MAGAエコシステムに異変 右派論客の対立が加速

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lev radin/shutterstock

トランプ支持層(MAGA)を代表する右派論客の間で、深刻な対立が表面化している。

保守系インフルエンサーのキャンディス・オーウェンスは、YouTubeに投稿した1時間超の動画で、保守系メディア「デイリー・ワイヤー」共同創設者のベン・シャピーロを強く批判した。

発端となったのは、先週Turning Point USA(TPUSA)が開催した年次イベント「AmericaFest」でのシャピーロの演説だ。シャピーロは壇上で、オーウェンスや白人至上主義的発言で知られるニック・フエンテスを名指しし、「陰謀論と不誠実さを広めている」と非難した。また、タッカー・カールソンやメーガン・ケリーらがオーウェンスを公然と批判していない点についても言及し、「沈黙は許されない」とする立場を示した。

これに対しオーウェンスは、自身の処遇や過去の対立を引き合いに出しながら反論。イスラエル政策をめぐる発言をきっかけにデイリー・ワイヤーとの関係が決裂した経緯についても語り、その過程を「奴隷の首吊り」や「プランテーションからの脱却」といった比喩で表現した。

動画の中でオーウェンスは、シャピーロやその周辺が「自分たちを『契約の領主』だと考えている」と批判。「契約を破れば何年にもわたって人生を破壊できると信じ、人を解雇した後も執拗に追い回し、嫌がらせを続ける」と述べ、「私はこれ以上沈黙しない」と強調した。

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さらにオーウェンスは、シャピーロが自らを「タルムード的ユダヤ人」と表現している点に言及し、19世紀に出版された反ユダヤ主義的文献『Der Talmudjude(タルムードのユダヤ人)』の英訳版を示しながら主張を展開した。

Jerusalem Postによると、同書は1871年にカトリック神学者アウグスト・ローリングによって著されたもので、ユダヤ人がタルムードに基づき非ユダヤ人に対して不正行為を行うと主張している。著者は後に名誉毀損訴訟で信用を失っており、同書は現在では反ユダヤ主義文献の典型例とされている。

オーウェンスはさらに、米国の奴隷貿易や民族対立をめぐる歴史についても反ユダヤ主義的な主張を展開し、「黒人アメリカ人に言いたい。あなたたちの本当の歴史を知れ。あなたたちの争いの相手は白人男性ではない」と訴えた。

一連の発言に対しては、左派・リベラル層からも批判が相次いでいる。人気ストリーマーのHasanAbi(ハサン・ピカー)は、動画が短期間で180万回以上再生されたと指摘した上で、「これまで遭遇した中で最も狂気の反ユダヤ主義に満ちている」と述べるなど強い懸念を示した。

また、政治トーク番組「The Majority Report」のホスト陣は「完全な虚偽」「視聴者を意図的にミスリード」と批判。CNNのジェイク・タッパーもX(旧Twitter)で、「ウソと偏見デマに頼る凶暴な反ユダヤ主義者が保守人気論客とは狂気だ。有力保守が支持か沈黙なのも残念」と投稿した。

一方で、シャピーロの演説をめぐっては、メーガン・ケリーやタッカー・カールソンから「言論の排除(ディプラットフォーム)」との反発も出ている。TPUSA創設者チャーリー・カークの死後、彼の存在を軸に保たれてきた結束が個人間の対立によって弱まり、MAGA系メディアが転換点を迎えているとの見方も広がっている。