「首相死亡説」に約800万ドル——期限はあと7日。
米・イスラエルによるイランとの軍事衝突が続く中、SNSで拡散したベンヤミン・ネタニヤフ首相の死亡説が、海外の予測市場に異様な資金の流れを生み出している。
死亡説の拡散と予測市場の乱高下
米・イスラエルがイランへの軍事作戦を開始した2月28日以降、イラン国営メディアや親イラン系アカウントはネタニヤフ首相の死亡を示唆する情報を流し続けた。予測市場Polymarketの「Netanyahu out by March 31?」マーケットはその動きを敏感に反映。3月3日には確率が一時24%に達した。
3月12日にはネタニヤフが公開した演説動画に「指が6本に見える」フレームがあるとして、SNSでフェイク疑惑が拡散。この間、予測市場の確率は乱高下(24%→1.5%→19%→2.8%)を繰り返した。
3月15日、ネタニヤフ自身がエルサレム近郊のカフェ「The Sataf」での動画をXに投稿。カメラに向かって5本の指を広げ、「指を数えてほしいか?」と皮肉った。カフェも同日、来店を確認する写真と動画をSNSに投稿し、死亡説は収束するかに見えた。しかしイラン革命防衛隊系のTasnim通信は翌16日、「カフェ動画もAI生成だ」と反論。GrokがDeepfakeと誤判定したことも重なり、混乱は再燃した。
収束後も動いた大口資金
この一連の混乱の中で、予測市場に大量の資金が投じられている。
3月14日——死亡説ピーク時——確率6%の段階で、「Embarrassed-Pantyhose」「0x1abe…」など複数のウォレットが合計約34万ドルを投入した。
3月15日のカフェ動画投稿で死亡説が収束に向かった後も、大口投入は止まらなかった。
3月16日、「Majestic-Investment」が参入。約50分間で7回、総額344万ドルを分割投入した。最初の2回(計66万ドル)を確率4%で投入した後、自らの買いによって確率が5〜6%に上昇しても購入を続けた。
通常、価格を押し上げながら買い続ける行動は、短期利益よりもシグナル生成を意図した取引と整合的だ。
確率1%に72万ドル
最も異様なのは3月23日の動きだ。死亡説はすでに否定され、市場確率は1%まで低下していた。
にもかかわらず「Clever-Bog」が72万ドルを一発投入。「Used-Wholesale」も42万ドルを追加した。
期待値的にはほぼ無価値に近いポジションに、通常では考えにくい資金が流入している。Clever-Bogの取引履歴はわずか2件(ネタニヤフ退陣とFRB利下げ)。このような構成は、特定テーマに絞ったウォレット運用とも整合的だ。
「トランプ失権」との並行ベット
「Used-Wholesale」の取引も興味深い。このウォレットはネタニヤフ退陣マーケットへの約50万ドルの投入と並行して、「Trump out as President by March 31?」に30万ドル、「Trump out as President by June 30?」に11万ドルを投じていた。いずれも確率1〜9%の低確率マーケットだ。
これは、ネタニヤフ政権の崩壊と米政権の不安定化を同一の連鎖とみる視点を浮かび上がらせる。
3つの解釈
この資金フローはどう解釈できるのか。考えられるのは3つだ。
① シグナル主導の投機
確率を意図的に押し上げ、市場参加者の追随を誘発。その後に高値で売り抜ける戦略。ただし現在の価格推移を見る限り、完全な成功には至っていない。
② SNSとは別の情報回路
死亡説が否定された後、さらに確率1%でも資金が流入している点は、公開情報とは別の判断材料の存在と整合的だ。ただし、その実在は確認されていない。
③ 規制前の“駆け込みベット”
3月17日に提出された「BETS OFF Act」は、政府行動や軍事イベントへの賭けを制限する内容を含む。現時点で成立の見通しは不透明だが、規制強化前のポジション構築という動機も否定できない。
予測市場は誰のもの?
法案を提出したクリス・マーフィー上院議員はこう指摘する。
「結果を知り得る、あるいは影響を与え得る者が参加する市場は、腐敗の温床になり得る」
実際、過去には軍事行動直前の大口ベットが問題視されたケースもある。
つまり、予測市場は単なる「予想の場」ではなく、インサイダー疑惑も含む情報と資金が交差する戦場ということだ。
3月31日の結果は単なる的中・外れではなく、それ自体が情報になる。確率1%の段階で800万ドルが動いた理由が、結果によって浮かび上がるかもしれない。
※取引データはPolymarket Data APIより取得・分析。当該ウォレットの取引履歴は同APIで公開されている。
※本記事は予測市場の動向分析を目的としたものであり、特定の取引や参加を推奨するものではありません。

