打ち上げウィンドウは米中部時間午前7時15分(日本時間同日午後9時15分)に開き、75分間続く。
Flight 14はStarshipにとって初の軌道飛行であり、量産型のStarlink衛星を運ぶ初の「収益ミッション」でもある。開発段階から商業運用へ移行できるかを占う節目となる。
計画の内容は次のとおり。
- 高度約275kmで約6周回、約10時間の飛行
- Starlink V3衛星26基の展開
- Super Heavyのメキシコ湾での洋上着水
- Ship 41の制御された再突入と、チリ沖太平洋への着水
特に注目されるのがStarlink V3だ。V3衛星は1基あたり約1Tbpsの通信容量を持ち、26基すべてが予定通り展開されれば、今回だけで約26Tbpsの容量が加わる。これは、Q2で42.9億ドルまで拡大したConnectivity事業のさらなる成長にもつながる可能性がある。
一方、軌道投入や衛星展開に失敗すれば、Starship開発の遅れやStarlink V3展開への影響が意識される可能性がある。
Flight 14は当初9月22日を予定していたが、米国時間9月17日に28日への延期が発表され、翌18日の株価は1〜2%程度下落した。なお、延期の経緯や、ARK Investのキャシー・ウッド氏が示した「Starship1回で10億ドル」という強気の試算については、別記事で詳しく取り上げている。打ち上げ当日は、技術的な成否だけでなく、結果に対して株価がどう反応するかも重要になる。
2026年後半、見るべき3つの数字
1. ロックアップ解除後の実売却
10月9日と10月24日の解除、Q3決算後の13億株の大規模解除、そして12月8日の最大約8億株の解除で、実際にどれだけの株式が市場に流入するか。
2. Starship Flight 14
軌道投入、Starlink V3の展開、再突入・着水の成否と、それに対する株価反応。
3. AI投資の収益化
Q2だけで158億ドルを投じたAI計算インフラが、今後どの程度の売上・利益を生み出すか。
ショットウェル氏の今回の売却は、SpaceX株の需給を考えるうえで注目すべき最初の経営幹部取引だ。ただし、規模は発行済み株式の0.0044%、本人の保有株の3%弱にとどまり、10b5-1計画に基づくオプション行使・売却でもある。本当の需給テストは、これから本格化するロックアップ解除だ。そこにStarshipの実用化と、巨額のAI投資がどこまで収益につながるかという事業面のテーマが重なる。




