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長期戦は無理?トランプのイラン戦争を縛る「5つのM」

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Lucas Parker / Shutterstock.com

イスラエルと合同で始めたイラン戦争の出口が見えないなか、オバマ・バイデン政権で国防を担当した元高官が、トランプ政権の選択肢を狭める構造的な制約について語った。

3月7日、JPモルガン・チェースのジオポリティクス・センター長デレク・ショレは、自社ポッドキャスト”Making Sense”に出演し、イラン戦争の行方を制約する要素として「3つのM」を提示した。ショレはオバマおよびバイデン政権で国防次官補や国務省顧問を歴任し、2025年1月まで国防長官首席補佐官を務めた人物だ。

その3つのMとは、Munitions(弾薬)・Markets(市場)・Midterms(中間選挙)だ。

Munitions(弾薬)

「弾薬は数学の問題だ」

ショレはそう語る。米軍には大量の弾薬があるが、イスラエルや湾岸諸国の防衛にも使用しており、無限ではない。イラン側も同様に弾薬を消耗している。昨年6月の「12日間戦争」が停戦に至ったのも、両陣営が「それ以上殴り合いを続けるインセンティブを失った」ためだと分析する。

弾薬不足への懸念は専門家の間でも指摘されている。安全保障専門誌「1945」によれば、米軍のトマホーク巡航ミサイル在庫は推定約4,000発。開戦からわずか3日間で約400発が消費されたとされる。同誌は、このペースは持続不可能であり、インド太平洋で有事が発生した場合の「空のラック」シナリオへの懸念を生じさせると指摘している。

Markets(市場)

もう一つの制約は市場だ。

「短期的な作戦であれば市場は衝撃を吸収できるが、長引けば米国内外の判断を変える影響が出てくる」とショレは語る。市場関係者のコンセンサスは「2週間程度なら問題ないが、それを超えると本格的な影響が出る」というものだという。

作戦開始から10日。ブレント原油は一時1バレル120ドル近くまで上昇し、S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスによればホルムズ海峡の通航量は前週比で約95%減という前例のない水準に落ち込んだ。

ガソリン価格の高騰と株式市場の下落に直面したトランプは9日、「戦争はごく近いうちに終わる」と記者会見で説明。CBSの取材にも「だいたいもう完了している」と語った。

この発言後、株価は急騰し、原油価格は急落した。

資産運用会社マン・グループの首席市場ストラテジスト、クリスティーナ・フーパーはニューヨーク・タイムズの取材に対し、「トランプは市場を気にしている。特に株式市場を。懸念を鎮静化させたいのは理にかなっている」と指摘している。

Midterms(中間選挙)

三つ目のMは政治だ。

「米国内での戦争支持は非常に脆弱だ」とショレは指摘する。

成功の兆しが見えれば政治的支持も維持できるかもしれないが、そうでなければ弾薬と市場への懸念が重なった時点で、「1〜2週間以内に戦争終結の議論が一気に高まる」と予測する。

実際、ニューヨーク・タイムズが3月10日に報じた世論調査では、イラン攻撃への支持率はロイター/イプソス調査で27%、フォックス・ニュース調査でも50%にとどまった。真珠湾攻撃後の97%、アフガニスタン戦争開始後の92%と比べると、際立って低い水準だ。

Minerals(重要鉱物)

だが、この3つの要因の背後には、もう一つの見えにくい制約がある。

Minerals(重要鉱物)、すなわちレアアースだ。

レアアースは世界の採掘量の約70%、精錬・化学処理では90%以上を中国が占めている。米国地質調査所によれば、米国が2024年に使用した希土類元素の約80%は輸入だった。

精密兵器は見えない資源を消費する。

ホルムズ海峡上空を飛ぶトマホーク巡航ミサイル、テヘランを監視するF-35戦闘機、湾岸に展開するイージス艦。これらの誘導装置やセンサーにはレアアース磁石が不可欠だ。

ミサイルが発射されるたび、戦闘機が出撃するたび、目に見えない在庫が減っていく。

米国の軍事用レアアース備蓄の正確な規模は公表されていないが、一部報道では数ヶ月規模にとどまる可能性が指摘されている。

さらに問題なのは加工工程だ。CSISは、レアアースの「金属化・合金化プロセス」を中国の外で再現することが最大のボトルネックだと指摘する。鉱石から防衛グレードの磁石を作るには長年の技術的ノウハウが必要であり、「資金を投じるだけでは解消できない」と同研究所は分析する。

Meeting(首脳会談)

そしてもう一つのMが、Meeting(首脳会談)。

4月にはトランプの北京訪問が予定されている。

エネルギー専門メディアOilPriceの分析によれば、トランプ政権はイラン指導部の「斬首」を成し遂げた後に交渉テーブルにつくことで、新たな貿易協定を迫るシナリオを描いているとされる。

だが習近平は、その軍事的勝利を無力化しかねないカードを手にしている。永久磁石の輸出制限という選択肢だ。中国はいまも永久磁石生産の約90%を握っている。もしこのレバーが引かれれば、米国の防衛産業基盤はF-35から次世代ドローンまで、サプライチェーン全体で影響を受ける可能性がある。

弾薬、市場、中間選挙、レアアース、そして外交日程。戦場の時間は、弾丸よりもむしろ、サプライチェーンと政治日程によって計られている。