映画『バービー』アカデミー監督賞と主演女優賞ノミネート逃したワケ

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昨年、映画界の話題を独占したコメディ作品『バービー』のアカデミー賞ノミネートを巡り、米複数メディアは、最大の期待ハズレと報じた。

作品賞候補には残ったものの、グレタ・ガーヴィグとマーゴット・ロビーはそれぞれ、監督賞と主演女優賞の候補者入りを逃した。ガーヴィグと夫のノア・バームバックは、脚色賞のノミネートを獲得している。

助演男優賞にノミネートされたケン役のライアン・ゴズリングは声明で「才能やガッツ、類いまれな能力がなければ、この映画は評価されなかっただろう」と述べ、今回の選考結果に「落胆した」と不満を示した。

『バービー』は、全世界の興行収入が、女性監督として過去最高の14億ドルを突破。商業的な成功を収め、評論家の評価も高かった。

公開当時、「創意に富み、完璧に作られた驚くべきメインストリーム映画」(インディペンデント紙)「企業のプロパガンダ作品であっても無茶苦茶楽しめる」(NPR)「今世紀で最も破壊的なブロックバスター」(ローリングストーン誌)「凄まじい面白さで、深いフェミニストのアドベンチャー」(Entertainment Weekly)などの肯定的な批評が相次ぎ、口コミサイトRottenTomatoでは、88%の映画評論家が「Fresh」(素晴らしい)の評価を下した。

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少数派ではあるが、批判的な意見として「完全なアンチ男性映画、あらゆる形態の男らしさを有害で略奪的として描くTikTokフェミニズムの延長。・・男性を物語から完全に排除するために書かれた文化的復讐手段」(デイリーメール)「とても可愛らしいが、それほど深くない」(タイム誌)「有色人種のキャラは、ステレオタイプなバービーとケンの物語を進化させるデバイスとして使用された」(デッドライン)などの指摘が寄せられている。

監督賞と主演女優賞候補外れたワケ

『バービー』のノミネーション結果について、専門家は次のように分析している。

文化評論家のアニ・ブンデル氏はMSNBへの論説投稿で、『バービー』と『オッペンハイマー』は共に、男女それぞれのバリューを描いた作品だとし、「女性が価値があると考えていることは、必ずしも重要だとみなされないことを地味に思い出させてくれる」と性差別の可能性を指摘した。「われわれがどれほど前進したとしても、ゴールラインは移動しており、常に2位を与えられる」とも述べた。

「原爆の父」ロバート・オッペンハイマーの伝記映画『オッペンハイマー』は、作品賞や監督賞、主演男優賞など最多13部門でノミネートされた。

一方、カルチャーコラムニストのカイル・ブキャナン氏はニューヨークタイムズの記事で、フランスの女性監督ジュスティーヌ・トリエ氏の作品『落下の解剖学』(Anatomy of a Fall)が監督賞のノミネートを獲得していることから、『バービー』の監督賞の除外は、性差別の問題とは言い難いと指摘。コメディ作品は「オスカーで賞を獲得するのに苦労する」傾向があることに加え、女性を主役に起用したコメディについても「乗り越えるべき、さらなるハードルがある」と見解を述べた。

監督部門は587人の投票者によって候補作が決定されるという。ブキャナン氏は、投票者のうち女性はわずか4分の1で、「高尚な」グループの人々は、「メインストリームのスタジオ作品を拒否する可能性が非常に高い」とも主張。93か国の会員が投票に参加するなど「国際化」が進んだことも理由の一つだろうと加えた。

先のブンデル氏によると、過去に主演男優賞や主演女優賞、監督賞のノミネートを逃した作品で、作品賞を受賞した例は「ほとんどない」という。

『バービー』は、そんなジンクスを打ち破ることになるのだろうか。アカデミー賞授賞式は、現地時間の3月10日(日本時間11日)に開催される。