トランプ政権と銀行業界の対立が、ステーブルコイン規制をめぐり一気に表面化した。
ホワイトハウス経済諮問委員会(CEA)が4月8日に公表したレポートで、「ステーブルコインの利回り提供禁止は銀行貸出をわずか0.02%しか増やさず、預金流出リスクも定量的に小さい」と結論づけたからだ。一方、銀行側は、預金の質変化で、とりわけ地銀が影響を受けると猛反発。対立は、上院で停滞中のClarity Actの行方を左右する可能性をはらむ。
CEAレポートが銀行ロビーを正面否定
昨年7月成立のGenius Actはステーブルコイン発行体の直接利回り付与を禁じたが、銀行側は取引所など第三者を通じた提供という抜け穴が残り、預金流出につながるとして意義を唱えてきた。
ホワイトハウスのエコノミストたちは、この銀行ロビーの中核主張を正面から否定するものとなっている。
・貸出増加はわずか0.02%(約21億ドル)
・ステーブルコイン準備金の大半は銀行に再循環する
・預金流出リスクは「定量的に小さい」
このレポートに対して、銀行側は即座に反論した。
暗号資産分野の記者Eleanor Terrettが銀行関係者の論点として報じたところによれば、
・問題は貸し出しに必要な預金量総額ではない。
・ステーブルコイン準備金が銀行システムに再循環すると結論付けているが、同じ形で戻ってくるわけではない。
・資金が大手金融機関に流れ、個人預金に大きく依存する地銀が最初に影響を受ける。
・安定的な預金基盤が縮小し、信用供与のメカニズムに影響。
「預金の質劣化+再循環先の変化」が銀行システムの安定性を損なう、という主張だ。
上院Clarity Act審議が正念場
市場構造法案とも呼ばれるこの法案は下院を通過済みだが、上院で停滞している。上院では農業・銀行委員会が別々に審議。農業委は1月に可決したが、銀行委は業界反発で修正審議を中止した経緯がある。争点はまさにこの利回り規制だ。
共和党メンバーの一部は4月内の審議実現に楽観的な姿勢を示しているが、対立が解消されなければ審議の再延期もありうる。年内成立が不透明になるだけでなく、中間選挙で民主党が多数を握れば、暗礁に乗り上げる可能性もある。
膠着打開に財務長官が動く
こうした状況に、ベッセント財務長官が直接介入した。
CEAレポートの翌日、ウォール・ストリート・ジャーナルへの論説で「開発者や起業家が安心して国内回帰できる唯一の方法は、永続的な法律を制定することだ」と主張し、Clarity Actの成立を強く求めた。「次世代の金融イノベーションが米国の基盤の上に構築され、米国の機関に支えられ、米ドル建てで行われることを確実にする」ために議会は仕事をやり遂げなければならない、と訴えた。
財務長官が主要経済誌で議会に圧力をかける意義は大きい。一部専門家は「政権の最優先事項であることを示すシグナル」と指摘する。
正当化の切り札:ステーブルコイン=「国債吸収装置」
CEAレポートはもう一つの論点を提示している。
エコノミストらは、ステーブルコインの海外保有比率は80%に達していると同時に、ステーブルコイン発行体は、裏付け資産としてすでに主要国に匹敵する規模で短期米国債を保有していると指摘。ステーブルコインが余剰のドル需要を吸い上げ、国債への安定的な需要を生む効果があるとした。
一方で、利回り提供の禁止はステーブルコイン保有の魅力を下げ、普及を抑制すると主張。米国債への外国需要を低下させ、国家財政面でのプラスを相殺する可能性があるとした。
つまり「銀行貸出微増 vs 国債需要の低下リスク」のトレードオフという構図を示したわけだ。
FDICが「抜け穴封じ」 預金保険の線引き明確化
並行してFDICは今週、重要な判断を示した。
・ステーブルコイン発行体は自らの提供に加え、第三者・関連会社と契約の上での間接的な提供も禁止する。
・準備金預金は発行体の法人預金扱い、保険上限25万ドル。コイン保有者へのパススルー保険は適用されない。
・一方、銀行発行トークン預金はブロックチェーン記録でも通常保険適用。
この非対称な扱いは制度の論理として一貫している。ステーブルコインは「預金の代替」ではなく「別の流通レイヤー」として確定する。銀行がブロックチェーンを取り込んで既存の預金をデジタル化する道を確保し、その外側にステーブルコインという別の決済レイヤーが並存する——FDICの規則案はその二層構造を規則面で固める。
対立が示唆するもの
こうして見ると、今週の対立は単なる規制論争ではない。
より重要なのは、ホワイトハウスが銀行の主張を正面から退けたという事実だ。これは従来的な規制当局と銀行の共同歩調、ロビーの力関係の変化を意味する。
ステーブルコインは単なる決済手段から、海外資金を吸収し、米国債市場を支える新たな装置として位置づけられ始めている。その前提に立てば、利回り規制は銀行保護の問題ではなく、ドル流通と国債需要をどう設計するかという国家戦略の問題になる。
Clarity Actの停滞は、この優先順位の衝突を映している。







