FOXニュースによれば、トランプ大統領は自身が推進する減税・歳出法案に強く反対するイーロン・マスク氏に対し、内心「激怒」しているという。
4日朝の「FOX&フレンズ」で共同司会のブライアン・キルミード氏は、「イーロン・マスクの件は大統領を本当に驚かせたと思う。彼は激怒していると聞いている」と語った。
さらに、「彼(トランプ氏)が慎重を期しているのは賢明だと思う」とも説明。「というのも、批判する者たちに対して”右派は自分たちの足を引っ張ってばかり”という口実を与えてしまうからだ。そのかわり、通過させるというゴールがある。イーロン・マスクは上院議員でも下院議員でもない。心配に及ばない」と冷静な対応を促した。
また、政治ニュースサイトAxiosによると、マイク・ジョンソン下院議長は4日の共和党非公開会合で「トランプ氏はマスク氏に頭にきている」と語ったという。トランプ氏の不満は以前からあったとされ、ある共和党議員は「大統領は彼を排除したくてたまらなかった」と明かし、別の議員も「2人のアルファオスが爆発し、互いに争うのは時間の問題だと分かっていた」と述べている。
先日政府の顧問職を退任したばかりのマスク氏が批判を強めたのは今週。Xの投稿で、「もう我慢できない」と切り出し、「この巨大で法外、無駄遣いばかりの支出法案は、ひどく醜悪だ」と酷評。「賛成票を投じた人は恥を知るべき」と共和党勢を牽制した。
その後、「来年11月、我々はアメリカ国民を裏切った政治家を全員首にする」と中間選挙で報復する姿勢を示し、「上院議員に連絡せよ。下院議員に連絡せよ。アメリカを破綻させることは許されない。法案をつぶせ」と非難を続けている。法案をつぶせ(Kill the Bill)にかけた映画『キルビル』画像の投稿も注目を集めた。
なお、今のところ、マスク氏はトランプ氏を直接批判することを控え、トランプ氏もマスク氏の非難に沈黙を守っている。
トランプ氏が「大きくて、美しい法案」と呼ぶところの法案は、選挙公約の実現を目指し、トランプ減税の恒久化、国境警備対策の強化、低所得者支援プログラムの資格要件の追加、特定の環境税額控除の撤回、軍事費の増額など幅広い条項が含まれる。先月下院をわずか一票差で通過したが、それをもとにした議会予算局の試算によると、財政赤字が今後10年間で2兆4000億ドルにまで膨らむとされている。
マスク氏は負債の膨張の問題を強調しているが、一方、ニューヨークポスト紙は関係者の話として、同氏が猛烈に反対する背景に4つの不満があると報じている。それによると、下院で通過した法案には、新規電気自動車の税額控除の段階的廃止が盛り込まれたこと、特別政府職員の任期継続が認められなかったこと、連邦航空局がスターリンクの衛星システムの導入に難色を示したこと、マスク氏が支持したジャレッド・アイザックマン氏のNASA長官指名が撤回されたことがある。
上院では民主党全員が反対すると予想され、共和党は少なくとも53人中50人の賛成を確保しなければならない。すでに数人が反対を表明しており、トランプ氏の要求する7月4日までの成立に向けて、数週間で妥協点を見つけなければならない。ジョン・スーン上院院内総務は、上院の各委員会が来週末までに法案の修正案を公開する予定だとしている。
法案はトランプ政権の政策課題を推進する上で極めて重要で、トランプ大統領の成否を分ける可能性がある。
コロンビア大学の政治学教授ロバート・Y・シャピロ氏は、ニューズウィークの取材に、「もしこの法案が上院を通過しないか、または夏までに大統領の机に届かなければ、少なくともトランプ政権にとって大きな恥となる」と説明。そうなれば上下両院の共和党は「厳しい立場」に追い込まれ、「共和党の下院の支配、さらには上院の支配さえ危うくする可能性がある」と語ったほか、「トランプ氏には、民主党支配の下院で、違憲行為や大統領の立場を利用して家族と自分の富を増やすといった汚職の調査を阻止するためにも、法案の通過は不可欠」と指摘している。