先週の連邦政府契約で最も注目を集めたのは、エネルギー省がセントラス・エナジー子会社アメリカン・セントリフュージ・オペレーティングに発注した約9億ドルのタスクオーダーだ。目的は、高純度低濃縮ウラン(HALEU)の国内商業生産能力を確立し、生産を開始することである。
今回の契約は単なる大型発注ではない。トランプ政権が掲げる原子力復権政策の中核を担う一方で、その実態がなお構築途上にあることも浮き彫りにしている。
エネルギー省は2026年1月、国内のHALEU供給網を整備するため、総額27億ドルを3社へ拠出する計画を発表した。対象はセントラスのほか、ジェネラル・マター、オラノ・フェデラル・サービスで、各社に約9億ドルが割り当てられている。後者2社にはすでに契約が発注されており、今回のセントラス向け契約によって計画は一通り執行された。
この政策は、AIデータセンターの電力需要拡大を見据えたトランプ政権の原子力推進策として位置付けられる。しかし、その土台となる枠組み自体はバイデン政権時代に築かれたものでもある。2024年10月、当時のエネルギー省はHALEUの国内供給体制を構築するため、上記3社を含む4社を選定し、最大27億ドルを支援する方針を打ち出していた。
背景には、2024年成立の「ロシア産ウラン輸入禁止法」がある。同法はロシア産の低濃縮ウランおよび天然ウランの輸入を原則禁止したが、エネルギー省の特例免除により一定期間は輸入継続が認められている。この免除措置は2028年1月1日に終了する予定であり、27億ドルの投資は、その期限までに国内供給体制を整備するための国家プロジェクトでもある。
もっとも、「国内供給網」を担う3社の顔ぶれを見ると、その基盤は決して盤石とは言えない。
セントラスは前身のUSECが2013年に事実上経営破綻した経緯を持ち、現在もロシア国営企業テネックスから低濃縮ウランを輸入している。その輸入は禁輸法の特例免除によって認められており、禁輸の恩恵を受ける企業が、なおロシア産燃料に依存しているという構図が続く。
一方、ジェネラル・マターは2024年設立の新興企業で、ピーター・ティールが共同創業したベンチャーキャピタル、Founders Fundで育成されたスタートアップだ。商業規模でのウラン濃縮実績はまだない。
また、オラノ・フェデラル・サービスの親会社オラノSAはフランス政府が過半数を出資する国有企業である。今回の9億ドルは、同社が総事業費50億ドルを投じてテネシー州オークリッジ近郊に計画する新規濃縮施設「Project IKE」の一部にあたる。原子力規制委員会(NRC)は5月、12ヶ月の加速審査での受理を決定したが、許可判断は早くても2027年半ば以降で、本格稼働はさらに先になる見通しだ。なお、オラノは現在もフランスの既存施設から米国の原子炉向けに濃縮ウランを供給しており、今回の計画はその実績を国内生産へ置き換える試みでもある。
このオークリッジという土地には、もう一つの意味がある。第二次世界大戦中にウラン濃縮を担ったマンハッタン計画の拠点そのものであり、エネルギー省のクリス・ライト長官はAIと原子力をめぐる今回の一連の政策を「マンハッタン・プロジェクト2.0」と呼んでいる。80年前と同じ土地で、再び国家規模の濃縮計画が動き出している格好だ。
老舗企業、新興企業、外国政府系企業――「国内供給網」の中核を担う3社の姿は、必ずしも一枚岩ではない。
さらに重要なのは、契約の成立と供給能力の確立は別問題という点である。
セントラスの新たなHALEU生産能力が稼働するのは早くても2029年と見込まれ、当初の生産能力は年間約12トンにとどまる。一方、エネルギー省は先進炉向けHALEU需要が2030年までに年間40トンを超えると予測しており、フル稼働しても需要の約3割しか賄えない計算になる。
もっとも、需要側も順調とは言い難い。
トランプ政権は2025年5月の大統領令で、「2026年7月4日までに国立研究所外で初の臨界達成」という目標を掲げた。その期限を前に、Deployable Energy、Antares、Valar Atomicsの3社が相次いで臨界到達を発表し、Aalo Atomicsも期限内の達成が見込まれている。
ただし、臨界達成は商業化を意味しない。政策アドバイザリー会社Capstoneは、今回の成果は技術実証として重要ではあるものの、商業化が近いことを示すものではないと指摘する。しかも、これらの先進炉の多くが必要とするHALEUについては、米国内に商業規模の供給源がまだ存在していない。
つまり、需要側は実証段階、供給側は生産体制の構築段階にあり、両者は同時に立ち上がり途上にある。
ロシア産ウラン輸入の特例免除が終了する2028年1月と、セントラスの新規生産能力が稼働すると見込まれる2029年との間には、少なくとも1年程度の空白が生じる可能性がある。オラノの新施設も短期的な供給力として期待することは難しい。
27億ドルという巨額の投資は、政権交代をまたいで継続する国家戦略の重みを物語る。しかし、政府契約は供給能力そのものではない。ロシア依存からの脱却、新たな濃縮施設の建設、そして先進炉の商業化――そのいずれもなお道半ばだ。
今回の9億ドル契約は、トランプ政権が掲げる「原子力復権」が着実に前進していることを示す一方で、その実現にはなお長い時間を要する現実も映し出している。

