Palantir Technologiesの共同創業者ピーター・ティールが、大きくポートフォリオを組み替えている。
ティールの運用会社Thiel Macro LLCは8月14日、証券取引委員会に提出した開示書類(Form 13F)で新たな保有銘柄群を明らかにした。
それによると、対象期間は6月30日時点。総額は4億1,867万ドル。銘柄にはAmazon、米国の規制電力会社4社、発電会社Vistra、原子力企業X-Energy、そしてアルゼンチンの石油会社Vista Energyが並んでいる。
| 銘柄 | ティッカー | 時価 | 株数 | 1株あたり時価 | 構成比 |
|—|—|—:|—:|—:|—:|
| Amazon.com | AMZN | 117,978,300ドル | 495,000 | 238.34ドル | 28.18% |
| Vista Energy(ADS) | VIST | 75,908,730ドル | 1,189,792 | 63.80ドル | 18.13% |
| Vistra | VST | 59,130,126ドル | 372,755 | 158.63ドル | 14.12% |
| American Electric Power | AEP | 42,221,892ドル | 308,617 | 136.81ドル | 10.08% |
| DTE Energy | DTE | 40,294,247ドル | 264,450 | 152.37ドル | 9.62% |
| FirstEnergy | FE | 39,901,225ドル | 839,319 | 47.54ドル | 9.53% |
| CMS Energy | CMS | 39,559,986ドル | 517,124 | 76.50ドル | 9.45% |
| X-Energy(Class A) | XE | 3,672,000ドル | 200,000 | 18.36ドル | 0.88% |
| **合計** | | **418,666,506ドル** | | | **100%** |
まとめてみるとこうなる。
電力・エネルギー関連:3億ドル、71.8%
Amazonを含むAI・電力エコシステム:3億4,300万ドル、81.9%
Vista Energy:7,600万ドル、18.1%
アルゼンチンの企業が保有額で2位。8銘柄のうち、企業本拠地が米国外にある唯一の銘柄である。
なお、彼は今年3月に提出した書類(Form 144)で、自身が保有するPalantir株について約200万株・2億8,000万ドル相当の売却計画を報告していた。
ピーター・ティールの13F、半年間の空白後に復帰
Thiel Macroは2025年末と2026年3月末の13Fで、報告対象となる保有銘柄を開示していなかった。それ以前にはNVIDIAやASMLといったAI相場の中心銘柄、テスラ、マイクロソフト、アップルを保有していたことがあった。過去の13Fで確認できる範囲では、今回の銘柄群のうち、以前にも保有していたのはAmazonとVistraのみだ。空白期間を考慮すれば、単純な銘柄の入れ替えというより、一度13F上のポートフォリオを空にし、その後、異なるテーマで組み直したと見ることができる。ポートフォリオ規模も、それまでのピークだった2025年第2四半期のほぼ2倍に膨らんだ。
そのテーマは何なのか
81.9%──AIインフラ
8銘柄のうち、Vista Energyを除く7銘柄は、AIの計算基盤、電力、発電、原子力のいずれかに関係している。
・Amazonは、AIの計算基盤を提供する上流企業であると同時に、その計算基盤を動かす電力の最大級の需要家であり、電力確保に動く戦略主体でもある。
・AEP、DTE、FirstEnergy、CMSは、データセンターを系統につなぐ規制電力会社。
・Vistraは、発電資産と電力市場へのエクスポージャーを持つ発電会社。
・X-Energyは、将来の原子力電源を開発する企業。
規制電力4社
規制電力4社については「開示済みハイパースケーラー向け負荷契約」を抱えるという共通項が浮かぶ。
AEPは、データセンターだけでなく、大口産業顧客などを含む2030年までの契約済み大口負荷が69GWに達したと開示している。 FirstEnergyでは、2035年までの契約済みデータセンター負荷が6.4GWに達した。DTE Energyも、ハイパースケーラーとの間で1.4GWのデータセンター負荷契約を結んでいる。 CMS Energy傘下のConsumers Energyは1ギガワットの供給契約を結び、管内に9ギガワットのパイプラインを持つ。
つまりティールは、データセンター需要を単なる期待ではなく、契約済みの負荷として取り込もうとしている電力会社を選んだと考えられる。
X-Energyが示す時間軸
X-Energyの保有額は約367万ドルで、ポートフォリオの0.9%にすぎない。最小のポジションだが、ポートフォリオの時間軸を大きく延ばしている。
X-Energyは、Xe-100と呼ばれる1基80MWの高温ガス炉を開発している。原子炉を複数組み合わせた320MW規模の発電所が基本単位となる。同社は2026年4月にNASDAQへ上場し、IPOでは約10億ドルを調達した。
需要と供給をつなぐAmazon
このポートフォリオでは、Amazonが複数の役割を持つ。
AmazonはX-Energyの最大株主であり、主要顧客・戦略的パートナーでもある。両社は、2039年までに5GW超の新規原子力電源を米国で稼働させる商業展開目標を掲げている。一方、AEP Ohioのサービス区域で大規模なAWS投資を進め、電力需要を生み出す側にも位置している。
こうして見ると、Amazonを一つの軸に、現在の需要、電力網、既存発電、将来の原子力をつないだポートフォリオと読むことができる。
18.1%──アルゼンチン
異質なのは、ポートフォリオの18.1%を占めるVista Energyだ。
Vistaは、アルゼンチンのVaca Muertaシェール層を中心に事業を展開する石油会社だ。ティールのファンドは約119万株の米国預託証券を取得し、約7,600万ドルを投じた。これはVistaの株式の約1%に相当する。
同社は2026年2月、ノルウェーのEquinorからVaca Muertaの陸上資産を取得した。取引規模は約11億ドルと報じられた。この買収を受け、Vistaは投資計画と生産目標を引き上げている。2026年の設備投資計画は18億ドル、2026~2028年の投資計画は56億ドルとなり、2028年の生産目標は20.8万boe/dに設定された。
アルゼンチン政府が導入したRIGIと呼ばれる大型投資促進制度も、資源開発への追い風となっている。
Vistaには普通のバリュー投資として説明できる部分もある。
しかしながら、このタイミングとポートフォリオの18.1%という規模には疑問が残る。
億万長者のプランB
2026年4月、ティールはブエノスアイレスに到着した。ニューヨーク・タイムズによると、彼は市内に邸宅を購入し、ミレイ大統領や政府関係者と相次いで会談した。家族も一時的にアルゼンチンへ移し、子どもを現地の学校に入れたと報じられている。
ミレイはその後の配信番組で、会談を「アナルコ・キャピタリスト(無政府資本主義者)が、それを実現しつつあるもう一人のアナルコ・キャピタリストに会った」と説明し、ティールが「自分の任期を超えて、アルゼンチンでリバタリアニズムをどう存続させるのか」と尋ねてきたと明かしている。
そしてNYTは、ティールの動機について踏み込んだ分析をしている。
北半球の潜在的紛争から比較的隔離されたアルゼンチンは、ティール氏が公に警告してきたリスク――核戦争と暴走する人工知能――からの非常口としても適合する。
ティールは以前から、複数の国に生活と資産の選択肢を持とうとしてきた。ドイツ生まれで米国育ちの彼は、ニュージーランド市民権を取得し、マルタのパスポートも申請している。 さらにNYTによれば、彼はウルグアイのプンタ・デル・エステ近郊にも土地を購入している。牧場が点在する広大な草原地帯にあるこの土地について、核の終末に備えたシェルターを含むのではないかと観測する声がある(あくまで観測であり、確認された事実ではない)。
ティールに近いスペイン系アルゼンチン人起業家マルティン・バルサフスキーは、アルゼンチン・メンドーサに牧場を建て、こう述べている。
中国が台湾を取るか、ロシアがリトアニアを取った瞬間、私はブエノスアイレスにいる。文明のPlan Bを持っておくのはいいことだ。
アルゼンチンはティールにとって、単なる収益機会ではなく、生活や資本の「Plan B」になり得る場所として見えている可能性がある。
終末思想
ティールは近年、「反キリスト(Antichrist)」を主題とする講義を各地で開催していることが広く報じられている。サンフランシスコ、パリ、そして2026年3月16日からはローマで4日間にわたって行われた。NYTによれば、ブエノスアイレスの自宅での燭光の夕食会でも、招かれたアルゼンチンの経済学者や知識人を前に、話題は最終的に反キリストに及んだという。
ガーディアン紙などの報道によれば、講義では「反キリスト」が「世界統一国家」とほぼ同義に扱われ、「すべての科学を止めようとする狂信者」といった説明もなされたという。その反キリストは、気候変動やAI、核戦争といった破滅的な事態から全人類を守るという名目のもと、技術の進歩を全面的に制限する「世界統一秩序」を人々に受け入れさせるのだという。そして彼は、その前触れは国際機関や環境保護活動家といった形で、すでに身近に迫っていると警告するのだという。
なお、ハルマゲドンがどのように訪れるのかは明らかではないが、第二次冷戦の到来とそれが「不公正な平和」に終わる可能性があると主張しているという。
なお、NYTは、彼に近しい人物の話として、ティールがアルゼンチンに歩み寄ろうとする背景に、カリフォルニア州の将来に対する懸念があるとしている。同州では今年、億万長者の純資産に一度だけ5%の税を課す住民投票案が、11月の投票用紙に載ることになった。対象は2026年1月1日時点でカリフォルニアに居住していた純資産10億ドル超の個人だ。
ティールがその時点で税制上のカリフォルニア居住者だったのか、実際に課税対象となるのかは、公開情報だけでは確認できない。
米国側の81.9%は、AIを支える計算基盤と電力インフラへの賭けだ。一方、アルゼンチン側の18.1%は、資源開発とミレイ政権の投資政策への賭けである。ただし規制電力会社の収益は、認められる利益率も、設備投資の料金への転嫁も、州の規制委員会の判断に左右される。データセンターの電力コストを誰が負担するかをめぐる議論は、すでにオハイオ州などで始まっている。世論が変われば裁定も変わりうる。ティールが押さえた4社は、いずれもその判断の下流にいる。
アルゼンチンではミレイ政権の規制緩和と外資誘致は進むが、ポストミレイの時代が「リバタリアニズム」の存続を約束するわけではない。RIGIも投資環境も、政権が変われば覆りうる。
そのような視点に立てば、ティールの銘柄群に共通する変数は、技術そのものではなく、技術を支える国家権力とも読める。新たなポートフォリオには、政治思想と国家の継続性に関する彼の見方が反映されているのかもしれない。





