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ウェルネス・インフルエンサーは「国民の医師」になれるか 米医務総監承認公聴会

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onajourney/shutterstock

2月25日、上院保健教育労働年金委員会(HELP委員会)で、トランプ政権が医務総監(Surgeon General)に指名したケーシー・ミーンズの承認公聴会が開かれた。1年以上空席が続く「国民の医師」ポストの行方は、保健長官ロバート・ケネディ・ジュニアが主導する「Make America Healthy Again(MAHA)」戦略の帰趨とも重なる。

医療エリートからMAHAの顔へ

ミーンズはスタンフォード大学医学部でMDを取得後、オレゴン健康科学大学で外科研修を開始したが、2018年に離脱。「主流医療は病気の治療に偏重し、予防や根本原因への対処が不足している」と公言してきた。現在、医師免許はアクティブではなく、政府勤務経験もない。

2024年、兄でHHS上級顧問のCalley Meansと共著で出版した『Good Energy』がヒット。代謝異常、超加工食品、慢性炎症を現代病の核心と位置づけ、MAHA運動の理論的支柱となった。インスタグラムのフォロワーは84万5,000人。血糖モニタリング企業「Levels」の共同創業者でもある。

一方で、健康関連商品のプロモーションにより数十万ドル規模の収入を得ていたことが財務開示資料から明らかになっている。AP通信の調査では、収益を得る可能性のある製品を推奨する際に開示が不十分だったケースが指摘された。本人は承認されれば持ち株を売却し、関連業務から退くと誓約している。

トランプの最初の指名候補は撤回され、ミーンズは昨年5月に指名された。昨年10月の公聴会は出産で延期され、指名は一度失効。今年1月に再指名され、今回の公聴会に至った。

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ワクチン・農薬・避妊薬 公聴会ハイライト

冒頭陳述でミーンズは、「アメリカは怒り、疲弊し、予防可能な病気に苦しんでいる」と述べ、「根本原因に対処することで、機能していない『対症療法型医療』から抜け出せる」と訴えた。アメリカは高所得国で最も慢性疾患が深刻な国になったと強調し、今日の子どもたちは親より短命になると予測されているとも指摘。超加工食品、工業用化学物質、慢性的ストレス、過剰な医療介入を「修正可能な根本原因」と位置づけ、MAHA路線を前面に押し出した。

最大の焦点はワクチンだった。

委員長のビル・キャシディ(共和・ルイジアナ)は冒頭から「国民の最高の医師にはワクチン懐疑論と闘う責任がある」と牽制した。

ミーンズは2024年のニュースレターで1986年国家小児ワクチン傷害法の改正を「次期政権へのウィッシュリスト」に挙げ、ワクチンスケジュールの累積的安全性について「独立研究」を求めていた。インフルエンザワクチンの有効性に疑義を呈する記述もあった。

公聴会でのミーンズは、ワクチンを「反ワクチンのメッセージは私の立場にない」と述べながらも、麻疹ワクチンや子どもへのインフルエンザワクチン接種を明示的に推奨することを避け、「医師に相談を」という回答に終始した。ティム・ケイン(民主・バージニア)が「インフルエンザワクチンが重症化や入院を減らすか」と問い詰めると、「簡単な質問ですよ、先生」と促されながら、最終的に「集団レベルでは効果がある」とだけ認めた。ワクチンと自閉症の関連については「医学界として原因を完全には理解していない。…科学に決着はない」と否定を避けた。

バーニー・サンダース(無所属・バーモント)は「この国に必要な外科総監になれるか重大な疑問がある」と正面から批判した。

エド・マーキー(民主・マサチューセッツ)が、ミーンズが過去に農薬使用を「スローモーションの絶滅事象」と表現していたことと、トランプによる除草剤(グリホサート)生産促進政策との矛盾を突いた。ミーンズは健康への懸念を示しながらも「農業システムは今すぐ変えられない」と後退し、「農家も医師も不可能な状況に置かれている」と述べるにとどまった。

トランプ大統領は2月18日、国防生産法を発動し、元素リンとグリホサートの国内供給確保を命じた。グリホサートは発がん性をめぐる大規模訴訟の対象となってきた化学物質だが、製造者に有利な措置を与えたことでMAHA陣営からは強い反発が起きていた。

2024年にタッカー・カールソンの番組で経口避妊薬を「生命への冒涜」と語った件も追及された。パティ・マレー(民主党 ワシントン州)に問われ、「利用可能であるべき」と修正。

スーザン・コリンズ(共和党 メイン)には過去のシロシビン使用について説明し、「公的推奨はしないが研究は興味深い」と述べた。

超加工食品や食品添加物の問題については、党派を超えて一定の共感があるようにみられた。

承認の見通し、政策インパクト

公聴会は採決なく終了。共和党多数の委員会は党派ラインで本会議送付に踏み切る公算が大きい。民主党の支持は限定的とみられる。指名当初、MAGA系インフルエンサーのローラ・ルーマーが「完全なエセ科学者」と批判し、右派内でも摩擦が生じたが、ケネディが擁護に回り騒動は沈静化している。

ホワイトハウスは中間選挙を前に、ワクチン論争よりも「食と慢性疾患」に軸足を移す意向を示しており、ケネディもこれに応じた動きをみせている。トランプは先月の閣僚会議の場で「ボビー(ケネディ)は中間選挙で共和党にとって非常に大きな力になると考えられている」と述べるなど、MAHA運動を政権にとって重要な資産とみなしている。

公聴会でのワクチンをめぐる慎重な言い回しは、ワクチン論争の拡大を避けたい政権の戦略と、MAHA支持層を疎外しない配慮の双方を反映したものともみえる。

ミーンズが承認されれば、外科総監の発信は従来の感染症・疾病対策中心から、「代謝・食・環境要因」重視へとシフトする可能性が高い。医務総監の勧告に法的拘束力はないが、世論形成力は大きい。ワクチン政策のトーン、食品添加物規制、学校給食基準、農業政策議論に波及する余地がある。