米東部時間3月18日午後2時、ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は政策金利を据え置くと発表した。金利レンジは3.5〜3.75%で、決定は11対1で賛成多数だった。
発表の約7時間前、予測市場Polymarketで不自然な大口取引が確認された。対象となったのは「FRBは3月会合後に0.5ポイント(50bp)以上の利下げを実施するか」という契約で、発表直前まで市場が示す確率はほぼ0%に近かった。
ところが午前7時過ぎ、匿名ウォレット「Vengeful-Recess」が約576万ドルをこの低確率の選択肢に投入。同市場では、すでに「Awkward-Armadillo」が約411万ドルを、また「Talkative-Killer」が逆方向の「利上げ」シナリオに約526万ドルを賭けていた。3つのウォレットの合計取引額は1,513万ドル(約22億円)に達したと推計される。
FRBの発表結果は「据え置き」。3者はいずれも損失を被る形となった。
高額ベットの背景
特に注目されるのが「Vengeful-Recess」の動きだ。取引履歴を見ると、61件中60件は数百〜数千ドル規模の小口取引に過ぎない。それが今回に限って、576万ドルを一度に投入している。通常のリスク管理から見れば説明不能なサイズに思われる。こうした急激なポジション拡大は、予測市場ではしばしば注目されるシグナルの一つでもある。
一方、「Awkward-Armadillo」は以前から確認されている常連ウォレットで、2月には「ジュディ・シェルトンが次期FRB議長に指名されるか」という契約(当時の予測確率1〜2%)に約250万ドルを投じていた。このポジションは現在も解消されていない。
FRB人事をめぐる思惑
CNBCの報道によれば、共和党のティリス上院議員は依然として、トランプ大統領が指名した次期FRB議長候補ケビン・ウォーシュの承認に抵抗している。また、司法省とパウエルを巡る法的対立が長期化すれば、現体制の延命、あるいは別候補の再指名という展開も排除されていない。
Polymarketでは現在、「シェルトンが次のFRB議長に承認されるか」というマーケットに対し、複数のウォレットが合計500万ドル超を投じている。
規制強化の動き
こうした一連の動きは、予測市場に対する規制強化の議論とも重なる。
前日の3月17日、ジョン・ヒッケンルーパー上院議員とクリス・マーフィー上院議員が、政府行動や軍事作戦への賭けを禁止する法案「BETS OFF Act」を提出した。イランやベネズエラでの軍事行動直前に発生した大口ベットで、政権関係者による情報利用が疑われた事例が背景にある。
マーフィー議員は法案提出にあたり、「予測結果を知っている、もしくはコントロールできる人物が賭けられる予測市場は、腐敗の温床になることは避けられない。さらに悪いことに、予測市場は誰が利益を得るかによって政府の意思決定が左右される温床にもなる。それは米国民にとって許しがたいことだ」と述べた。
法案は、政府関係者が政策決定によって私的利益を得る構造を防ぐ狙いを持つ。予測市場が意思決定を歪める可能性について、議会や規制当局の関心が高まっている。
予測市場の限界
しかし、今回の一連の取引が示すのは、大口は必ずしも正解ではないという点だ。政治イベントによっては情報優位が機能しやすいが、金融政策のように結果が直前まで変動し得る領域では、情報を持つ大口投資家であっても予測を的中させることは難しい。
それでも、なぜ発表7時間前に576万ドルが動いたのか。その答えは当事者だけが知っている。もっとも、この種の取引が繰り返される限り、予測市場の透明性と公平性をめぐる議論は今後も続くことになりそうだ。
取引データはPolymarket Data APIより取得・分析。当該ウォレットの取引履歴は同APIで公開されている。 Vengeful-Recess: 0xd48165a42bb4eeb5971e5e830c068eef0890af35 Awkward-Armadillo: 0x47b5d2d7eff10aecabc749ed41ccff97e9c9a045

