対立激化:マスク氏が突いたトランプ氏最大の急所とは

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Joshua Sukoff/shutterstock

「大きくて、美しい法案」をめぐるトランプ大統領と実業家イーロン・マスク氏の対立は、ついに個人間の激しい応酬へと発展した。

マスク氏は、6月5日にホワイトハウスで行われたトランプ氏の記者会見を受け、自身のX(旧Twitter)アカウントに「自分がいなければ、トランプは選挙に敗れていた」と投稿。「民主党が下院を支配し、共和党がわずか51対49で上院を支配していた」、「これほど恩知らずな人物はいない」と立て続けに非難した。

トランプ氏は会見で、法案を「醜悪だ」と評したマスク氏の姿勢について「驚いた」「失望している」と述べた。一方で、昨年の選挙におけるマスク氏の支援には感謝の意を表しつつ、「いずれにせよ楽勝だった」と述べ、選挙結果に対する貢献を軽視するような発言も見せた。さらに、マスク氏が法案に反発している理由は、EV(電気自動車)への税制優遇措置が削減され、テスラに不利な内容となっているからとの考えを示唆した。

自身のSNS「Truth Social」では、政府によるマスク氏の企業との契約打ち切りの可能性を示唆するなど、対立はさらに先鋭化している。

その後もマスク氏は攻撃のトーンを強めている。爆弾投下と称して、ジェフリー・エプスタインのファイルが公開されない真の理由はトランプ氏が含まれているからだと主張。さらに、「トランプは弾劾され、JD・バンスがその座を引き継ぐべきだ」とするXユーザーの投稿を共有するなど、政権批判を強めている。

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こうした展開について、トランプ政権一期目でホワイトハウス広報戦略官を務め、数ある決裂を目の当たりにしてきたアリッサ・ファラー・グリフィン氏は、CNNの番組内で、今回のケースは「実に深刻」と指摘。マスク氏による投稿内容を挙げ、「ドナルド・トランプの名前がエプスタイン・ファイルに含まれるという主張や、彼が次の四半期に景気後退を招くとの指摘」があるが、トランプ氏に「最も効いた攻撃」は、「本質的に彼をレームダック大統領呼ばわりしたことだ」と語った。

「レーム・ダック(Lame Duck)」とは、任期末期や政治的求心力を失い、事実上の影響力を喪失した政権を指す。

グリフィン氏は、「彼は3年半ここにいるが、私は40年間ここにいる」とマスク氏は言っているのだと続け、「ドナルド・トランプが恐れているのはまさにこれだ」と主張。「もし法案が基準に満たずに可決されなければ、彼の立法課題のすべてが台無しになる。中間選挙はほんの少し先だ。彼は、これが今起こりうる最も大きな損害だと理解しているのだ」と語った。

さらに、共和党議員の間に広がる波紋にも言及した。

「中間選挙を控えている議員なら、法案を支持することで、自らの選挙区に無限の資金を投下できるイーロン・マスクとの対立は避けたい。選挙のない議員なら、様子を見るかもしれない。ドナルド・トランプの機嫌を損ねたくないし、彼(マスク氏)の側につくつもりはないと言うかもしれない。でもこの対立を受けて、今まさに多くの議会メンバーが、トランプ氏の目玉法案についてどの立場を取るべきか、議論を重ねている」。