暗号資産解析を手がけるユニコーン企業TRM Labsが、約1億ドル規模の政府大型契約を獲得した。
7月1日、国土安全保障省(DHS)傘下の移民税関捜査局(ICE)は、TRM Labsと9,465万ドルの契約を締結した。契約先は詐欺、サイバー犯罪、性的搾取などを捜査する「サイバー破壊センター」で、ブロックチェーン分析サービスを1年間提供する。
注目されるのは契約規模だけではない。公開調達データでは調達方式が「NOT COMPETED(競争入札なし)」とされており、約1億ドル規模の案件が単独随意契約で発注された。こうした契約は、緊急性の高い案件や代替が難しい専門技術を持つ企業に用いられることが多い。
ブロックチェーン分析で急成長するTRM
TRM Labsは2018年設立のサンフランシスコ企業。ブロックチェーン上の資金移動を追跡・分析し、法執行機関や金融機関向けに不正資金対策サービスを提供している。業界では2014年創業のChainalysisが長年最大手として知られるが、TRMは新しいブロックチェーンへの対応スピードを強みに急成長してきた。
同社の特徴は、政府・法執行機関出身者を数多く擁する点だ。経営陣には司法省、財務省、IRS犯罪捜査局、FBIなどの出身者が並び、2026年4月にはシークレットサービス出身のEdward Currie氏をDHS担当ディレクターに迎えた。政府機関のニーズを理解する人材を積極的に取り込む姿勢がうかがえる。
米政府の公開データによると、TRMの連邦政府向け累計受注額は約1億2,785万ドル。このうち約9割が単独随意契約によるものだった。政府案件の多くを競争入札ではなく、高い専門性を背景に獲得してきたことを示している。
2026年2月にはSeries Cラウンドで7,000万ドルを調達し、企業評価額は10億ドルを突破。ユニコーン企業の仲間入りを果たした。投資家にはBlockchain Capitalのほか、Goldman Sachs、Citi Ventures、Bessemer Venture Partners、Thoma Bravoなどが名を連ね、累計調達額は2億2,000万ドルに達している。
急拡大する暗号資産犯罪
TRMとChainalysisが公表した2026年版レポートによると、2025年の暗号資産関連の不正資金フローは過去最大規模となった。TRMは1,580億ドル、Chainalysisは1,540億ドルと推計しており、算出方法は異なるものの、いずれも記録的な水準を示している。両社は増加の主因として、ロシア関連の制裁回避を挙げている。一方で、不正資金は暗号資産取引全体の約1%にとどまるとの分析も示されており、絶対額は急増している一方、市場全体から見れば限定的という点も押さえておきたい。
こうした需要拡大を背景に、TRMはTronやTetherと共同で不正資産の凍結を目的としたタスクフォースを運営し、3億ドル超の資産凍結に関与したと公表している。政府向けだけでなく、民間市場でも存在感を高めつつある。
政府需要が追い風に
2026年3月、トランプ政権は新たな国家サイバー戦略を公表し、暗号資産やブロックチェーン技術の安全性向上を重要課題に位置付けた。同時に署名された大統領令でも、サイバー犯罪対策において民間企業の技術や脅威インテリジェンスを積極的に活用する方針が示されている。政府がサイバー犯罪対策で専門企業への依存を強める中、TRM Labsのようなブロックチェーン分析企業は、安全保障インフラを支える存在として重要性を増しつつある。

