問題は深海より深かった――ネトフリ新作『潜水艦タイタン:オーシャンゲート社が犠牲にしたもの』

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Credit:oceangate

今週Netflixで配信が始まった新作ドキュメンタリー『潜水艦タイタン:オーシャンゲート社が犠牲にしたもの』は、”ネクスト・イーロン”を目指すような人物のマインドセットを垣間見られる点で興味深い。

その人物は、潜水艇と運命を共にした同社CEO、ストックトン・ラッシュ氏だ。ラッシュ氏は、アメリカ独立宣言の署名者を祖先に持つ由緒ある家系の出身で、妻ウェンディ氏もまた、皮肉なことにタイタニック号で命を落としたメイシーズ百貨店の共同創業者夫妻の玄孫にあたる。調査報道ジャーナリストのマーク・ハリスは作品中、夫妻は上位1%に属する上流階級だと指摘している。

ラッシュ氏はイーロン・マスクやジェフ・ベゾスを「big swinging dick(大物の俗語)」と称賛し、自らもそうなると公言していた。その手段が、誰も成し遂げていない炭素繊維製の深海潜水艇を開発し、タイタニック号見学ツアーを実現することだった。しかし、この革新的に見えた素材は、深海の過酷な圧力に耐えるにはあまりに脆弱だった。ラッシュ氏はデータと専門家たちの警告を無視し、反対する技術者を解雇しながら、潜水艇に乗客を乗せ続けた。結果、2023年6月、タイタン号は潜航中に崩壊し、自分を含む5名が死亡する惨事となった。

ラッシュ氏にとって規制は革新を妨げる障害であり、国際水域での操業や、乗客を「搭乗運用技術者(mission specialists)」と呼称する戦略にも、その思想が反映されていた。深海探査の専門家ロブ・マッカラム氏によれば、乗員と乗客では海上の運航規則が異なるため、ラッシュ氏は法の抜け道を利用していた可能性がある。有料で乗客を乗せるには、第三者機関による「船級」認証が必要だが、彼はこれを取得しないまま、実験的な艇に“実質的な乗客”を乗せ続けた。

本作は、こうした事故に至るまでの8年超にわたる過程を丁寧に検証し、その根本原因を探る構成となっている。元従業員の証言や現存する映像資料を軸に進行する本作は、調査報道番組のような知的なトーンを持ち、ドキュメンタリーとしての重厚さを損なわない。音楽演出がやや過剰に感じられる部分もあるが、事故の深刻さを際立たせる役割も果たしている。「パキ」「パチ」と鳴る、潜航中に炭素繊維が音を立てて壊れていく効果音は、終末の足音を告げる不気味な予兆として機能しており印象的だ。

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作品中に公開されるラッシュ氏の問題発言には驚くものもあるが、事件自体はこれまでメディアによって広く報道されてきたため、熱心に追ってきた視聴者にとっては目新しい事実が少ないと感じるかもしれない。インタビューに応じた元従業員や専門家の多くは、2023年9月に行われた政府の公聴会ですでに証言しており、その内容もすでに広く知られている。妻やオーシャンゲートの出資者、取締役など利害関係者の言い分も聞きたいところだが、遺族が民事訴訟を起こしている現状や、調査委員会の結論次第で刑事事件化もあり得るため、出演は難しいだろう。

ラッシュ氏を最大の悪役とする構成は妥当だが、作品後半でやや失速感を覚えるのは、彼一人の問題にとどまらない、より大きな構造的問題がほのめかされるからかもしれない。資金力のない者を守れない内部告発者制度と監督当局の機能不全(労働安全衛生庁の調査官が、抱えている調査案件が多すぎるという理由でオーシャンゲート社の告発調査を中断する)、無批判な大手メディア(CBSのベテラン記者が「注目を集めたがる男が記者を危険に晒すはずがない」と発言)など。有力者の搾取を許す社会構造の欠陥について、作品は示唆するに止まっている。タイタン事故に人々がとりわけ強い関心を寄せた背景には、単に金持ちの転落をほくそ笑む感情だけでなく、特権階級への根深い不信や、社会的格差への苛立ちがあったのではなかったか。

そうした視点を掘り下げていれば、作品にもっと深みが出たようにも思う。それでも本作は、イノベーションの名を借りた商業主義がもたらす危険性やカリスマを盲目的に信じる危うさといった、時事的で教訓的なテーマを描いた作品として、十分に見応えがある。