領土割譲してもプーチンは戦争止めない──ロシア専門家が警鐘

6
FotoField/shutterstock

ウクライナが領土割譲を受け入れたとしても、プーチン大統領が戦争を終える可能性は低い──。トランプ政権一期目に国家安全保障会議で欧州・ロシア担当上級顧問を務めたフィオナ・ヒル氏が、英インディペンデントのポッドキャストでそう警告した。

ヒル氏は「ロシアはいまや完全な戦争動員国家」になっており、「プーチンの経済、社会、政治、そして自己保身のすべてが戦争継続に結びついている」と指摘。「プーチンがどのように戦争を止め、平時体制に移行するのかは極めて見通しにくい」と述べた。

ヒル氏は、前線から復員する兵士たちが抱える深刻な負傷や武装化に触れ、社会の暴力化・犯罪化がさらに進む危険性を強調。「重傷の帰還兵や武器を扱える退役軍人が大量に戻れば、ロシア社会はより暴力的になり、プーチンが平時へ移行するコストはさらに高くなる」とした。

また、ロシア経済はすでに戦時体制に組み込まれており、「この方向性を変えることは極めて難しい」とも語った。

ロシア国内では戦争疲れの世論が広がっており、経済界や官僚エリートの間にも終戦を望む声はあるという。しかしヒル氏は、「プーチンこそが唯一“戦争をやめたくない人物”になっている」と断言。「プーチンにとって戦争を続ける方が、止めるよりもはるかに容易」であり、それは「自己保存と“帝国的大統領制”を維持するための戦い」だと分析した。

Advertisement

■ウクライナが譲歩しても戦争は終わらない

米国の和平案草稿では、ウクライナの領土割譲や軍縮に近い項目が含まれていると報じられ、事実上の降伏につながるとの批判が出ている。

これについてヒル氏は、仮にウクライナが現在の占領状況を認めたとしても「それで戦争が終わるわけではない」と強調した。

その理由として、

「プーチンは軍備縮小をするつもりがなく、ロシア経済の方向性も変えられない。さらに欧州諸国との関係は修復不能なほど悪化している」

と説明した。

戦争を終わらせる現実的な可能性は、「ウクライナが前線を完全防御可能にする」か「ロシアの戦争継続能力を資源面・経済面から徹底的に締め上げる」のどちらかだが、ヒル氏は、プーチンは西側にはその達成は不可能と睨んでいるとの見方を示した。

ヘルシンキや大阪で米露首脳会談に立ち会ったヒル氏は、トランプとプーチンの心理的関係にも言及した。

トランプはプーチンを「すべてを牛耳る“悪いヤツ”」として羨望しており、プーチンや習近平国家主席らと並ぶことで自分が格上げされると考えているという。ヒル氏はこれを「マン・クラッシュ(男の憧れ)」と表現する。

プーチンは、こうしたトランプの弱みを知り尽くし、非常に脆いエゴに満ちた「操れる人間」であると見抜いているという。しかし、長らく噂されるプーチンがトランプを貶める情報(コンプロマート)を握っているかについては、「そんなものは必要ない」と否定。トランプは「開いた本」のような人物で、誰でも弱みを握れる状態にあると語った。

なお、米ウクライナ協議をもとに、今週にもトランプ氏のビジネス仲間であるスティーブ・ウィトコフ特使がプーチンに和平案を提示すると報じられている。しかし、ロシア側が合意に応じる可能性は依然として低いとみられている。