2024年の連邦選挙では、300人のビリオネアとその家族が連邦献金報告額の19%を占めた——ニューヨーク・タイムズの分析が示す数字だ。米国の富裕層トップ1%が保有する資産は現在55.8兆ドルに達し、米中両国のGDPを合計した額を超える。その資産が、政治の方向を変えるために動いている。
中でも、今年の中間選挙に向けてすでに5500万ドル近くを連邦選挙に投じている個人がいる。ジェフ・ヤスだ。
ヤスとは誰か
ペンシルバニア州バラシニウィッドを拠点とするSusquehanna International Groupの共同創業者。資産650億ドル超、フォーブス世界長者番付27位。もともとポーカープレイヤーとして確率計算を磨き、オプション取引の世界に入った。
公の場への露出は少ない。しかし政治資金の規模は記録的だ。2015年以来の累計政治献金は3億5000万ドルを超え、同期間の献金額でジョージ・ソロスを上回り、イーロン・マスクより多い6位に位置する。2024年単年では連邦選挙に1億ドル以上を投じた。
TikTok親会社ByteDanceの大株主でもある。同社の15%を保有するヤスの会社は、トランプ政権がTikTokの米国内継続を認めた判断から直接的な恩恵を受けた立場にある。ペンシルバニア州の司法長官選では、ヤスは共和党候補のデイブ・サンデーへの資金の約90%を供給し当選を後押ししたとされる。そのサンデーの事務所は現在、TikTokを調査する立場にある。
単一テーマに資本投下
ヤスの政治資金の投入は、ほぼ単一テーマに集中している。
FECデータ(2025–2026年、83件)を分析すると、総額6,376万ドルのうち54.6%(3,483万ドル)が教育バウチャー関連に投じられている。
献金先 金額
School Freedom Fund $1,500万
Club for Growth Action $1,000万
Protect Freedom PAC $750万
Win It Back PAC $200万
Aurora Action Network $33万
(mashupreporter 調べ)
加えて、アナ・パウリナ・ルナ下院議員(フロリダ)、バーニー・モレノ上院議員(オハイオ)、トム・バレット下院議員(ミシガン)など連邦レベルでバウチャー推進を明言する議員に直接献金。さらに41州の共和党州委員会に一律1万ドルずつ。全国的なバウチャー立法推進の地盤固めと読める。
テキサスで成果
直近で最大の成果を上げたのはテキサスだ。長年、共和党内の反対派がバウチャー法案を阻止してきた。ここにヤスの資金が流れ込む。2024年選挙で、テキサス史上最大と称された600万ドルをグレッグ・アボット知事の政治資金に拠出し、AFC Victory Fundに570万ドルを投じて反対派議員の選挙区に対立候補を立てた。
ヤス自身「学校選択のスーパーボウル」と称した選挙の結果、反対派議員のほとんどが落選。2025年4月、テキサス州議会は$10億規模のEducation Savings Account(ESA)プログラムを可決した。
テキサスの「Texas Education Freedom Accounts」は2026〜27年度に始動。申請受付期間(2〜3月)には27万4000件超の応募が集まり、全米のバウチャープログラム史上最大の初年度需要を記録した。$10億という初期予算規模も史上最大だが、需要がそれをはるかに上回り、抽選による割り当てが行われる見通しだという。
テキサスの成功を受け、2026年立法セッションでは28州で162本のバウチャー関連法案が動いている。18〜19州がすでに所得制限のないユニバーサル選択制プログラムを持つか、導入しようとしている。
トランプとの接続
ヤスの次の標的も動き始めている。オハイオのビベック・ラマスワミ支援に1000万ドル、フロリダのバイロン・ドナルズ支援に500万ドル。ノースダコタ、サウスダコタ、ジョージア、ミシシッピ、テネシーの知事選も視野に入れているとワシントン・ポストに語っている。
トランプとの関係も変わった。かつてはトランプ支持を拒否していたヤスが、2025年初頭にMAGA Inc.へ1600万ドルを投じ、ホワイトハウスの改修計画にも資金を出した。理由は明快だ——トランプが学校選択の「真の擁護者」になったと判断したからだ、とヤスはワシントンポストに語っている。
市場への波及
教育バウチャーの拡大は、資金の流れを変える。
まずEdTechとバウチャー運営企業だ。テキサスのESA運営を受注したのはOdysseyというテクノロジー企業で、申請から認定プロバイダーへの支払いまでを一元管理するプラットフォームを提供する。同社はジョージア、アイオワ、ルイジアナ、ユタ、ワイオミングでも同種のプログラム運営を手がけており、全国でプログラムが増えるほど需要が拡大する構造にある。
注目すべきはヤスとの接点だ。Odysseyは2023年、ヤス夫妻が創設したコンテストで50万ドルを獲得している。政治資金で立法環境を整え、そこに自分の息のかかった企業が入り込むという構図は、単なる政治献金の枠に収まらない。
次に私立学校・宗教系学校法人への公的資金の流入だ。バウチャーは家庭を通じて私立学校に届く。規模が拡大すれば、授業料依存の財務構造が多様化する。
公教育関連の地方債への影響も考えられる。生徒流出による税収配分の減少が、公立校区の債務負担率を上昇させる可能性がある。
ヤスの巨額資金の投入は、「公教育の予算を民間に流すための立法環境を整える」という長期的な市場形成への投資として読める。2026年中間選挙でのさらなる展開が注目される。

